弁理士の日々

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小川和久著「日本の戦争力」

2011-10-13 20:28:15 | 歴史・社会
日本の戦争力 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

軍事アナリストである小川和久氏の論述については、普天間問題に関連して、1年前に小川和久著「普天間問題」普天間問題~05年頃に何があったのかとして記事にしました。
このとき、上記「日本の戦争力」も読んでいたのですが、なかなか記事にするチャンスがありませんでした。
今回、ケビン・メア著「決断できない日本」を記事にしたチャンスに、「日本の戦争力」の中の日米同盟に関する事項についてまとめておきます。

《日米安全保障条約》
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

日本が他国から攻撃されたらアメリカが守ってくれますが、アメリカが他国から攻撃されても日本は武力で助けることはしません。これを日米条約の「片務性」「非対称性」と賞することが多いですが、小川氏は「これは錯覚に過ぎない」といいます。
そもそも、アメリカが同盟を結ぶ国の中で、アメリカと対等に同盟を組める国などありません。
日米同盟の実態を克明に観察すると、日米同盟は決して片務的ではなく、逆に日本はアメリカの最重要同盟国であることが浮き彫りになるといいます。
米軍が日本に置いている燃料の備蓄量は膨大です。アメリカ本土東海岸に置いている量が最大で、日本の備蓄量はそれに次ぐ世界第2位です。
米陸軍が日本に備蓄している弾薬量も膨大で、米陸軍の5個歩兵師団を1ヶ月間闘わせることができる量です。佐世保には米海軍、海兵隊の弾薬庫があり、これは第7艦隊が行動する範囲(ハワイからインド洋まで)で最大の陸上弾薬庫です。
嘉手納にある米空軍の弾薬庫は米軍で最も重要な弾薬庫の一つです。

第7艦隊はハワイからインド洋までを作戦海域とします。第7艦隊の旗艦は横須賀を母港とするブルーリッジです。第7艦隊の戦力の中心は、横須賀を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンの機動部隊(10隻)です。

米軍にとって日本に置いている基地は、「アメリカの戦略的根拠地」あるいは「パワー・プロジェクション・プラットホーム」(戦力投射のための根拠地)といえます。パワー・プロジェクション能力とは、「多数の戦略核兵器により敵国を壊滅させ得る能力」「数十万人規模の陸軍を海を越えて上陸させ、戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空の戦力」と定義されます。日本に常駐する海兵隊は1万5千人ですから、アメリカ本土から地上軍が来なければ上陸作戦はできません。しかし、いざというときに使う燃料や弾薬が日本に備蓄されており、日本が第7艦隊を支えていることと相まって、まさに日本が戦略的根拠地となっているのです。

在日米軍は、米兵による婦女暴行事件や航空機の墜落事故などを日本国内で起こしますが、米軍は起訴前の犯人引き渡しを拒否したり、日本の警察に捜査させなかったりしています。これは不平等のはその通りかもしれませんが、日本以外の国と米国の関係の方がもっと不平等になっています。
日本で米兵の不祥事や犯罪行為が発生すると米国は日本に誤りますが、イタリアや韓国が相手だとろくに謝罪もしないそうです。そして米軍に対する非難が沸騰すると、韓国でアメリカは、在韓米軍を撤退させてもいいんだぞと、脅す姿勢に出ました。
これに対して日本においては、米軍が日本から出て行かざるを得なくなったら、アメリカは世界のリーダーの地位から滑り落ちるかもしれない。それほどまでに(米国にとって)日米同盟は重いのです。

このように重要な日本における米軍基地ですが、米軍自身はこれら日本の基地を防衛する能力を持っていません。米軍基地の防空は自衛隊が担当しています。そうであれば、年間5兆円の日本の防衛費についても、日米同盟における日本側の役割分担を示す指標として認められるべきでしょう。

以上のとおりですから、世界中に米国軍隊を展開させる米国の世界戦略を“世界平和を維持するための戦略”と理解するのであれば、日米同盟はその米国の世界戦略を実現する上での欠くことのできない同盟であり、日本はその戦略に不可欠のパートナーとして寄与している、と言っていいでしょう。
もちろん、世界中に米国軍隊を展開させる米国の世界戦略を“米帝国主義”と理解する立場に立てば、日本は米帝に荷担していることになるわけですが。

私は前者の立場に立っています。
日本は誇りを持って、世界平和に貢献しようとする米国の世界戦略を実現するための最強・不可欠のパートナーであるとのスタンスで侍することが正しい姿勢でしょう。
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1 コメント

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intellectual equality (noga)
2011-10-24 06:56:54
日本人が英米人と対等になるには

我が国が序列判断で万事がとりしきられていた時代には、日本人にそれほどの迷いはなかった。
だが、戦後は、占領下の社会の混乱とともに、国民の頭の中の混乱も起こった。
それは、理性判断を要求されるようになったからである。そして、日本人は、判断の切り替えが容易に出来ないでいる。五里霧中である。
その精神の混乱はまだ続いていて、当分収まりそうにない。

日本人は、未来の内容が考えられない。日本語に時制がないからである。
日本人は、未来のことは分からない。それをしいて述べようとすれば、絵空事になる。
だから、皆は未来に関する発言を信用していない。計画的なことは出来ない。

英語の脳であれば、現在の世界にある全ての事物は未来構文の中で述べることが出来る。
だから、未来の世界は、現在の世界のごとく細かに考察することが可能になる。
そして、聞き手も辻褄の合うその内容を信用できる。

未来に関する事柄について、信用できない日本人と、信用できる英米人の話し合いは一方的なものにならざるを得ない。
日本人は、英米人に主導権を握られることを好まない。が、こと未来に関しては仕方がない。

我が国のインテリにも英語で考える力が必要である。
国策による英語圏への留学を含めた英語教育の強化が必要である。
さすれば、国際社会に通用する人間もできる。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812
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