大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年08月26日 | 植物

<2430> 大和の花 (591) カワラナデシコ (河原撫子)                               ナデシコ科 ナデシコ属

           

 日当たりのよい草地や河原、道端、山足、棚田の土手などに生える多年草で、膨れた節のある茎は叢生し、高さが30センチから80センチほどになる。葉は長さが4センチから7センチの線形乃至は披針形で、先が鋭く尖り、基部は茎を抱いて対生する。

 花期は6月から10月ごろで、茎頂につく花は淡紅色(稀に白色)で、直径4、5センチ。花弁は5個で、縁が細かく糸状に裂けるのが特徴。雄しべは10個、雌しべの花柱は2個。萼筒は長さが3、4センチで、その下側に3、4個の苞葉が対生する。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮、中国、台湾に自生するという。北海道には中部地方以北に分布するエゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)が見られる。カワラナデシコ(河原撫子)は単にナデシコ(撫子)と呼ばれ、花が美しく撫でてみたい子のようだという意によるとされ、河原に生えるのでこの名がある。

 『万葉集』にはナデシコとして26首に見える万葉植物で、全てが花に関わって詠まれ、かわいらしい花が愛でられていたことを示している。殊に『万葉集』の編纂者大伴家持は11首にナデシコを詠み、自邸の庭にも植えて観賞していたほどである。また、『万葉集』には「萩の花尾花葛花瞿麥(なでしこ)の花女郎花また藤袴朝顔の花」(巻8-1538)という旋頭歌が見られ、詠み手の山上憶良はカワラナデシコをハギやススキとともに秋の七種(草)にあげ、今に至っている。

 一方、清少納言は『枕草子』に「草の花は、なでしこ。唐のはさらなり、大和のも、いとめでたし」と、中国産のカラナデシコ(唐撫子)のセキチク(石竹)とともにカワラナデシコの花を絶賛している。また、カラナデシコに対し、ヤマトナデシコ(大和撫子)とも呼ばれ、日本女性を象徴する花としてあげられ、サッカー日本女子代表の愛称「なでしこジャパン」はこのヤマトナデシコのカワラナデシコにより命名されたことで知られる。更にトコナツ(常夏)の別名でも知られ、『源氏物語』の巻名にもなっているが、これは夏のはじめのころから秋の晩くまで花を咲かせることによる。

  麦に似た蒴果の実は瞿麥(くばく)、種子は瞿麥子(くばくし)と呼ばれ、薬用として利尿、通経に効能を有する。大和(奈良県)では各地で見られるが、河原よりもむしろ高原に多く、曽爾高原はよく知られる。写真はカワラナデシコ(曽爾高原ほか)。            晩夏光痩身の父田の畦に

<2431> 大和の花 (592) フシグロセンノウ (節黒仙翁)                           ナデシコ科 センノウ属

                               

 山地の林下や林縁の草叢に生える多年草で、草丈は40センチから80センチほど。茎に黒紫色を帯びる太い節があるのでこの名がある。センノウ(仙翁)は、昔、京都の嵯峨にあった仙翁寺に因むと言われる。葉は長さが4センチから12センチの卵形または楕円状披針形で、先は尖り、縁に毛が生え、対生する。

 花期は7月から10月ごろで、茎頂に直径約4センチの朱赤色から赤橙色の花を普通上向きに開く。花は倒卵形の花弁5個が平開する。各花弁の基部には目印のような濃い色の鱗片がつく。北の北海道と南の沖縄を除く全国各地に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)でも山間地に出かけると出会える。 写真はフシグロセンノウ(山添村毛原ほか)。   処暑過ぎし陰影朝戸出の緑

<2432> 大和の花 (593) フシグロ (節黒)                                 ナデシコ科 マンテマ属

                               

 山野の草地に生える2年草で、高さは大きいもので80センチほどになり、直立して分枝する。茎には黒紫色を帯びた節があり、この名がある。葉は長さが4センチから7センチの長楕円形から卵状披針形で、先は鋭く尖り、縁には鋸歯がなく、毛が生える。

