酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ」~日本の近未来を提示する警世の書

2014-08-01 11:47:52 | 読書
 数年前、NFLについて記した稿に、以下のようなコメントが寄せられた。いわく「ブログを読む限り反米派のはずなのに、最もアメリカ的なNFLやハリウッド映画をどうして楽しめるのか」(要旨)……。

 物事を単純化する<ブッシュ―小泉>的二元論はファジーな俺の対極に位置するから、答えに窮した。二元論の背景にあるのは、インターネットがもたらした<二進法的発想>だと気付く。○○グループ、△△派と分類して悦に入っているムキも多い。俺のように<十進的発想>のアナログ中年には、生き辛い世になってきた。

 反米派御用達と揶揄されそうなノンフィクションを読了した。「繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ」(ダイヤモンド社)で、著者はデール・マハリッジ(記事)とマイケル・ウィリアムソン(写真)のピューリッツァー賞コンビである。

 アメリカの格差と貧困を抉った本書の内容は、「果てしない貧困と闘う『ふつう』の人たちの30年の記録」の副題に凝縮されている。レーガン政権誕生以降、貧困ウイルスは猛烈な勢いでアメリカを蝕んでいった。デールとマイケルは時にはともに貨物列車で旅をして、ホームレスや貧しい人たちの人生に迫っていく。

 なぜアメリカの中産階級は崩壊したのか……。この問いの〝解答〟が明確になった現在と違い、1980年代は国への信頼をアメリカ国民は失っていなかった。デールとマイケルも取材対象と同じく〝板子一枚下は地獄〟の状況だったがゆえに、迫真のルポルタージュは高い評価を得る。

 大掛かりなリストラやレイオフで、個人だけでなく街が崩壊する。物づくりの伝統は失われ、職のない人々は生活苦に喘ぎ、1%が喧伝する〝自己責任論〟に沈黙する。<政府―自治体―企業―ウォール街>は99%を虫けらの如く扱うのだ。ニューヨーク・タイムズ紙に10年前掲載された「格差の実態を知るには南米へ行かなくてもいい。この国を旅行すれば事足りる」(要旨)という記事は、大きな反響を呼ぶ。「アメリカの方が南米より遥かに格差が大きい」という読者の声が寄せられた。

 ブッシュ一族が支配するテキサスでは、困窮のあまりフードスタンプを申し込む自治体職員がいる。家族が重病に罹れば、上流階級から下層まで転落するのがアメリカの現実だ。「ふつう」の人々の貧困の軌跡は実にリアルで、デールとマイケルは時間を置いて再取材する。映画「メトロポリス」(27年、フリッツ・ラング)が予見したように、アメリカは今、99%にとっての地獄と化した。

 ブルース・スプリングティーンの「ネブラスカ」(82年)が格好のBGMだった。デールとマイケルは本書の序文を担当したブルースとインスパイアし合う関係である。ブルースは著者たちと廃工場を訪れ、新自由主義の爪痕を体感していた。

 人々の生き血を啜る支配層に義憤を覚えたが、現在の日本でも同様のことが進行中だ。「年収100万円時代」を提唱した大富豪の柳井正氏は、外国人労働者の導入と日本人の低賃金を見据えている。平均収入は年々下がり、貧困は拡大する一方だ。リストラに成功した会社が市場で歓迎され、〝追い出し部屋〟は看過される。良心と倫理の対極に位置する狂気の沙汰を、広告収入が欲しいメディアは追及しない。

 日米共通の深刻な問題は、貧困な政治の仕組みだ。国民皆保険導入を掲げたオバマ大統領は、共和党、ウォール街、製薬メジャーの軍門に下る。政治を変えたくても、アメリカには2大政党以外の選択肢がない。日本では自民党とエセ自民党(公明、民主、維新、みんな等)が議会で圧倒的多数を占め、中道、リベラル、左派の有権者は投票先選びに難儀している。

 ブルースは20年前、「アメリカはニッチ化している」と分析していた。俺流にいえば「タコツボ化」で、人々は無数に存在するコミュニティーに引きこもり、狭隘な価値観に安住している。警察が主導するヒスパニック系への暴力が、本書で繰り返し指摘されていた。格差と貧困は歴史上、ヘイトクライムを助長してきたが、日本では今、差別を肯定する風潮が蔓延している。本書はあらゆる側面で、日本の近未来をも描いている。

 本書発刊の翌年(2011年)、反組合法への抗議が全米に広がり、「ウォール街を占拠せよ」に繋がった。生活実感に根差したムーヴメントが遠からず日本でも起きることを、俺は確信している。
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