D40 + AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8G

結婚して間もない頃、義兄と田んぼの畦道を歩いた。
足元を流れる用水の透明な流れの中に、義兄はイモリがいるのを次々にみつけて教えてくれた。
生きものを見つける目には自信があったのだが、まったく太刀打ち出来ないのに驚いた。
どうやら長く都会に住むうちに、僕の目はなまってしまったらしい。

さすが山育ちの兄妹だけあり、Mrs.COLKIDも生き物を見つける目は鋭い。
東京の自宅の居間で話をしていた時、Mrs.COLKIDがいきなり真後ろを振り向き、何か動物がそこを通ったと言った。
マンションの部屋の中央を、大きな生きものが横切るわけがない(笑)
半信半疑で家具の裏の隙間をひょいと覗いたところ、すぐ目の前にネズミが潜んでいて、目と目が合い大騒ぎになった。
蓋の破れた空気取り入れ口から進入してきたものであった。

以来彼女の目の方が優れていると悟り、近視と乱視の進んだ自分の目より、Mrs.COLKIDの目を信頼することにした。

大正4年に北海道の苫前というところで、一頭のヒグマにより何人もの開拓民が殺害される凄惨な事件が起きた。
あまりに特異で有名な事件なので、御存知の方も多いと思う。
この事件の現場を見たくて、夫婦で苫前まで車で出かけたことがある。

山道に入る前に、被害者の鎮魂の碑にお供え物をした。
それから、あらかじめ作っておいた現場一帯の詳細な地図を頼りに、ヒグマに襲われた家のあった場所をひとつずつ周った。
今でもヒグマのウロウロしている地域で、誰も住んでいないひっそりとした山の中である。
車から降りても、気味が悪くて離れたところには行けない。

ところが一番大きな被害を受けた現場は、手前で通行止めになり人が入れないようになっていた。
どうしたものかと、その先の荒れ果てた細い山道を見つめたが、さすがに危険なので踏み入るのは躊躇した。
なまじヒグマの習性を知っているがため、よけい怖くて入ることが出来ない。
ここは完全に野生動物のフィールドだ。

その時Mrs.COLKIDが、何かがこちらを見ている気配がする・・と言った。
何だかわからないけれど、生きものがこちらの様子を窺っている・・・と言うのだ。

あらためて一面を緑に覆われた迫り来る斜面を見つめた。
鳥のさえずりだけが聞こえる薄暗い中に、我々二人だけが立っている。
何かに見られているような恐怖は感じていたが、彼女の言葉でそれが確信に変った。

せっかく北海道まで来たが、そこまでで引き返すことにした。
これ以上深入りするのはやめろという警告であろう。
もしかすると被害者の方々の霊が止めてくれたのかもしれない・・と今でも思うことがある。
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