 花期は6月から9月ごろで、茎頂や葉腋に長さが2センチ前後の柄を有する花をつける。花は5弁花で小さく、開出部は長さ数ミリ、白色もしくは淡紅色で、先が2中裂する。雄しべは10個、雌しべの花柱は3個。萼は9コの条が縦縞をなす筒状鐘形で、7ミリ前後。実は蒴果。

 北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では、アムール、ウスリー、中国東北部、朝鮮半島などに見られるという。大和(奈良県)では、曽爾高原の草原で見かけるが、小ぶりな個体が多い。食用、薬用ともに聞かない。 写真はフシグロ。

   空蝉の背中裂けゐる大事かな

 

<2433> 大和の花 (594) ワチガイソウ (輪違草)                            ナデシコ科 ワチガイソウ属

                         

 山地の木陰や林縁に生える多年草で、高さは5センチから15センチになり、群落をつくることが多い。葉は長さが1センチから4センチの卵状披針形乃至は倒披針形で、先は尖り、縁に毛があり、短い柄を有して対生する。

 花期は4月から6月ごろで、上部の葉腋から細い柄を出し、先端に1花をつける。花は直径1センチ弱の白色5弁花で、普通上を向いて開く。雄しべの葯は濃紫色で目立つ。本州の福島県以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。

  ヒゲネワチガイソウ(髭根輪違草)やワダソウ(和田草)によく似るが、両者は大和(奈良県)では見かけない。ワチガイソウは大峰、台高山系の標高1400メートル以上の深山に多く、白い小さな花が登山者を迎えてくれる。

    如何にあり如何に咲けども花は花 花は命の灯(ともしび)とこそ

 

<2434> 大和の花 (595) ナンバンハコベ (南蛮繁縷)                    ナデシコ科 ナンバンハコベ属

              

 山野の林縁などに生える多年草で、茎はつる状に伸び、よく枝を分け、他物に寄りかかって成長し、長さが1.5メートルから1.7メートルほどになる。また、茎には節があり、そこから根を出す。葉は長さが2センチから9センチの卵形で、質は薄く、先は尖り、縁には鋸歯がなく、短い柄を有して対生する。茎や葉など全体に細毛が生える。

 花期は7月から10月ごろで、分枝した小枝の先に1花をつける。緑色の萼は5個からなり、子房と合生した筒状広鐘形で、5中裂する。裂片は1センチほどの長卵形で先が尖る。白色の花弁は5個が離生し、長さが1.5センチほどで、途中で反り返り、反った先は2裂する。雄しべは10個、雌しべは3個。実は液果状の蒴果で、熟すと光沢のある黒色になる。

  この風変わりな花の形が異国風に見られ、その名にナンバン(南蛮)が冠せられたもので、外来の帰化植物ではなく、れっきとした在来種である。北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では中国東北部、朝鮮、アムール、ウスリー、サハリン、千島などに見られる。大和(奈良県)では山足などでときに見かける。写真はナンバンハコベ(花と実・高取町ほか)。

  淋しさの記憶に花火遠花火

 

<2435> 大和の花 (596) ツメクサ (爪草)                                              ナデシコ科 ツメクサ属

                   

 日当たりのよい山野の草地から荒地、道端、河原などに生え、庭などにも入り込む1、2年草で、草丈は20センチほど。株をつくり、よく分枝して伸びる。葉はぶ厚く、長さが5ミリから2センチの線形で、先が尖り、対生する。この葉が鳥の爪に似るのでこの名があるという。

 花期は3月から7月ごろで、葉腋に柄のあるミリ単位の白色5弁の花を1個ずつつける。離生した萼片5個は花弁とほぼ同長、雄しべは5個で、葯は白色。雌しべの花柱も5個で、花弁は退化してときに少ない花も見られる。実は卵形の蒴果で、熟すと5裂する。

 日本全土に分布し、国外では朝鮮半島、中国、サハリン、南千島、インド等に見られ、大和(奈良県)では深山から平地まで垂直分布も広い範囲に及ぶ。なお、中国では漆姑草(しっこそう)の名で呼ばれ、皮膚のかぶれに用いられるという。 写真はツメクサ(左から東吉野村の標高1320メートルの明神平、川上村の神之谷の川床、シカの食害を免れた奈良公園の芝地の個体と花のアップ)。   

  鈴虫の鈴の音やさし原野かな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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