大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年09月08日 | 植物

<2443> 大和の花 (602) アカネ (茜)                                     アカネ科 アカネ属

                     

 山野に見られるつる性の多年草で、断面が四角形の茎はよく分枝し、下向きの刺があって、他の草木に引っかかり、1メートルから3メートルほど這い上って繁茂する。葉は長さが3センチから7センチの三角状卵形乃至は狭卵形で、先は次第に細くなって尖り、縁に鋸歯はなく、基部は心形になる。葉は4個が輪生状につくが、その中の2個は托葉が発達して大きくなったもので、偽輪生と呼ばれ、実際は対生である。葉柄や葉の裏面脈上にも鋭い刺がある。

 花期は8月から10月ごろで、葉腋から出る集散花序に黄緑色の花をつける。花は直径3、4ミリ。花冠は5深裂し、裂片は尖り、完開すると反る。雄しべは5個、雌しべの花柱は2個。液果の実は直径数ミリ超の球形で、熟すと紅色から黒色になる。本州、四国、九州に分布し、国外では中国、朝鮮半島、台湾に自生し、大和(奈良県)でも山野で普通に見られる。

 一見すると、変哲もないつる植物であるが、昔の人はこのつる植物を大いに利用して来た。まず、染料に用いたことがあげられる。アカネは黄赤色の太いひげ根を有し、その名はこのひげ根を乾燥すると赤紫色になる赤根によるという。この赤根を熱湯で煮出した汁にはアリザリンという物質が含まれ、この汁を染料に用いた。これが草木染の茜染めで、赤い色に染まる。

 ムラサキ(紫草)の紫色、ヤマアイ(山藍)の藍色、クレナヰ(紅)の紅色と同じく、アカネ(茜草)は古来より赤系統の色名としてあり、植物本体よりも根による染めの色名として知られるに至り、『万葉集』の歌にもこの色名で見え、「あかねさす」という紫、日、月、照る、昼などの言葉にかかる枕詞として用いられ、万葉植物として名高い。現在もアカネ(茜)と言えば、植物本体よりもこの根による茜染め色名の方のイメージが強く、茜空とか茜雲、トンボの秋茜などにその例を見ることが出来る。

 一方、薬用植物としても知られ、根を天日に干して乾燥させたものを茜草根(せんそうこん)と言い、これを生薬とする。煎じて服用すれば、止血、解熱、強壮、利尿、通経等多方面に効能があるとされる。アカネは古来より有用植物として大いなる働きをもってあった。なお、黒い実も染料に用いるという。 写真はアカネ(金剛山ほか)。    赤とんぼ僕らは地動説の中(うち)

<2444> 大和の花 (603) カワラマツバ (河原松葉)                                  アカネ科 ヤエムグラ属

            

 日当たりのよいやや乾いた山野の草地に生える多年草で、細毛のある堅い茎は直立して60センチから90センチほどの高さになる。葉は長さが3センチほどの線形で、先に短い刺があり、8個から10個が輪生するように何段かにつく。この輪生状につく葉は2個が真の葉で、ほかは大きくなって分裂した托葉として知られ、これもアカネ科の植物に多い偽輪生である。

 花期は7月から8月ごろで、茎の先や上部の葉腋に白い小花を多数円錐状につける。小花の花冠は直径2ミリほどで、4裂して平開する。雄しべは4個。実は双頭状。カワラマツバ(河原松葉)の名は葉が松葉に似て、河原に生えることによる。西南諸島を除く日本全土に分布し、東アジア一帯に見られるという。大和(奈良県)でも山野に見られる。花が黄色のキバナカワラマツバ(黄花河原松葉)は本種の母種で、分布に異なりはないが、私はまだ出会っていない。なお、若芽は食用にされる。写真はカワラマツバ(奈良市)。  地球生命は天地明暗の相対的総体においてある

<2445> 大和の花 (604) ヘクソカズラ (屁糞葛)                             アカネ科 ヘクソカズラ属

                       

 日当たりのよい薮や草地などに生えるつる性の多年草で、ほかの木や草に絡まって伸び、根本は木質化する。葉は長さが4センチから10センチほどの楕円形または長卵形で、先は尖り、対生する。葉柄の基部には、アカネ科特有の左右の托葉が合着した三角状の鱗片が見られる。全体的に臭気を含み、茎や葉を揉むと独特の臭いがするのでこの名がある。『万葉集』には屎葛(くそかづら)の名で登場し、万葉植物としても知られる。

 花期は8月から9月ごろで、葉腋から短い集散花序を出し、長さが1センチ前後の筒状花をつけ、先端は5浅裂して開く。筒部の外側は灰白色で、先端の裂片は白色。開口部と内側は鮮やかな紅紫色で毛が多く、その色合いが印象的で、この花のイメージから紅を差した早乙女を連想したサオトメバナ(早乙女花)、内側の紅い色をお灸と見なしたヤイトバナ(灸花)の別名がある。「屁糞」と「早乙女」では随分な落差であるが、ともに実感から来ている名である。核果の実は直径5ミリほどの球形で、黄褐色に熟し、つるの茎とともに冬枯れの時期にも残る。

 日本全土に分布し、東アジアに広く見られ、中国には鶏屎藤(けいしとう)というやはり臭いによる生薬名があり、全草を煎じて服用し、利尿、腎臓病、脚気、下痢などに用い、日本でも生の実の汁をしもやけやあかぎれの外用薬にし、薬用植物としても知られる。 写真はヘクソカズラ(御所市ほか)。左からつる状に伸び上がり咲く花、花序のアップ(右上にアオツヅラフジの花が見える)、稔りのときを迎えた実(緑色の大きい実は赤くなる前の未熟なヒヨドリジョウゴの実)。

    花は時 実も時 時のありがたさ 思ふべくあれ 人生もまた

 

<2446> 大和の花 (605) ツルアリドオシ (蔓蟻通し)                          アカネ科 ツルアリドオシ属

                   

 日当たりのよくない山地の林内や林縁に生える常緑の多年草で、茎は地を這い、節々から根を出し、長さ10センチから40センチほどになる。濃緑色で厚く、縁に鋸歯がないやや波打つ無毛の葉は長さが1センチから1.5センチほどで、対生する。

 花期は6月から7月ごろで、花は枝先に2個並んでつく特徴がある。純白で、稀にうっすらと赤みを帯びる花冠は長さが1.5センチほどの筒状漏斗形で、先は普通4裂し、裂片はやや尖る。如何なるわけか、裂片の内側には白毛が密生する。雄しべは4個、雌しべは1個で、先は4裂する。

  花の基部には実になる子房が2個合着し、普通2個の花がペアになって寄り添うようにつく。実は球形の液果で、直径8ミリほど。赤く熟し、花の跡の窪みが2個残る。地を這う地味な姿の草本であるが、純白の花と真っ赤に稔る実によってよく目につく。ツルアリドオシ(蔓蟻通し)の名は、茎がつる状に伸び、実が翌年の花どきまで残る「在り通し」によると一説にある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では各地に見られ、近隣の山に出かければ出会える。ときに小群落の花に行き当たることもある。 写真はツルアリドオシ。花と実(平群町ほか)。

  秋黴雨(あきついり)日本列島傘模様

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