1950年以降、10万近くの在日朝鮮人が希望を抱いて祖国に帰った。吉永小百合主演「キューポラのある街」には、同級生が嬉しそうに帰国を報告する場面がある。そういえば地理の教科書にも、「鉱工業資源が豊かで社会保障も整っている」という記述があったっけ。
あの頃すでに北朝鮮は「地獄」だったはずである。何者かが意識的に虚構の「楽園」を創り出していたのだろうか?
今となれば北朝鮮亡命なんてブラックジョークにしか思えないが、よど号事件は衝撃的だった。「我々はあしたのジョーである」と声明文を結び、赤軍派は英雄気取りで「革命の拠点」たる北朝鮮に旅立ったのである。
中学生の頃、福井に海水浴に行った時のこと、海岸に立っていた看板に「密航者らしき姿を見つけたら連絡してください」と記してあった。何を指しているかわからぬ俺に「北朝鮮のスパイのことや」と級友が教えてくれたことを思い出した。
福井から新潟に連なる日本海沿岸は当時、安全保障上の重点地区だったはずだ。敦賀原発は稼働したばかり、柏崎原発をめぐっては激しい反対運動が展開していた。警察関係者が目を光らせていた一帯で拉致が頻発したのは残念でならない。
北朝鮮がテロ国家としての全貌を現すまで、韓国がアジアにおけるヒール(悪役)を演じていた。言論弾圧、金大中氏拉致、光州事件……。日本のマスコミは軍事政権下の韓国より金日成体制の北朝鮮の方がましと決め付けていた。だから80年に産経が「拉致」をスクープした時、国内の反応は極めて鈍かったのである。俺なんぞ最近まで、その記事を知らなかったほどだから。
何者かが示し合わせて事実を隠蔽していたとしたら……。何者とは政治家? マスコミ? 隠蔽の理由は? 北朝鮮をめぐっては深い闇が横たわっている。パンドラの箱を開けた小泉首相だが、6カ国協議の枠組みと世論の板挟みになり、制裁について方針を示せずにいる。
13日から3日間、「報道ステーション」の特集で北朝鮮の悲惨極まる映像を見た。あの国を救うには金王朝崩壊しかないと日本人は確信しているが、米、中、露、韓の4カ国は別の思惑を秘めているに相違ない。「地獄」を「地獄」として残すことの方が、自らの国益に繋がるといったような……。