酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

イカロス失墜~ホリエモンの「敗者の弁」は?

2006-01-21 02:25:10 | 社会、政治

 堀江貴文氏(ホリエモン)の周辺が慌しくなった。前項の「悪い奴ほどよく眠る」ではないが、側近の不審死もあり、背筋が冷やりとする展開になっている。耐震データ関連の証人喚問前日に行われた強制捜査は、官邸主導の目くらましと訝る声もあったが、ホリエモン逮捕、ライブドア倒産まで突き進む公算が大きいという。

 総選挙出馬以前のホリエモンについて、「ドン・キホーテ」(04年11月)、「虎の尾を踏む男」(05年3月)と好意的に書いてきた。プロ野球を私物化する読売―西武―オリックス連合、保守メディアのフジ=サンケイグループと、巨大な壁にぶち当たっていく姿勢を支持したからである。2度の戦いでホリエモンは<負け上手>ぶりを発揮した。球界参入では知名度を得て、合併問題では株売却益で投資額を回収した。

 ライブドアの前社名「オン・ザ・エッヂ」は、字義通りなら「縁の上」である。「(刑務所の)塀の上を歩きながら落ちなかった男」と評される中曽根元首相同様、ホリエモンもタカを括っていたはずだ。選挙という3度目の戦いでも、敗れながら元を取ったからである。小泉首相と膝を詰めて意気投合し、武部幹事長との昵懇ぶりを見せ付けた。公示当日には竹中総務相が広島6区に駆けつけるなど、自民党上層部に食い込んだ。俺などライブドアが「官製メディア」になるのではと危惧したほどである。権力のお墨付きを得た(と錯覚した)ホリエモンがイカロスになったのは仕方がない。イカロスとはギリシャ神話の登場人物で、鳥の羽をロウで固めて翼を作り、幽閉された塔から脱出する。自信過剰で高く舞い上がったが、太陽の熱でロウが溶け、真っ逆さまに墜落した。

 ホリエモンと重なるのは「光クラブ」の山崎晃嗣だ。山崎は東大在学中に金融会社を設立して業績を拡大する。司直の手が入って信用を失い、返済不能になったとみるや、青酸カリを飲んで自殺した。49年11月のことである。三島由紀夫は翌年、この事件を題材に「青の時代」を発表する。三島は作品の中で、現在の世相や「勝ち組」の立脚点を予言するような言葉を残している。以下に幾つか紹介する。

 <あらゆる価値は名目的になり、(中略)世間はこうした仮装に容易に欺されることを以て一種の仮想の秩序を維持して来た><実質的な信用よりも人目をあざむく信用つまり宣伝のほうが大切だと信じていた><金が理解し、金が口をきく以外に、人間同士は理解される義務もなく、理解する権利もない、そういうユートピアを僕は空想したんだ>……。

 山崎は敗戦による価値顛倒を目の当たりにし、崩壊感覚とニヒリズムに憑かれていた。辞世の句を含めた山崎の遺書はあまりに強烈だ。<灰と骨は肥料として農家に売却すること(そこから生えた木が金のなる木か、金を吸う木なら結構)>と記されていた。理念のなさを揶揄されたホリエモンに、語るべき<敗者の弁>はあるのだろうか。


コメント (6)
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