大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月25日 | 植物

<2818>  大和の花 (900) ケヤキ (欅)                                        ニレ科 ケヤキ属

            

 山地に生える高さが20メートルから30メートルほどになる落葉高木で、日本の代表的な樹種の1つとして知られる。幹から扇を開いたように四方へ枝を広げ、こんもりとした樹形を成す。樹皮は灰白色で、滑らかであるが、老木になると鱗片状に剥がれ、小さな皮目が出来る。枝は暗褐色で細く屈曲し、密に出る。葉は長さが3センチから7センチの狹卵形乃至は卵形で、先が長く尖り、基部は浅い心形。縁には鋭い鋸歯が見られる。脈がはっきりし、短い柄を有して互生する。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。花は淡黄緑色で、葉の展開とほぼ同時に開く。雄花は新枝の下部に数個ずつ集まってつき、雌花は新枝の上部葉腋に普通1個ずつつく。雄花には4個から6個の雄しべが目立ち、雌花には雄しべがほとんど見られない。痩果の実は稜のある扁球形で、秋になると、暗褐色に熟す。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では全域に見られ、古来より神木として崇められ、県内各地に巨樹や古木が多く見られのは、神木として大切にされて来たことに由来する。大和(奈良県)で推定樹齢1000年超の個体をあげれば、桜井市小夫の小夫天神社のケヤキ(推定樹齢1500年、樹高30メートル、幹周り11メートル)と吉野郡大淀町土田のケヤキ(推定樹齢1700年、樹高18メートル、幹周り14メートル)がある。

  土田のケヤキは「神功皇后(二七〇年頃)が畝傍山口神社で男子を出産してから間もなく、朝鮮半島に出征するに際して、無事を祈願し植えられたとの言い伝えがある」(『奈良の巨樹たち』・グリーンあすなら編)と言われる。

 和名の由来には諸説あるが、1説に「けやけき」の略で、「けやけき」には尊い或いは秀でたという意味があるという。古名はツキ(槻)で、記紀や『万葉集』にはこの名で登場を見る。所謂、万葉植物で、7首に詠まれ、斎槻(ゆつき)とあるように当時から神木の存在だったことを物語る。これはケヤキが巨樹であり、勢いのある樹木だったからであろう。

 樹冠に四季の変化が際立ち、春の花と葉の展開時の淡黄緑褐色の彩、夏の繁った葉による影、秋の黄葉(紅葉)、冬の裸木の姿、どれを見ても風情があって四季の国日本にピッタリの感がある。漢名は光葉欅で、これは美しい黄葉(紅葉)から来ている名であろう。加えて丈夫な木で、公園などに多く植栽されている。中でも特徴的なのは民家の防風林の樹種として用いられて来たことがある。

 このほど千葉県を襲った台風の暴風による被害は酷かったが、至るところで倒木が見られ、テレビの映像によると、植林された針葉樹のスギが圧倒的で、被害を大きくした感がある。この状況とケヤキの存在を思うとき、防災の観点から無暗な植林をしてはならない教訓が読み取れるとともに、ケヤキの活用なども考えるべきという気がして来た。

  なお、材は黄褐色または紅褐色で、木目が美しく、硬くて狂いが少ないため、建築、家具、細工物、楽器、船舶に用いられ、漆器の素材としても知られる。 写真はケヤキ。左から淡黄緑褐色に染まる花期の樹冠、淡緑色の花と開出したばかりの葉をつけた枝、陽に映える紅色を帯びた黄葉(周囲はスギの植林帯。植林のときケヤキは倒さず残したのだろう)、葉を落としたケヤキ林(川上村)。       虫の音や窓の下なるSerenade

<2819>  大和の花 (901) ムクノキ (椋の木)               ニレ科 ムクノキ属

              

 日当たりのよい二次林の雑木林などに生える落葉高木で、昔は社寺の境内や道端などに植えられた形跡がある。また、公園樹としてもよく見られる。高さは大きいもので20メートル超、幹は直径1メートルにもなる。樹皮は灰褐色で滑らかであるが、老木では鱗片状に剥がれ、空洞が出来、根元が板根状になって広がる特徴がある。葉は長さが4センチから10センチの長楕円形乃至は卵形で、先が尾状に尖り、基部は広いくさび形になる。縁には鋭い鋸歯が見られ、両面とも短い伏毛があってざらつき、脈がはっきりしている。

 雌雄同株、で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開と同時に淡緑色の小花を開く。雄花は新枝の下部に集まってつき、雌花は新枝の上部葉腋に1、2個つく。雄花は花被片、雄しべが5個。雌花は筒状で雄しべは見られず、雌しべの柱頭に白毛が密生する。核果の実は球形で、10月ごろ黒色に熟す。熟した実は硬いが、果肉は美味で、食用にされ、野鳥の好物としても知られ、ムクドリ(椋鳥)の名の元になったとも言われる。

 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、中国、台湾、東南アジアに見られるという。大和(奈良県)では北中部に多く見られ、標高の高い深山や山岳では見かけない樹種で、古来より植栽され、中には巨樹の古木も見受けられる。大和(奈良県)で最も名高いのは、昭和32年(1957年)国の天然記念物に指定された五條市二見の「二見の大ムク」(推定樹齢1000年、樹高15メートル、幹周り8.5メートル)で、旧家の敷地内にあって昔から「五條の守り本尊」と称せられ、室戸台風や伊勢湾台風にも耐え今に至ると言われる。

