弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

稻わら管理はどうなっていた?

2011-07-24 09:47:31 | 歴史・社会
今回の放射能汚染牛肉問題、事件の発端は、東京都が南相馬市産の牛肉を抜き取り検査して放射能汚染を発見したことから始まりました。当初は「何が原因かわからない」という報道から始まり、次いで畜産家が保管する稻わらが汚染していたことが判明しました。

当然事件は南相馬市で留まらず、次いで白河市産稻わらを食べた浅川町の牛、7月18日には二本松市、本宮市、郡山市、須賀川市、白河市、会津坂下町の牛に拡大、22日には栃木県那須塩原市の肉牛、松阪牛に与えていた宮城県登米市産の稲わらに拡大しました。

私が6月24日の記事各地の放射能汚染の現状で紹介した放射能汚染図拡大図)と対比してみると、相関関係は明白です。

まず、二本松市、本宮市、郡山市、須賀川市、白河市は、福島市から南南西に延びる「放射能汚染ベルト地帯」と完全に一致していることがわかります。その先には那須塩原市があります。また、北に目を転じると、宮城県の一関市にホットスポットが存在し、米登市はその近くです。

現在福島第一原発を中心として日本国土に降り積もっている放射能は、その大部分が、3月15日の2号機格納容器破損に伴って大量放出された放射性物質が、風で運ばれ、雨で地面に降り注いだものだと考えられています。さらに3月21日頃の放出放射能も加わったかもしれません。いずれにしろ、3月末には、放射能汚染地図はほぼ定まっていたはずです。それなのになぜ、その後3ヶ月以上も、放射能汚染地帯での稻わら採取と牛への摂取が放置され続けてきたのでしょうか。

《農水省はどのような通知を出したのか》
産経新聞 7月15日(金)11時40分によると、福島県浅川町の肉用牛農家が高濃度の放射性セシウムを含む稲わらを牛に与えていた問題に関して、以下のように報じています。
『農水省はこれまで、適正な管理方法を稲作農家には周知していなかったものの、畜産農家には管理方法を福島第1原発事故後の3月に周知してきたと説明していた。』
『農水省は管理方法を3月19日に県に通知。県は農協や業界団体、畜産農家に身近な県家畜保健衛生所からチラシを配るなどして指導していた。』

3月19日の通知とはどのような通知だったのでしょうか。
以下の通知が見つかりました。上記報道がいう「通知」とはこのことでしょう。

原子力発電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について
『22消安第9976号
22生畜第2385号
                       平成23年3月19日
東北農政局生産経営流通部長 殿
                 消費・安全局畜水産安全管理課長
                 生産局畜産部畜産振興課長
      原子力発電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について

東北地方太平洋沖地震に伴い発生した東京電力(株)福島第一原子力発電所事故により、放射性ヨウ素、放射性セシウム等の放射性物質を含む粉じんが降下する可能性があります。
  ・・・
放射性物質の家畜への暴露の防止・低減を通じて畜産物の汚染を防止・低減するために、生産者に対し、下記の飼養管理事項について周知を図るよう、貴職から貴局管内都県に対して通知・指導していただくようお願いします。
     記
大気中の放射線量が通常よりも高いレベル(注)で検出された地域においては、以下に留意すること。
1.乾牧草(サイレージを含む)を給与する場合は、事故の発生前に刈り取り・保管されたもののみを使用すること。さらに、
(1)事故の発生時以降も屋内で保管されたものを使用すること。
(2)屋外で保管されたものはラップ等の包材により外気と遮断されたものを使用すること。これらを使用する際には、包材の外装を念のため布でふきとったり、水洗いする等してから包材を開けること。』

農水省本省が、地域の農政局に対して、県に対して通知・指導するように要請しています。その内容たるや、対象地域は記載されておらず、何μSv/h以上の地域なのか、牧草中の放射性物質がどの程度だったら問題か、といった具体的な事項がありません。もちろん、牧草とあるのみで稻わらについては言及していません。
私が畜産家で、こんなチラシが回ってきたとしても、どうしていいか全くわからないでしょう。
農水省本省は、3月19日に通知を出したきり、おそらく現場でどの程度徹底されているか、さらに対処すべき問題はないのか否か、フォローは一切していなかったものと思われます。
これぞ典型的な「アリバイ行政」に違いないと得心しました。


