酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「オール・ザ・キングスメン」が抉る権力の本質

2007-02-15 01:10:19 | 映画、ドラマ
 オバマ上院議員(45)が米国初の黒人大統領に向け、キャンペーンを開始した。民主党の候補指名争いは、女性初を目指すヒラリー・クリントンとの一騎打ちが予想されている。オバマの動向も気にはなるが、それ以上に注目しているのは反グローバリズムの旗手、ベネズエラのチャベス大統領だ。

 「キリストは史上最高の社会主義者」「社会主義か死か」……。刺激的な発言を繰り返すチャベスが最も物議を醸したのは、国連総会での演説だった。米ブッシュ大統領にチョムスキーの著書を薦めた後、「ブッシュは悪魔」と痛罵した。チャベスは<唯一の強大国アメリカ>に対峙する<南米=アラブ諸国=中ロ連合>形成を模索し、積極外交を展開している。

 1年半の期限付きとはいえ、議会を超越した権力を大統領に保障する「授権法」がベネズエラ国会で成立した。<米資本追放⇒石油&天然ガスのプロジェクト国営化⇒民衆への富の還元>という道筋は絶対正しい。だが、独裁的手法が目立ってきたチャベスに、ある映画の残像が重なってきた。

 ある映画とは、アカデミー作品賞に輝く「オール・ザ・キングスメン」(49年、ロッセン)だ。下層階級の代弁者として政界に打って出たウイリー・スタークが、<権力という玩具>に溺れる過程を描いた作品である。本作でスタークを演じたブローデリック・クロウフォードは武骨さと傲岸さを巧みに演じ分けていた。ショーン・ペンがリメークでいかなスターク像を作り上げたのか興味がある。

 上流階級という出自に負い目を抱く新聞記者ジャック・ハーデンが、語り部を演じている。ハーデンはスタークの不器用さと情熱に打たれ、陣営に加わった。純粋だったスタークは敗北を重ねるうち<力学>を身に付け、知事に当選した頃、既に汚れた政治屋だった。手法に対する批判に、スタークは<善を生むのは悪しかない>と言い放つ。<悪が生む善>を肯定していたハーデンだが、自分にとって掛け替えのない者たちまでスタークの<悪>に冒されていることを知り、愕然とする。<権力への執着=人間性の喪失>であることを、ラストが象徴的に描いていた。

 ロッセンは本作でナチスドイツを戯画化し、ソ連のスターリン信仰を風刺しているが、非米活動調査会に目を付けられた。理想に燃えていた頃のスタークの演説は、明らかに社会主義的であり、ロッセンがかつて共産党員だった事実も明らかになる。召喚されたロッセンは証言を拒否してハリウッドから追放されるが、後に転向し、友人の名を挙げた。ロッセンもまた、赤狩りに翻弄された映画人の一人だった。

 「オール・ザ・キングスメン」の意味を知りたくて検索していたら、「YOMIURI ONLINE」に興味深い記事を発見した。ヘザー・ハワードさんの分析を要約して引用する。

 <童謡集「マザーグース」に、擬人化された卵が落ちて割れ、王のすべての家来 (all the king's men)が努力しても元に戻せなかったという寓話がある。一度堕落したら永遠に元に戻らないことの隠喩ではないだろうか>

 <スターク卵>が割れた時、辺りに腐臭が漂った。<オバマ卵>は棚の上で無傷のままだろう。<チャベス卵>は果たして? 

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