 なお、ムクノキ(椋の木)の名は1説に、老木になると樹皮が剥がれるムク(剥く)によるという。また、葉は研磨剤とされ、ものを磨き剥がす意によるとも言われる。別名にムクエノキ(椋榎)の名があるが、これはエノキ(榎)によく似ることによるからで、エノキと混同され、間違えられることもある。材は堅く、建築、バットなどの運動用具、薪炭などに用いられる。前述したごとく、葉は木地などの研磨に用いられる。 写真はムクノキ。左から花をつけた新枝、板状根の根元部分、黒色に熟した実、国の天然記念物に指定されている「二見の大ムク」。 虫の声ちんちろりんと継ぐ命

<2820>  大和の花 (902) エノキ (榎)                                             ニレ科 エノキ属

              

 丘陵や山地、沿海地などに多く生え、人里近くでもよく見られる日当たりのよい適度な湿り気のあるところを好む落葉高木で、高さは20メートル超、幹周りは直径1メートルに及ぶ。よく分枝し、横に広がる壮大な樹形を成す。樹皮は灰黒褐色で、小さな皮目が多い。葉は長さが4センチから9センチほどの広楕円形で、先は鋭く尖り、基部は広いくさび形になる。縁には鋸歯のあるものとないものがあり、成木では上部3分の1ほどに鋸歯が見られる。なお、葉は国蝶オオムラサキの幼虫の食草として知られる。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開と同時に緑白色の小さな花をつける。雄花は新枝の下部に集まってつき、上部の葉腋に両性花がつく。雄花は長楕円形の花被片4個、雄しべも4個。両性花は花被片4個、雄しべ4個、雌しべ1個で、花柱は2裂し、柱頭には白毛が密生する。核果の実は直径6ミリほどの球形で、秋に赤褐色に熟し、その後、しなびて黒くなる。果肉は赤く、甘みがあり、野鳥が好んで食べる。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では中北部で普通に見られ、南部では少ないと言われるが、各地に巨樹、古木が見られ、明日香村尾曽の「威徳院のエノキ」(推定樹齢500年、高さ24メートル、幹周り4.8メートル)と大淀町岩壷の「岩壷のエノキ」(推定樹齢400年、高さ18メートル、幹周り4.9メートル)は県の指定保護樹木として知られる。ほかにも庭園樹や街路樹として植えられ、公園などでもよく見かける。材は淡黄白色で、比較的堅く、建築材や家具材にされる。

 また、エノキは江戸時代の慶長9年(1604年)徳川秀忠が街道整備に一里塚の指標として植えさせたことで知られ、かつては村境の道祖神などにも植えられたと言われる。エノキ(榎)の名の由来については諸説あるが、用具の柄に用いたからとか道祖神に因む「サエノカミ」の「サエノキ」から「サ」が略され「エノキ」になったというのが暮らしに関わる民俗的な名として説得力がある。

  古名はエ(榎)で、この名によって『日本書紀』や『万葉集』に登場、エノキは万葉植物である。ほかにも別名、地方名が多いのは昔から親しまれて来た証と言える。なお、「榎」は木扁に夏で、夏によく葉を繁らせることを意味する国字である。 写真はエノキ。大きく壮観な樹冠(左)、花をつけた春の枝(中)、実をつけた秋の枝(右)。 虫の声壁より聞こえ来る不思議

<2821>  大和の花 (903) アキニレ (秋楡)                                                ニレ科 ニレ属

         

 ニレ(楡)はニレ科ニレ属の植物の総称で、北半球に約20種。日本にはハルニレ、アキニレ、オヒョウの3種が自生し、一般にはハルニレを指す。ここではその中のアキニレを見てみたいと思う。アキニレは山地の荒地や川岸などに生える落葉高木で、高さが15メートルほどになる。樹皮は灰緑色から灰褐色で、不揃いな鱗片状になって剥がれる。本年枝は淡紫褐色で、普通短毛が見られる。葉は長さが2.5センチから5センチほどの長楕円形で、先は鈍く、基部は左右不相称で、縁には鈍い鋸歯が見られ、表面にはやや光沢がある。葉柄はごく短く、短毛が生え、互生する。

 花期は9月ごろで、本年枝の葉腋に両性花が数個ずつ集まってつく。花は鐘形で、白い花被は基部近くまで4裂する。雄しべ4個は花被より伸び出し、葯は赤みを帯びる。雌しべは1個。花柱は2裂する。翼果の実は長さが1センチほどの扁平な広楕円形で、翼の中央に核が見られ、秋から初冬にかけて褐色に熟す。

 本州の中部地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では中部から北部に見られ、南部ではほとんど見られない。庭木、街路樹、公園樹としてよく植えられている。材は硬く、器具材に用いられる。また、若芽は食用にされる。なお、ニレの語源は1説にヌレ(滑れ)からという。これは樹皮の内側の汁が粘滑であるからで、『万葉集』には長歌1首に、この意を含むニレ(尓礼)で登場を見る。ニレは冒頭でも触れたが、一般にはハルニレをいう。だが、万葉当時のニレはハルニレとする説とアキニレとする説がある。という次第で、この状況から見て、アキニレは万葉植物の候補ということになる。学名はUlmus parvifoliaで、英名はelm。ハルニレはまだ出会えていない。 写真はアキニレ。花をつけた枝(左)、翼果(中)、樹皮が剥がれた幹(いずれも大和郡山市の県立大和民俗公園)。  虫の音や聞き入るほどに聞こえ来る

 

 


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