酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

知性、情緒、そして野性~目を瞠る斉藤和義の現在

2012-10-02 23:22:09 | 音楽
 大間原発の建設工事が再開された。知事(野田)では大統領に逆らえない。日本州は住民の願いを聞かず、ワシントンの意に沿って原発ゼロを放棄した。敵の巨大さが明らかになった以上、抵抗する側にはより強固な紐帯が必要になる。脱原発運動の軸になるのは、<独立の精神+プライド=ナショナリズム>かもしれない。

 「終焉に向かう原子力」事務局からメールが先日届いた。12月22日に開催される講演会(豊島公会堂)の告知である。小出裕章氏と広瀬隆氏のタッグとくれば参加するしかない。同行者を募って申し込んだが、既にソールドアウト。段取り人間の俺には珍しく後手を踏んでしまったようだ。講演会の模様がYouTubeにアップされるのは確実なので、疑似ライブで真摯な言葉と向き合うことにする。

 <3・11以降、言葉は以前と同じであってはならない>(論旨)と語った辺見庸は詩集「眼の海」を著わし、岩井俊二や園子温は震災と原発事故をテーマに映画を撮った。いち早く反原発の意志を表明したミュージシャンは斉藤和義で、昨年4月、自身の曲の替え歌「ずっとウソだった」をYouTubeにアップして話題になった。

 斉藤はその後、干されるどころかブレークした。「家政婦のミタ」の主題歌がヒットし、武井咲と東京メトロのCMで共演していた。反骨とコマーシャリズムの同居といえば、忌野清志郎が頭に浮かぶ。斉藤が反原発をどう表現しているのか気になり、YouTubeでチェックすると、中村達也の豪快なドラミングが目に飛び込んできた。

 15年前、斉藤のアルバムを1枚買った。タイトルは「ジレンマ」だったが、帰省の折、亡き妹に恩着せがましく押し付けた。和み系というイメージしかない斉藤、そして野獣系の中村……。ミスマッチに思えた両者が醸す緊張感が心地良かったので、「45STONES」(11年)と中村と組んだマニッシュボーイズのアルバム(12年)を併せて購入した。

 「こんなに凄い奴だったのか」、いや「15年でこんなに凄くなったのか」……。驚嘆と衝撃に感想を肉付けして以下に記したい。まずは「45STONES」から。

 ♯1「ウサギとカメ」と♯2「桜ラブソディ」はタコツボ化したネット、情報に踊らされるだけの日本社会を抉っている。ドライブ感たっぷりの中村のドラムが印象的な♯4「猿の惑星」は衒いのないプロテストソングで、民主党政権と原子力村を攻撃している。“NO NUKES”の叫びが繰り返される♯7「オオカミ中年」も強烈だ。

 ダウナーな♯5「負け犬の詩」、水彩画のような♯6「虹が消えるまで」も心に染みるが、♯9「雨宿り」に打ちのめされた。五十路半ばのやさぐれ中年が、今さら素直に感動するなんてありえないと思っていたが、それが現実になる。

 ♪あなたに会いたいよ 今ここにいてほしい 神様は忙しくて 連れてく人を間違えてる……。3・11以降の世相を踏まえつつ、斉藤は掛け替えのない人の死を悼んでいる。今の俺がこの詞に重ねるのは亡き妹の面影だ。

 マニッシュボーイズの1stは、ワイルドな中村にインスパイアされたのか、咆哮し疾走するアルバムだ。♯2「ダーク・イズ・イージー」、♯3「ラヴ&ラヴ」、レゲエを取り入れた♯7「オー・エミー」と聴きどころが多いが、俺にとってのハイライトは♯4「ダーティー・バニー」だ。中村のドラムがそう感じさせるのかもしれないが、構成、曲調、イメージの放射は、「幸せの鐘が鳴り響き僕は悲しいふりをする」の頃のブランキー・ジェット・シティを彷彿させる。メッセージ性を前面に出した♯11「ないない!」では、野田首相の演説を嗤い、貶めている。

 マニッシュボーイズのツアー日程を眺め、「行けばよかった。でも、俺も若くないからな」と独りごちた。一瞬後、勘違いに気付く。斉藤は46歳、中村は47歳と、同世代とはいわないが、いい年したおっさんなのだ。才能の絶対値がものをいう音楽の世界で、斉藤はデビュー20年を経てさらなるピークに到達したようだ。この間の経緯を知っているファンが羨ましい。
コメント
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