残すな。


SIGMA DP2

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食べ物を残してはいけない・・親からそう言われて育った。
お百姓さんに申し訳が無い・・
同じ事を言われて育った人は多いはずだ。

子供の頃、友人の家に遊びに行くと、彼の母親が僕を歓待してくれた。
家ごとに風習のようなものがある。
そこの家では、とにかく次々にご馳走が出てきた。
それも食事のメインといっていい重量級の料理が、後から後から出てくるのだ。

まずスープが出てきて、次にステーキが出てくる。
デザートを挟んで今度はお寿司が出てくる。
その次に中華の炒め物とご飯が出てくる。
僕はそれを一生懸命食べた。
とにかく残しては失礼だと思い、親の言いつけ通り、きれいにたいらげた。

次に出たウナ重を完全に食べきると、友人の母親は、さすがに驚いた顔をした。
その表情には「た・・食べた」という言葉が浮かんでいた。
そして慌てて台所に引っ込むと、次にラーメンを作って持ってきた。

僕は「もう食べられません、もうこれ以上出さないで下さい」と頼んだが、「いえいえ、そんな事言わないで、遠慮せずにどんどん食べてくださいね」と言って、聞いてくれない。
気持ちが悪くなりながらも、僕は必死になって食べ物を口に運んだ。

友人の家に行くたびに腹が膨らんで動けなくなった。
さすがに食べきれずに残すと、友人の母親はやっと満足した顔をした。
敗北した僕の方は、罪を犯したような気分で落ち着かなかった。

ずっと後になって、どうやらあの家では残すのが礼儀らしい・・ということに気付いた。
食べ残して見せることが、これで満足いたしました・・という意味になるのだ。

結婚してMrs.COLKIDの実家に遊びに行くようになり、新鮮な農作物を食べる機会が増えた。
つい先ほど畑でとってきた野菜や、天日干しして特別に作ったお米・・・
那須は寒暖の差が激しいので作物が美味しい。
ある意味、非常に贅沢な食事である。

しかし僕も歳で、糖尿を患う身でもあり、子供の頃のように大量に食べることはできない。
ご飯粒を残さないようにと一生懸命食べていると、Mrs.COLKIDが、身体に良くないから、そんなに食べなくてもいいと言う。
義父からも、無理して食べずに残すようにと言われた。

僕はビックリして思わず声を上げた。
お百姓さんに申し訳ないからと言われ、長年残さずに食べようと心掛けてきた。
それなのに、当の農家の人から「残せ」と言われたのだ。
その時僕が受けた衝撃が、わかっていただけるだろうか?
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