酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

〝世界でいちばん貧しい大統領〟ムヒカから日本へのメッセージ

2021-02-25 23:18:56 | 映画、ドラマ
 菅首相が官房長官時代から霞が関に睨みを利かせ、人事を掌握していたことは報道からも明らかだ。安倍前首相と懇意だったレイプ記者を逮捕寸前、免罪したのも菅氏といわれている。強権的姿勢と私利私欲を併せ持つことは、息子の一件にも表れている。

 政治を井戸端会議風に論じても無意味だ。俺はグリーンズジャパンの会員だが、最近は行動が伴っていないから、腐敗堕落した政権を支えていることに変わりはない。心に沈殿した汚濁を濾過してくれる映画をポレポレ東中野で見た。「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本へ」(2020年)である。

 監督の田部井真一はフジテレビ社員(情報制作センター所属)だ。フジサンケイグループといえば安倍機関、今は菅機関の一員で、政府べったりの報道姿勢に疑義を抱いているが、〝偏見〟は時に目を曇らせる。是枝裕和監督を育んだのはフジテレビで、テレビマンユニオン在籍時代、「NONFIX」の枠組みで優れたドキュメンタリーを世に問うた。「ムヒカ――」もまた、フジの保守的な主張と異なっている。

 観賞後、大島プロデューサーとともに田部井が舞台に立った。大島が「こんなチャライ日本の若者に、ムヒカはなぜ丁寧に対応してくれたんでしょうね」と話していたが、もちろん理由はあった。ムヒカは幼い頃からウルグアイの日系移民と交流があり、厳しい状況下で地歩を築いた移民たちに敬意を抱いていた。出獄した際には、日系移民に便宜を図ってもらった。

 パンフレットを購入し、劇場の外でサインをしてもらう。特権は田部井との質疑応答で、「ムヒカについて十分調べた上で会ったのですか」と尋ねた。当初は局の指示による取材で、「握手した時、握力の強さに驚いた」という。当人が〝執着〟と語るほどムヒカについて学び、熱意が通じたのか、農園を訪ねるたびに温かく迎え入れてくれた。次第に、ムヒカの波瀾万丈の人生と荒ぶる魂が明かされていく。

 ムヒカについて記すのは、「ハッパGoGo大統領極秘指令」(17年)を紹介した稿(19年8月22日)以来だ。テーマは麻薬で、ムヒカの下で大麻(マリフアナ)が合法化された。1㌘=1㌦(アメリカの20分の1)で流通すれば、愛用者は貧困に陥らず、密売組織も撲滅出来る。

 ムヒカ自身、大統領を務めた5年間、やり残したことはたくさんあると語っていた。大麻合法化に加えて功績を挙げると、妊娠初期の中絶と同性の結婚の合法化だ。ムヒカはジェンダーに理解があるが、妻のルシアの影響も大きい。反政府ゲリラを率いたムヒカは、数発の銃弾を浴びても死なず、13年の獄中生活を送った。ルシアは当時の同志で、その後、副大統領に就任している。田部井によると、ムヒカは恐妻家だという。

 キューバ革命にインスパイアされたムヒカは、ゲバラとも交流があった。社会主義を志向したムヒカだが、旧ソ連や中国の統制型ではない。斎藤幸平・大阪市大准教授が「人新生の資本論」で提示したマルクス晩年の到達点に重なる。<コモン=全ての人々にとっての公共財>をベースに置き、工場を自主管理する自由で柔らかい社会主義がムヒカの理想だった。

 「国連持続可能な開発会議」(2012年、リオデジャネイロ)での演説で、ムヒカの名は全世界に広がった。成長、発展の呪縛に囚われることの無意味を説き、人生の価値を幸福に置く。地球環境にも言及していた。ムヒカの言葉に説得力があるのは、自身が農園で有機野菜を栽培し、大統領時代は収入の大部分を寄付してことも挙げられる。田部井との出会いは、生活困窮者たちのための住居を建設する現場で、子供たちの大歓迎を受けていた。

 ムヒカは日本について、消費世界に毒され、魂を失ったと厳しく論評していたが、講演依頼が殺到する中、縁を重視してルシアとともに日本を訪れる。ゲバラが来日時、広島の原爆資料館を訪れ、「君たち(日本人)はこんな仕打ちをされて手をこまねいているのか」と憤ったエピソードは有名だ。ムヒカも「ここ(原爆資料館)を訪れないことは、日本、いや、世界に対する侮辱だ」と語っていた。

 東京外大での講演会での質疑応答も興味深く、滲み出るムヒカの哲学と矜持に若い世代も感動していた。翻って、日本の政治家は……、なんて言うまい。俺自身も薄っぺらのペラペラなんだから。
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