酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

叛逆の燦めきに満ちた「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」

2021-07-01 21:49:06 | 映画、ドラマ
 先月上旬に録画した「新型コロナ全論文解読2~AIで迫る終息への道」(NHK・BS1)ではAIを用い、新型コロナ関連の25万本の最新論文が分析されていた。<ワクチンの有効性>と<変異株の脅威>が2大テーマで、冒頭で国民の6割がワクチン接種を終えたイスラエルの〝成功例〟が紹介される。ワクチンは「N501Y変異」(英国株)には有効だった。

 ところが、「デルタ株」(インド株)の猛威に感染が再拡大したイスラエルで、マスク着用が復活した。英国でもサッカー欧州選手権も相まって1日の感染者が1万人を超える。日本では400人以上の医療関係者がワクチン接種中止の嘆願書を提出したが、ネットで動画が削除された。ワクチンを巡り、不気味な事態が進行しているようだ。

 新宿シネマカリテで「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」(2019年、ジャスティン・カーゼル監督)を見た。19世紀にオーストラリアで名を馳せた〝史上最もパンクな男〟ネッド・ケリーの25年の生涯を追った作品だ。ピーター・ケアリーによる原作はブッカー賞を受賞している。

 ネッド・ケリーは欧米で英雄視されているらしく、ミック・ジャガー、ヒース・レンジャー主演で映画化されている。知識がなかった分、新鮮な感覚で映画に入り込めた。闇と光が交錯する映像に重低音が重なって、怒りや憤りに紡がれたネッドのパルスが浮き彫りになる。少年時代(オーランド・シュワルツ)、そして青年期を演じたジョージ・マッケイの双の目が、闇を舞う魂のように今も脳裏で揺れている。

 広大で荒涼としたオーストラリアの自然が神秘的に描かれ、神話の世界に迷い込んだ錯覚を感じた。本作の背景はイングランドとアイルランドの対立だ。支配階級のイングランド人、貧困状態にとどめられているアイルランド人……。欧州の構図がオーストラリアに敷衍していた。ネッドもアイリッシュの血を受け継いでおり、祖父は流刑者、父は家畜泥棒だ。

 ネッドの母エレン(エシー・デイヴィス)は多くの子を抱え、経済的な理由だけでなく、監視の目を緩めるため、オニール巡査部長に身を任せている。夫の死後、山賊のハリー・パワー(ラッセル・クロウ)にケリーを売り渡す。ネッドはハリーに非情な世界を生き抜く術を教わるが、若くして共犯として投獄されてしまう。出所後、娼館で暮らす子連れのメアリー(トマシン・マッケンジー)と恋に落ちた。

 ネッド、母エレン、メアリーとの間の経緯は後半で明らかになるが、それはともかく、本作は次稿で紹介予定の「本心」(平野啓一郎著)と共通点がある。母と息子の関係が軸になっていることだ。エレンは自分を捨てた淫蕩な母だが、ネッドと分かち難い絆で繋がっている。英雄視されたアウトローを、母、そして家族との絆から描いている。エレンを演じたエシー・デイヴィスがスクリーンに映えていたのは、夫である監督が魅力的に撮影していたことも大きかったはずだ。

 非情な世界観に則った本作は、叛逆の燦めきに満ちていた。ネッドの父だけでなく、ネッドが兄弟や仲間と結成したケリー・ギャングのメンバーはドレスを纏っていた。アイリッシュにとってドレスは戦闘服の一種だったのかもしれない。警官隊に追い詰められたケリー・ギャングの佇まいはユニークで、江戸時代前半、街を闊歩したかぶき者が重なった。彼らは反抗する意志と風俗紊乱で世の中を騒がせたのだ。

 香港、ミャンマー、そして世界中で人々が闘っている。かつて「造反有理」という言葉が世界を勇気づけたが、言葉の発祥国である中国が今や、抑圧者になっている。社会から不正と不公平がなくならない限り、ネッド・ケリーの輝きが失せることはない。
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