リメイク


Z9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

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英国映画の「生きる LIVING」を観た。
公開されてすぐに観に行った。
黒澤の「生きる」が、個人的にとても重要な作品であったから、そのリメイク版は観ておく必要があった。
(以下ネタバレあり)

正直評価が難しいな・・と思った。
作品としてはよく出来ているのだろう。
俳優もいいし、シナリオもよく練られている。
しかしオリジナルを何度も観ており、先の展開がすべて分かっているため、どうしても「普通」に見ることが出来ない。
当時の英国に合うよう設定にいくつか変更はあっても、基本的にオリジナルのストーリーに忠実に作られているため、余計にそう感じてしまった。

一方で英国の実情に合っていないのか、カットされたシーンもある。
主人公がヤクザに脅される場面などは、個人的には今でも時々思い出すシーンであり、ちょっと楽しみにしていたのだが、完全に削除されてしまった。
そういったことが、最初から最後まで繰り返され、普通に鑑賞することが出来なかった。

しかも重要なシーンで、普段愛聴しているヴォーン・ウイリアムズが使われたので、エッとなった。
まあイギリス映画だから堂々と使ってもらっていいのだが、場面よりそちらに気がいってしまった。
一番大切なシーンで、よく知っているメロディが流れてきたら、いくら映像に合っていたとしても、意図したはずの効果が飛んでしまう。
という訳で、あくまで僕の場合だが、上手く乗る事の出来ない作品となってしまった。

黒澤明の「生きる」は、黒澤の中でも、本当に特別で重要な作品なのだ。
脚本のカズオ・イシグロ氏自身、「生きる」を子供の時に見て強い衝撃を受けたと言っている。
僕も小さい時に、父親から「黒澤の最高傑作は「生きる」だ」と言われて育ち、学生時代は劇場で上映されるたびに観に行った。
父親は「生きる」が公開された時に、黒澤監督が何を言いたいのか、はじめて分かった・・と言っていた。

多くの映画好きにとって、「生きる」は特別な作品なのだ。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、人生の指標になった作品でもある。
そう発言する人をかつて何人か見ている。

皆が自分の「生きる」を持っている。
それだけにリメイクは難しいな・・と感じた。
オリジナルには、何といってもゼロから作り上げたエネルギーがあるが、リメイクではその要素は当然失われるのだし・・・

逆に言うと、オリジナルの「生きる」を観ていない人には、この映画は訴えるものがあるかもしれない。
オリジナルは今となっては演出やテンポに古い部分が多いと思うが、こちらは最新の映画で、現代の文法にのっとって作られている。
まっさらな状態で観ることが出来れば、心に訴えるものの多い作品なのではないか。
と、僕には推測するしかないのだが、どうなのだろう・・・
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