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【清水みなとの旭川ラーメン】

【清水みなとの旭川ラーメン】
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2006 年 2 月 14 日の日記再掲

子どもの頃、大好きなラーメンが郷里静岡県清水にあった。

清水はもちろん東京でも食べたことのない珍しいラーメンであり、それは醤油スープが透き通っていない、ややどろっとして濁ったスープだった。今では珍しくも何ともないけれど少年だったその頃には物珍しかった。

少し苦いような底味があり、かすかに四つ足動物ではなく魚介や昆布の味がしたように思う。 

母は他界する直前まで醤油ラーメン、一貫して澄んだスープのが好きな人だったので、そのお店のラーメンを好まなかったけれど、店主夫婦とは仲良くしていた。

ガスを用いず、スープの仕込みも麺茹でも薪をかまどにくべて行うのであり、毎朝薪を割る音が聞こえ、煙突から煙が吹き出すと、店の周囲にはスープのダシをとる良い香りが漂っていた。木材ゴミが出ると喜んで燃料にしてくれるので母はとても助かっていた。

住宅街の路地に行列ができるほどの隠れた人気店だった。小さな身体で小さな店をてんてこ舞いで切り回しつつ出前も厭わない働き者夫婦だったけれど、体力も衰え、店をたたまれて久しい。

■東京都千代田区神田鍛治町、旭川ラーメン『旭龍』。高架下というのはラーメンの激戦区である。
撮影日: 2006.02.10 11:53:40 AM
SONY DSC-F88

東京都千代田区神田鍛治町。数年前から人気の旭川ラーメン、旭川「加藤ラーメン工場」の直営店が東北上越新幹線ガード下にあると聞いて、仕事の打ち合わせ前に寄ってみた。

カウンターだけの小さなお店を若い娘さん一人で切り回しておられ、店内に入ってカウンターに座ると予想通り、子どもの頃清水で嗅いだあのスープの匂いがした。「撮影禁止」と店内にたくさん貼り紙があるのでカメラはポケットにしまってひたすら食べたけれど、味もまた懐かしい清水のそれだった。

「加藤ラーメン工場」の創業に源を発する家系図が壁に掛けられており、初代は子だくさんだったらしく、息子や娘が旭川ラーメンの名を全国に広めて行ったことがわかる。一度行ってみたい旭川『蜂屋』の名前がそこにあることにも驚いた。

■東京都千代田区神田鍛治町、旭川ラーメン『旭龍』の入口。店内は撮影禁止。
撮影日: 2006.02.10 11:53:52 AM
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■東京都千代田区神田鍛治町、旭川ラーメン『旭龍』のメニュー。店内は撮影禁止。
撮影日: 2006.02.10 11:53:58 AM
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そして撮影を遠慮したので記憶が頼りだけれど、五男は大阪で商売をされ、その店名が清水にあった僕の好きな店と同じなのにも「えっ?」と思った。ありがちな名前なので偶然だろう。

清水でまさに旭川ラーメンそのものの味で商売されていたご夫婦は、麺にもこだわって毎日手打ちされていた。母によればご夫婦は事情があって北海道から駆け落ちし、清水みなとにたどり着いて浜田踏切近くでラーメン屋台を引き、やがて店を構えられたのだという。

そんな話を聞かせてくれた母も他界してしまったのでさらに詳しい話は聞けない。
2月11日の帰省時に、閉店後のラーメン屋をしばらく引き継がれた方のご家族にお話をうかがいに行ったら、母に聞いた話しに間違いないという。

そして歳を取られたご夫婦は清水を引き払って北海道に帰り、数年前にご主人は北海道で亡くなられ、奥さんはいまも介護が必要にはなったが健在で北海道で暮らされているという。暖かな港町から北の国に帰られたわけだけれど、駆け落ちというからには後ろ髪引かれながら愛する故郷を出奔したに違いなく、北海道から振り出したラーメン人生のゴールが北海道で良かったな、と思う。

■東京都千代田区神田鍛治町、麺家『大勝軒』。なんと『大勝軒』がこんな場所にできて、いかにも『大勝軒』らしい匂いを漂わせていた。「九十九里産の煮干(片口鰯・真鰯・鰺・飛魚)」を使っていると大書しており、こちらも僕の好きな魚介系である。うーん激戦だ。
撮影日: 2006.02.10 11:57:41 AM
SONY DSC-F88

「どうして北海道から駆け落ちする先に清水を選ばれたのですか?僕を驚かせ、清水っ子を行列させたあのラーメン、実は今東京で評判の『旭川ラーメン』だったのではないですか?」
と聞いてみたい気もするけれど、もう声は届かない。

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