弁理士の日々

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半導体一強の2社(TSMCとASML)

2022-06-29 21:37:51 | 歴史・社会
台湾TSMC・蘭ASML 半導体2強、進む技術支配
2022年6月29日 日経新聞
『自動運転など次世代技術の核心となる先端半導体の製造が、世界でたった2つの企業に独占され始めている。台湾積体電路製造(TSMC)とオランダの半導体製造装置大手のASMLだ。両社がいなければ、もはや先端製品が生まれない状況にさえなりつつある。世界に備えはあるのか。技術覇権を激しく争う米中にも大きな影響を及ぼすのは必至だ。』

このブログの「日本の半導体産業 2022-02-26」で、半導体をその製品分野別に分け、それぞれについて世界と日本の半導体産業の現状を概観しました。その中で、ロジック向け半導体については、
『最近、台湾のTSMCが話題になります。
(1)最先端の5nm~3nmの製品は、世界でもTSMCのみが量産できています。
(2)TSMCが熊本に20nmクラスの半導体工場を新設し、それに日本政府が4千億円の補助をします。
(3)TSMCがアメリカに最先端(5nmクラス)の半導体工場を新設し、米政府が兆単位の補助をします。
(4)アメリカが設けた規制により、台湾のTSMCから中国のファーウェイへの輸出が不可能になり、ファーウェイのスマホは壊滅的な打撃を受けました。』
と述べました。

最先端の半導体を製造する上で、シリコンウェーハ上に回路を描画するための露光装置が最も重要な装置です。昔は、日本のニコンとキャノンが世界の露光装置の2強として君臨していました。ところが、ロジックで台湾のTSMCが一強として君臨するのと軌を一にして、露光装置でオランダのASMLが一強となり、ニコンとキャノンは凋落した、という情報も得ていました。

今回の日経記事は、このような現状に至るいきさつを概観しており、その意味で私には有益でした。
『(露光装置の)EUV装置は10万点もの部品で構成され、重さは約200トン。1台当たり200億円にものぼる高性能装置であるがゆえ、昨年の出荷台数は42台にとどまる。多くはTSMC向けだったが「その獲得競争は現在、各国政府も巻き込み、熾烈(しれつ)を極める状況にある」(装置関連メーカー幹部)。』

『2つの国際会議でみえたのは、世界の半導体製造は、今後もASMLとTSMCが共に強力にリードしていくという両社の自信だ。さらには半導体の回路線幅が2ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下となる超最先端の半導体製造を可能にする「次世代設備」の導入がいよいよ視野に入ってきたという安心感も、顧客に与えた。』

『例えば、米アップルの人気スマートフォン「iPhone13」。この心臓部の先端半導体を製造できる装置を持つのは、世界でASMLのみ。同社が開発した「EUV露光装置」でしか実現できず、世界シェアは100%だ。
しかも、そのEUV装置を使って、歩留まり良く、安定的に先端半導体をつくることができる企業も現在、世界でTSMCのほぼ1社しかいない。こちらの世界シェアは92%だ。』

最先端の露光装置はASMLでしか製造できないとしても、TSMC以外の半導体メーカーがその露光装置を購入して最先端の半導体を製造することはできないのでしょうか。特に、日本の半導体メーカーを駆逐した韓国のサムスンなどが思いつきます。

『サムスンの内情を知る大手装置関連メーカーのある幹部は「サムスンは先端の半導体の歩留まりをなかなかあげられず、相当焦っている。主要顧客からも発注量を減らされ、この1年ほど非常に苦しんでいる」と明かす。』

ここまでTSMCとASMLの一強2社の独走を許した背景には何があるのでしょうか。

1997年。インテルは当時、国際的なコンソーシアムを立ち上げ、米モトローラなどと共同で最先端のEUV装置の開発に乗り出しました。しかし、TSMCの参画をかたくなに拒否したといいます。
これに対し、TSMCはASMLをパートナーに選び、2社でEUV開発にまい進しました。結果として、世界初のEUVの実用化にこぎ着け、2019年から先端半導体の量産を成功させました。

『00年代、世界の露光装置市場でシェア7割近くを占め、世界を席巻していたニコンなどの日本勢も、インテルと歩調を合わせるうちに「開発が遅れ、共倒れした」(業界関係者)ことも、2社には追い風となった。』

ASMLの親会社はフィリップスです。フィリップスはTSMCの大株主となり創業期を支えるとともに、ASMLとのビジネス面での仲介役にもなってきました。

『こうした歴史の上に今の2強がある。』(日経記事、以上)

半導体の歴史をたどると、まずはアメリカで集積回路(IC)が発明され(ICの最先発明者は誰か 2006-09-27)、半導体産業が立ち上がりました。
次いで、日本の半導体産業(主にDRAM)が隆盛し、アメリカの企業はDRAMから撤退を余儀なくされました。
日本企業の隆盛も続かず、韓国のサムスンに取って代わられました。
それが現在は、こと最先端ロジックの分野では、半導体メーカーではTSMCの一強、露光装置メーカーではASMLの一強です。
しかし、今までの隆盛と凋落の歴史を顧みると、現在の一強が次の世代の一強になるとは限りません。そう思って見ているのですが、現時点では、TSMCの一強を脅かすような他社の兆候は全く感じられません。
世界のロジック半導体(少なくとも最先端製品)が、台湾でしか製造できない、という現状には大きな安保リスクを感じます。中国が台湾を占領したら、すべてが中国のものになってしまいます。
少なくともロジックの普及品(20nmクラス)については、TSMCが熊本に新工場を建設することとなり、その点のみでは少しはリスク回避になりそうですが・・・。
私は、20nmクラスロジックの工場建設に政府が補助金を出すのであれば、むしろ台湾のTSMCではなく、日本のルネサスに補助金を出して育成することがスジではないか、と思っているのですが・・・。

ロジック以外の半導体分野はどうでしょうか。
DRAMについては、1990年代は日本の電機メーカーのほとんどが製造していました。私もシリコンウェーハメーカーの技術営業として、全国各地を回った記憶があります。各社のDRAM部門を集約してエルピーダができ、坂本社長の下で一時は良い方向に行っていたのですが(NHKプロフェッショナル・坂本幸雄 2007-05-13)、円高に負けて(エルピーダが会社更生法適用申請 2012-02-28エルピーダの教訓 2022-02-27)、米マイクロンに買収されてしまいました。半導体安保を視野に入れていたら、あのときに日本政府は支援して欲しかったですね。

フラッシュメモリーについては、これを発明したのが東芝社員で、東芝から分社したキオクシアが現在も頑張っています。
画像撮像素子については、ソニーが頑張っています。
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