弁理士の日々

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陸山会事件判決

2011-10-11 22:45:02 | 歴史・社会
陸山会事件での石川知裕・大久保隆規・池田光智被告に対する有罪判決(9月26日)については、謎がなかなか解明されません。
検察の供述調書を証拠に採用しないというサプライズがあったかと思ったら、判決では検察の主張を満額認めるという逆サプライズです。この判決をどのように評価したらいいのか。私は事件の詳細を追いかけていないので、さっぱり分かりません。ネットでの法律専門家の評論、週刊誌などでの評論を読んで実態を掴もうと思っているのですが、その評論がちっとも出てこないのです。
週刊誌では、週刊朝日10月14日号に「裁判所の暴走」として特集記事が載った程度で、その他の週刊誌については見あたりませんでした。
ネット評論では、郷原信郎弁護士が当然ながらかみついてくると期待していたのですが、一向に現れてきません。

取り敢えず週刊朝日を購入してみました。
元検事の郷原信郎氏の発言「一言で言うと“ストーリー判決”です。物事を単純化してストーリーを描いて、無理やり調書にすることで特捜部は批判された。しかし、この判決は裁判官が描いたストーリーに沿って、調書によらずに、憶測・推測、さらには妄想に近いものまでも認定している。こんなのがまかり通るならば刑事裁判をやる意味がありません。」
ジャーナリストの魚住昭氏の発言「正直、驚きました。裁判所の事実認定どおりならば、悪質かつ巨額の賄賂があったわけで、贈収賄事件ですから、実刑になるべきですが、執行猶予がついた。事実認定と刑が乖離している。はじめから有罪ありきで考えているから、こういう認定をしなくてはならなくなるんです。『疑わしきは被告人の利益に』が裁判の大原則なのに、『検察の利益』になっている。」

元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士も、裁判所が「天の声」や「水谷マネー」について大胆に認定したことについて、どのような証拠に基づいて認定したのか判決要旨からはわからないと言っています。また、4億円を小沢さん本人も明確な説明ができていないという理由で不明朗なカネと認定したことについても、このカネの性質について立証責任を負うのは被告側ではなく100%検察です、と言っています。

週刊朝日によると、裁判長は登石郁朗氏(57)で、エリートコースを歩み手堅いが官僚的で上ばかり見ているという評判です。右陪席の市川太志裁判官(49)は将来を嘱望されるエース級と言われているそうです。裁判官にとって、無罪判決を書いてそれが高裁でひっくり返ったら大減点になるので、出世を望む裁判官ほど思いきった判決を書かないそうです。今回もその動機が働いたのだとしたら、結論の「有罪」部分は思い切っていませんが、そこまで導くロジックが思いっきり不可思議となっています。

ネットで郷原信郎弁護士の発言を探したら、一つだけ見つかりました。岩上安身氏によるインタビューの動画「111006郷原信郎氏インタビュー 」と、それを文字おこしした記録です。
郷原さんが判決直後にネットで発言しなかった点については、ちょうど九電の第三者委員会の報告書の最終段階で、突貫工事状態だったためでした。第三者委員会の報告書が完成して、終わってからやっと、まず週刊朝日にコメントする前に(判決要旨を)全部読んだとのことです。
郷原弁護士は判決について、まず『まあその結果は本当に、ここまで大きく軌道を外れた、この種の事件の刑事裁判史上あり得ない、画期的な判決だと思いますよ。すごい。どうしてこんな判決がまともな裁判官によって出されるのかというくらい、すごい判決ですね。』と評価しました。

こんな凄い判決に至った事情について、郷原弁護士の解説はこうです。
水谷建設のヤミ献金というのは、それ自体が検察が散々捜査したのに起訴できなかった事実です。
水谷建設のヤミ献金が仮にあったとしても、なんでそれが4億円の虚偽記入にする必要があるのか、何にも証拠がありません。陸山会裁判でそんなことを立証させるのは意味がない。だから検察部内でも、郷原氏が聞いた話では、水谷建設のことなんて関係ないと何回も差し戻したようです。しかし何回差し戻しても、地検特捜部の方がまたそれを書いて冒陳(冒頭陳述)をあげてくるので、最後、もう根負けしたんでしょうね、という推測です。
しかし検察としてそういう冒陳(水谷建設のヤミ献金立証)を行うと、裁判所は対処に窮します。立証を認めないと、検察に十分な立証すらさせなかったということを言われかねない。
しかし裁判所が検察の要求を通して立証を認めてしまうと、水谷建設の関係者はそりゃ何の躊躇もなく証言しますよ、検察官調書を取られたら。今回の水谷建設はそんなこと喋ったって失うものは何もない。逆に、いったん検事調書に署名している事を、それを違うと言ったら、そっちが偽証だと言われかねない。
その水谷建設の証言を証拠として、判決は水谷建設からのヤミ献金を隠す目的で虚偽記入をしたと認定しました。
裁判所としては、関連性ありと判断して証人尋問を認めた段階で、これは4億円の虚偽記入と関連性があると判断したことになってしまいます。その尋問で証人が水谷建設のヤミ献金を認める証言をした以上、今度は裁判所もいや関連性はないんだと言えなくなる。だから関連性ありと判断するしかなくなり、今回の判決に至った、というのが郷原氏の推測です。

つまり、裁判所は検察に弱いから、検察が冒陳で立証を請求するとそれを却下できない。立証を許可すると裁判所が関連性を認めたことになるので、証人が法廷で検察に有利な証言をしたら採用せざるを得ない。従って、検察上層部が、水谷建設のヤミ献金の立証を冒陳に入れることを認めた時点で、今回の判決ストーリーはできてしまった、ということでしょうか。
裁判所は検察からも独立して自由心証で判断すると期待していましたが、そうではないのでしょうか。

ところで、小沢一郎氏に対する公判が開始されましたが、小沢一郎氏はマスコミに対する対応が本当にヘタですね。記者会見で質問した記者に怒っていますが、それはテレビカメラを通じて国民に対して怒っているのと同義であることに気づかないのでしょうか。
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2 コメント

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「三権分立 司法:疑わしきは、罰せず」 (xls-hashimoto)
2011-10-14 10:11:08
「司法・立法・行政」の三権です。
中学校の社会の授業で習いました。

司法で習った重要な事は、
「疑わしきは、罰せず」
です。
子供なりに、先生の話に納得しました。

しかし、証拠が無いのに罰する
「疑わしきは、罰する」
との判決がでるとは・・・・

疑われた方が、無罪である証拠を出さないと罰せられるんですか?
これって裁判ですか?

これからは、マスコミの報道次第で
「疑わしきは、罰せられる」
ことになりますね・・・・?
返信する
陸山会判決の報道 (snaito)
2011-10-20 20:41:22
xls-hashimotoさん、こんにちは。

陸山会事件の3被告に対する判決を批判する報道は、その後も非常に少ないですね。逆に小沢一郎氏を非難する報道は相変わらず多いですが。
これも日本のマスコミがかかえる問題なのでしょうね。
返信する

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