酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「朝日杯」と「最強戦」~至高のエンターテインメントを堪能した

2018-02-19 22:24:16 | カルチャー
 羽生と宇野のワンツー、小平の金で平昌フィーバーは最高潮に達した。テレビ朝日のアナがW杯予選時に絶叫する「絶対に負けられない戦い」に違和感を覚えたのがきっかけかもしれないが、〝国を挙げたスポーツイベント〟に関心はない。〝日本人なら応援するのは当然〟という同調圧力に辟易している。

 公民館や学校に集まった老若男女は「羽生選手、ありがとう」と涙ぐむ。出征兵士を送り出し、銃後を守るかのような光景に戦前の悪夢が甦る。安倍政権は日本人の不変のメンタリティーを的確に掴んでいるようだ。

 先週末、「朝日杯将棋トーナメント」準決勝&決勝と「麻雀最強戦2017ファイナル」(ともにテレ朝チャンネル)を観賞する。ともに至高のエンターテインメントだった。まずは世紀の一戦となった将棋から。

 「アナザーストーリーズ~羽生善治 史上初の七冠制覇」(BSプレミアム)は興味深いエピソードを紹介していた。「将棋はゲーム」と広言し、勝負師的振る舞いを隠さなかった羽生は10代の頃、凄まじいバッシングを受けた。ある日、公園のベンチでひとり黄昏れていた羽生を通りかかった知人の母親が見つけ、自宅に招いたという。

 羽生が苦境を乗り越えられたのは、島朗九段らのサポートも大きかった違いない。羽生が切り開いた道を今、藤井聡太が驀進している。世代を超えた天才が朝日杯準決勝で相まみえた。

 藤井は昨夏以降、菅井竜也王位(当時七段)、A級在籍の豊島将之八段、稲葉陽八段、深浦康市九段に敗れている。トップ棋士とは差があると考えていたが、朝日杯では屋敷伸之九段、佐藤天彦名人を破ってベスト4入りした。準決勝の羽生戦、決勝の広瀬章人八段)戦では攻めの姿勢を貫き、中盤から優位を築いて押し切った。

 熱戦に花を添えたのが、佐藤名人と山口恵梨子女流二段の解説陣だった。ポナンザの形勢判断に異を唱えていた佐藤の正しさが、結果で証明される。一方の山口は美貌と才能を併せ持つ人気女流のひとりで、得意の〝毒舌〟で多彩なゲストをタジタジさせていた。

 加藤一二三九段の耳障りなトークが水を差す。準決勝では藤井の1七角で局面が緊迫したが、「私も羽生さんに匹敵する天才」と自画自賛をやめず、山口にたしなめられる始末。戦後の将棋界で加藤をランク付けすればベスト10が精いっぱいで、羽生と比べるなんておこがましい。

 藤井は決勝で衝撃を与えた。優勢から勝勢に導く4四桂に、1989年2月、羽生がNHK杯4回戦で加藤九段相手に差した5二銀を重ねた方も多かったはず。新時代の扉を開く一手だった。閃きと燦めき、大局観を併せ持つ〝神の子〟の今後を見守りたい。

 約2カ月のタイムラグを経て、「麻雀最強戦2017ファイナル」がオンエアされた。8人で戦う予選→勝ち進んだ16人による4局→1位抜けした4人によるファイナルの順で進行する。麻雀界最高のタイトルを懸けた一発勝負ゆえ、雀士の気迫が伝わってくる。

 将棋の好勝負を幾つも見てきたが、感動して泣いた記憶はない。ところが最強戦は、勝者と敗者が涙を流す。2016ファイナルでは南4局のドラ北切りで最強位を逃した多井隆晴、逆転Vの近藤千雄が人目を憚らず泣き、解説の魚谷侑未に至っては号泣である。俺も涙を堪えきれなかった。

 命懸けの闘いというのは、決してオーバーではない。生活が保証されている棋士に比べ、麻雀プロは殆どが兼業で安定とは無縁だ。ここで勝てば道が開ける……、ハングリー精神剥き出しで一か八かの勝負に出る。勝負の女神もしばし残酷だ。劇的なドラマを演じてファイナルの卓を囲んだのは馬場裕一、金太賢、猿川真寿、そして前回の雪辱を期す多井だ。

 〝最強最速〟のキャッチフレーズ通りファンから絶大の支持を集める多井に期待したが、4人の中で一番地味だった金が最強位に就く。「雀王位」だが、雀荘で働いているという。苦渋の表情が何度も大写しになったが、腹を括った打牌で勝利をもぎ取った。チャンスを生かし切れず4位に終わった多井は、前回と比べサバサバしていた。

 将棋界と麻雀界は認知度も収入も歴然とした差があるが、AIに対抗出来るのは麻雀の方だ。別稿(2月9日)で羽生の著書「人工知能の核心」を紹介した。羽生は<AIは美意識を持たない>と分析していたが、雀士は美意識に殉じるタイプが多い。ファイナルに残った馬場が典型で、利や理を超越した見事な打牌を見せてくれた。

 今年もプレーヤーではなく、将棋と麻雀の対局番組を、NFLやボクシングを観戦する感覚で楽しむことになりそうだ。大混戦のA級順位戦最終局(3月2日)の結果やいかに……。
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