弁理士の日々

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日本の半導体産業

2022-02-26 12:07:05 | 歴史・社会
半導体を4つに分類するとしたら以下のようでしょうか。
1.DRAMメモリー
2.フラッシュメモリー
3.ロジック
4.撮像素子

日本が半導体王国だった頃、そのほとんどはDRAMでした。日本の電機大手の大部分が半導体を製造しており、その主役はDRAMでした。
その日本DRAMが衰退した後、各社のDRAM部門が切り離され、集約され、エルピーダメモリとなりました。そのエルピーダが会社更生法適用申請をしたのが2012年です(このブログ記事)。社長の坂本幸雄氏についてはこちらに書きました。現在は、外資系企業マイクロンメモリジャパンとして日本で生産を続けています。
フラッシュメモリーは、東芝の技術者だった舛岡富士雄氏が発明したもので、現在は東芝から切り離されたキオクシアが製造しています。サムスンに次ぐ世界第2位の生産量です。
撮像素子は、現在はソニーが世界で主導しています。
ロジックは、日本ではルネサスエレクトロニクス(以下「ルネサス」)が生産しています。ルネサスは、三菱・日立・NECの3社のマイコン部門を統合してできた会社です。

以上のように、日本を生産拠点とする半導体メーカーとしては、DRAMの旧エルピーダ、フラッシュメモリーのキオクシア、撮像素子のソニー、ロジックのルネサスの4社に集約された形です。

最近、台湾のTSMCが話題になります。
(1)最先端の5nm~3nmの製品は、世界でもTSMCのみが量産できています。
(2)TSMCが熊本に20nmクラスの半導体工場を新設し、それに日本政府が4千億円の補助をします。
(3)TSMCがアメリカに最先端(5nmクラス)の半導体工場を新設し、米政府が兆単位の補助をします。
(4)アメリカが設けた規制により、台湾のTSMCから中国のファーウェイへの輸出が不可能になり、ファーウェイのスマホは壊滅的な打撃を受けました。
これらはいずれも、半導体としてはロジックの世界です。

同じロジックで、日本にはルネサスがあります。ルネサスはどのような技術レベルなのでしょうか。
ルネサスは、上述のように三菱・日立・NECの3社のマイコン部門を統合してできた会社です。日本国内に前工程を担当する6工場(那珂工場、川尻工場、西条工場、高崎工場、滋賀工場、山口工場)と、後工程を担当する3工場(米沢工場、大分工場、錦工場)を有しています。いやはや、懐かしいです。私が約30年前、シリコンウェーハメーカーの技術者だった頃、技術営業で訪問した先が多く含まれています。那珂:日立、西条:三菱、山口・米沢:NEC、などです。これらの古い工場を受け継いで、現在のルネサスが成立しているのですね。それにしても中小の拠点が散在しすぎています。
そのルネサス、経営危機に何回も見舞われたようです。ルネサスは、ロジックの生産規模としては世界第3位を誇るものの、主力である車載用半導体では、買い主である自動車メーカーに買いたたかれ、収益性が悪かったようです。生産する工場も古そうですしね。
その危機を乗り切ったのは、ものすごいリストラを行うと共に、「40nmよりも微細の半導体は自前では開発・製造しない」という「ファブレス」の選択によるものでした。そして生産は台湾のTSMCに委託していました。

ルネサスが低収益構造になっていた理由について、このブログの
湯之上隆著「日本型モノづくりの敗北」 2013-12-04
で記事にしていました。
『ルネサスは、マイコンの世界シェア1位(30%)、車載用マイコンECUに限れば世界シェアの42%を占めるマイコンメーカーであるが、その収益性は恐ろしく悪い。クルマメーカーの下の電装部品メーカー(1次下請け)、その下の2次下請け、さらにその下に半導体メーカーとしてのルネサスが位置づけられている。ルネサスは、価格は上から決められ、一方で「不良ゼロ」の製品を要求されている。
多くの2次下請けメーカーが半導体チップ製造の下請けとしてルネサスを選び、那珂工場で製造されていた。そのことをトヨタは知らなかった。この那珂工場が東日本大震災で被災し、ECUの製造が完全に停止した。』

今回、TSMCが熊本に20nmクラスのロジック半導体新工場を建設します。最先端からはほど遠い20nmクラスの生産です。現在の車載用の主力がこのクラスであることから選ばれたのでしょう。車載用は、最先端であるよりも低価格であることが優先です。
一方、国内唯一のロジック半導体メーカーであるルネサスが20nmクラスを製造できないのは、上述のような事情によるのです。

ロジック半導体の世界で、日本はどのような方向に進むべきでしょうか。
昨年来、半導体の供給不足で、自動車をはじめとして多くの工業製品が大幅な減産を強いられました。主にロジック半導体の不足に起因します。このようなロジック半導体不足の発生を起こさないような対応が必要です。
TSMC熊本工場はロジック半導体不足解消の役には立つでしょう。ただし数年先です。
半導体不足解消のみのために、最先端でもない工場新設に日本人の税金を4千億円も補助する意味はあるでしょうか。意味があるとすれば、中国による台湾武力統一の結果としてTSMC台湾工場が中国の手に渡ったときのための保険、ということのみが考えられます。
台湾の中国武力統一後、自由世界においては、TSMCがアメリカに新設する最先端工場、韓国のサムスンが製造する最先端半導体、TSMCが日本に新設する20nmクラス工場、などが主力生産拠点となるのでしょうか。
「TSMCの日本進出で、日本の半導体技術が進歩する」ということはほとんど期待できないと思います。TSMCが日本進出後に日本の同業者に技術を伝授するはずがありません。唯一、ソニーが共同出資しているので、ソニーの技術者には技術が伝わるかも知れませんが。それでも、ソニーがルネサスに教えることは守秘義務で禁じられるはずです。
日本の半導体材料メーカー、半導体装置メーカーが発展する、ということもないでしょう。日本の半導体材料メーカー、半導体装置メーカーにとって、売り先が日本であろうと外国であろうと全く関係がないからです。

私は、ロジック半導体の唯一の国産メーカーであるルネサスを、今後どのように育てるのかあるいは育てないのか、ということが最重要課題と思います。
ルネサスは、買い主から買いたたかれる中、「40nmよりも微細の半導体は自前では開発・製造しない」という経営選択によって生き残ってきました。結果として、日本は最先端の5nmクラスはおろか、20nmクラスですら製造技術と工場を保有しない国となってしまいました。「日本も20nm以下クラスの生産能力を保持すべきだ」という必要があるのであれば、TSMCを税金投入で日本に誘致することではなく、税金投入でルネサスの技術力向上を目指すべきです。買い主である自動車メーカーも、製品を買いたたくのではなく、ルネサスを育成する姿勢を持ってほしいです。
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