職人


D3X + Carl Zeiss Distagon T* 21mm F2.8 ZF

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非常に気難しい初老の男性と海外に出張したことがある。
今時珍しいくらいの職人気質の人で、あまりに頑固であるがため、あちこちでトラブルを起こしていた。

しかし機械加工の腕は抜群なので、仕事を頼む時は、上手くご機嫌をとりながらお願いしていた。
勿論ただおべっかを使うような薄っぺらな人では駄目で、対等に話をしてもらうためには、技術的に対抗できるほどの知識が必要とされた。
どこの現場にもそういう人がいるもので、うまく付き合える人が結局は勝者であるといえる。

しかしそれはそれとして、その人と二人で海外を周った時の苦労といったらなかった(笑)
日常の生活まで何かと面倒を見なければならず、へとへとになったのを覚えている。

ロンドンから帰国する際に、財布に小銭がかなり残っていた。
紙幣じゃないと日本に持って帰っても処分できない。
どうしようかと考えた結果、空港にある小さなカジノで、小銭をすべて使ってしまおう・・ということになった。
どうやらそういう人たちの落としていく小銭を狙って、そこにカジノが用意されているようだ。

カジノといっても置いてある機械は日本のゲームセンターと大差なく、違いは直接現金が出てくることくらいであった。
穴から入れたコインが溝を転がっていき、ゆっくりと楕円状に回っている台の上に落ちる。
タイミングが合うと、台の縁にあるコインが押されて落ちて、それが賞金としてもらえる。
どこにでもある子供だましのそのゲーム機で、我々は小銭を消費しようとした。

ところが予想外のことが起きた。
その男性が上手いのだ。
それも異様に上手い。

考えてみれば当然のことであった。
機械をいじらせたら超一流の職人である。
目測で水平を測る技術や、機械の物理的な動きを読む能力は天下一品である。

男性の計算通り、挿入されたコインは完璧なタイミングで台に落下し、積み重なったコインが音を立てて崩れ落ち、取り出し口から大量に出てくる。
1枚のコインが何枚にも増えていく。
消費するのが目的とはいえ、わざと失敗するなんて事は、職人としてのプライドが許さないのだ(笑)

結局我々は、小銭の詰まった重い袋を両手に持ち、カジノの出口で途方に暮れることとなった。

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