《稻わら収穫の実態、餌の放射線検査対象》
稲わらは放射線検査の対象外 セシウム汚染牛
産経新聞 2011/07/15 14:58更新
『福島県浅川町で肉用牛の餌とされた稲わらから高濃度の放射性セシウムが検出された問題で、稲わらは農水省と福島県による放射線検査の対象外だったことが15日、分かった。牛の餌で検査対象としていたのは、主に東京電力福島第1原発事故後に成長した牧草。先に問題となった福島県南相馬市の肉用牛も汚染源は稲わらで、検査態勢の甘さを指摘する声も上がっている。
秋に米を収穫した後に出る稲わらは通常、畑の土の中にすき込んだり、そのまま室内に保管されたりしている。このため農水省などは、3月の原発事故で放出された放射性物質の影響を直接受ける事態は想定していなかった。「野ざらしにされていた稲わらがあり、それが餌になっていたのは想定外」と農水省の担当者。農水省と県が福島県内で最初に牧草の検査をしたのは4月下旬だったが、稲わらは検査対象にしなかった。』

稲の収穫は秋であるから、稻わらも秋に収穫され、屋内に保管されているもの、と思い込んでいたのですね。思い込みとは恐ろしいものです。しかし、この問題に関わっている役人は一人ではないはずです。その集団の中に一人でも、「秋に刈り取った稻わらが、そのまま農地に放置され、3月11日以降に出荷されることはあり得ないのだろうか」と想像する人がいたら、今回のようなことにはならなかったことでしょう。
また、せっかく現地で餌の放射線検査を行うのに、なぜ稻わらが対象に入らなかったのでしょうか。


《放射能汚染ベルト地帯の把握》
白河市から二本松市に至る放射能汚染ベルト地帯の存在を、行政の責任者はいつの時点で知り得たのでしょうか。
今回、文部科学省の文部科学省(米国エネルギー省との共同を含む)による航空機モニタリング結果というサイトを見つけました。
この中に、「文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングの測定結果[平成23年5月6日] (PDF:1570KB)」という資料があります。この資料の3ページ「別紙1」(英語版「別紙1」)を見てください。
この資料から、遅くとも5月6日には、文部科学省が汚染マップを公表しており、白河市から二本松市に至る放射能汚染ベルト地帯において1μSv/hを超える汚染が発生していることが明らかです。「別紙1」の地図上に記された二本松市、本宮市、郡山市、須賀川市、白河市の文字は、その2ヶ月後に発生する肉用牛放射能汚染事件を予言するかのようです。

5月6日のこの時点で、文部科学省の上記データに基づいて、農水省の責任ある部署が、このベルト地帯の畜産家において稻わらの放射線検査を行っていさえすれば、被害がここまで拡大することはなかったでしょう。

日本の組織は、平時にマニュアルや前例に則って仕事をすることには慣れていますが、有事に際して想像力と危機管理能力をフルに発揮して迅速に最適行動を執ることには極めて不慣れであると言わざるを得ません。

「汚染牛肉は国が買い取る」と言いますが、そのお金を出すのは国民の税金です。5月のはじめまでに対処していれば、要する費用はものすごく少なかったはずです。
今回の行政の失態について、マスコミがその責任を追及する報道を行っていないのはなぜか、理解できません。
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1 コメント

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優秀な(やたら物覚えの良い)人達 (xls-hashimoto)
2011-07-25 11:33:45
「日本の組織は、平時にマニュアルや前例に則って仕事をすることには慣れていますが、有事に際して想像力と危機管理能力をフルに発揮して迅速に最適行動を執ることには極めて不慣れであると言わざるを得ません。」

水素爆発から以降考えさせられたことは、人の中には「やたら物覚えの良い人達」がいるということです。
「習ったこと・教わったこと・読んだこと」は、すべて覚えてられる記憶力(暗記力)の良い人達です。
学校の試験も教えたことしか出てこないので、いつも完璧に100点またはほぼ100点を取り続け、「優秀だ!頭が良い!」と言われ続けた人達です。

しかし、今回の水素爆発でわかったことは、この人達は「習ってないこと・教わってないこと・読んでないこと(前例のないこと)」には、まるっきり対応できず、その瞬間パニクるだけということです。
「習ったこと・教わったこと・読んだこと」を組み合わせて、「習っててないこと・教わってないこと・読んでないこと(前例のないこと)」を解く能力がない(または、きわめて乏しい)ことです。

このような人達が学業優秀ということで、日本の中枢の中でいっぱい働いていると、今回のような前例のない「有事に際して想像力と危機管理能力をフルに発揮して迅速に最適行動を執ること」は、まるっきりできないことになります。
「期待しては、ダメ!」です。

優秀な(やたら物覚えの良い)人達の弊害を理解し、対応していかなければいけないと思います。

自分たちが作った審査指針を棚に上げて、ペテン師と呼ばれた人と一緒になって保安院を責める人を、今の役職におきつづけてはダメです。
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