大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年02月13日 | 植物

<2237> 大和の花 (437) ハンノキ (榛の木)                                カバノキ科 ハンノキ属

     

 湿地などの湿潤地な地に生える落葉高木で、高さは10メートルから20メートルほどになり、幹の直径は太いもので60センチ前後。樹皮は紫褐色で、浅く裂けて剥がれる。枝は褐色で滑らかだが、屈曲し、上部ほど短く、整った樹冠を見せる。葉は長さが5センチから10数センチの卵状長楕円形で、先は尖り、縁には不揃いの小さな鋸歯がある。側脈は7対から9対あり、裏面に隆起する。葉柄は数センチで、互生する。

 雌雄同株で、花期は冬から春先で、葉が出る前に開花する。雄花序は長さが6センチ前後で、枝先に2個から4個垂れ下がり、雌花序は赤紫色で、短い柄がある長さ数ミリのマッチ棒の先のような形をし、雄花序の下側に1個から5個上向きにつく。堅果の実は長さが2センチ前後の卵状楕円形の果穂で、扇形の果鱗と卵形の堅果を含み、10月ごろ濃褐色に熟す。

 北海道から沖縄まで全国的に分布し、国外では南千島、ウスリー、朝鮮半島、中国、台湾などに広く見られるという。大和(奈良県)では北部地域に多く、生育適地の湿潤なところが多いからではないかと考えられている。ハンノキ(榛の木)の名は古名ハリ(榛)に由来すると言われるが、ハリ(榛)の語源は定かでない。漢名は赤楊。宇陀市の榛原(はいばら)の地名はハリハラの転訛であろう。ハンノキが多く見られたからではないか。

  ハンノキは古来よりタンニンを含む実を染めに用いた染料植物として知られ、『万葉集』にも詠まれている万葉植物でもある。例えば、巻7の1156番の歌に「住吉の遠里小野の真榛もち摺れる衣の盛り過ぎゆく」と見える。この染めは中国から伝来したものに工夫を加えた榛摺という黒摺の一種で、ハンノキの熟した実の黒灰を用いた。この染めによると斑の模様が出来、この模様が好まれ、貴族から庶民まで人気があったとようで、歌にも多く詠まれているわけである。

  また、ハンノキは田の畦の木としても知られるが、これは「ハンノキの花多き年に不作なし」とか「ハンノキの実の多い年は米がよく出来る」と言われて来たように、ハンノキが稲の作柄の指標にされていたことに関わりがあったのかも知れない。なお、ハンノキは冬から春先の花、初夏の新緑、秋の黄葉と、四季それぞれに趣のあることで知られ、昔から親しまれて来た。 写真はハンノキ。左から花、実(この実を灰にして万葉人は摺り染めに用いた)、開出時の若葉 (黒滝村ほか)。   榛の花天より聞こゆ早春歌

<2238> 大和の花 (438) ケヤマハンノキ (毛山榛の木)                           カバノキ科 ハンノキ属

                                           

 丘陵から山地、または川岸や渓谷沿いに生える落葉高木で、高さは10メートルから20メートルほどになり、幹の太さは、大きいもので直径80センチ前後。樹皮は紫褐色でハンノキのようには剥がれず、滑らかで、横に長い皮目がある。新枝には軟毛が密生する。

  葉は長さが8センチから15センチほどの広卵形で、先は鈍く尖り、基部は円形、縁には欠刻状の重鋸歯が見られる。側脈は6対から8対で、裏面に突起する。葉柄は3センチほどで、互生する。枝や葉、冬芽などに軟毛が多いのでこの名がある。毛のないものはヤマハンノキと呼ばれるが、中間型も見られ、判別は難しい。

 雌雄同株で、花期は4月ごろで、葉の開出前に花をつける。雄花序は長さが8センチ前後で、枝先に2個から4個垂れ下がる。雌花序は赤紫色で、雄花序の枝の下側につき、普通下向きに咲く。果穂は長さが2センチ前後の楕円形で、果鱗と堅果からなり、濃褐色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、サハリン、カムチャッカ、東シベリア、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では全域的に分布し、砂防用に植栽されたものもあるという。材は器具や家具に用いられる。 写真はケヤマハンノキ。左から枝木いっぱいに垂れ下がる雄花序、花序のアップ(垂れ下がっているのが雄花、赤紫色の雌花も見える)、雄花のアップ。   春キャベツああ高いねと妻の声

<2239> 大和の花 (439) カワラハンノキ (河原榛の木)                           カバノキ科 ハンノキ属

          

 日当たりのよい川岸や河原などに生える落葉低木乃至は小高木で、この名がある。高さは大きいもので7メートルほどになり、枝をよく分ける。樹皮は暗褐色。葉は長さが5センチから10センチほどの広倒卵形で、先は少し凹むもの、丸いもの、短く尖るものなどが混在し、、基部は広いくさび形。縁には波状の鋸歯があり、側脈は6対から9対。質はやや厚い洋紙質。葉柄は長さ1センチ前後で、互生する。

 雌雄同株で、花期は2月から3月ごろ。葉の展開前に開花する。茶褐色の雄花序は長さが5センチから8センチほどで、枝先に2個から5個垂れ下がる。赤紫色の雌花序は雄花序の下側について上向きになる。堅果の果穂は長さが2センチ弱の広楕円形で、秋になると濃褐色に熟す。

 本州の東海地方以西、四国、九州の宮崎県に分布する日本固有の植物で、大和(奈良県)では、ネコヤナギ(猫柳)とともに吉野川、十津川、北山川など大きい河川の川岸でいち早く咲き出す。 写真はカワラハンノキ。左から枝木いっぱいに花をつける個体、花のアップ(ともに吉野川の岸辺)。右は若い実をつけた個体(北山川の岸辺)。   あけぼのの空あかつきの鳥に春 

<2240> 大和の花 (440) ヤシャブシ (夜叉五倍子)                                  カバノキ科 ハンノキ属

      

 丘陵から山岳高所の尾根筋などに生える落葉小高木で、高さは大きいもので10数メートルになる。樹皮は灰褐色で、若木では滑らかだが、古木になると剥がれ、よく分枝する。葉は長さが4センチから10センチの狭長卵形で、先は鋭く尖り、基部はややくさび形になる。縁には細かい重鋸歯があり、側脈は13対以上と多い。

 雌雄同株で、花期は3月から4月ごろ。山岳の高所では5月ごろ開花し、葉の展開前に花をつける。雄花序は無柄で、長さ数センチ。やや太く、枝先にやや曲がって垂れる。雌花序は雄花序より少し離れた下部に柄を有して1、2個が直立する。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ弱の広楕円形で、熟すと濃褐色になる。

 本州の福島県から紀伊半島に至る太平洋側、四国、九州に分布する日本固有の植物として知られる。大和(奈良県)では中南部の標高が1000メートル以上の高所に多く、大台ヶ原の大蛇嵓で観察出来る。ヤシャブシ(夜叉五倍子)の和名については、果穂にタンニンが含まれ、ウルシ科のヌルデ(フシノキ)の葉に寄生するヌルデシロアブラムシの仲間によって作られる虫えいのフシ(五倍子)と同じく、このタンニンによって黒色系の染料にしたことによるという。これで染めると、八塩染めのように濃く仕上がり、この八塩(やしお)と果穂が夜叉面の趣をもっていることによってつけられたと1説には言われる。また、実は熱帯の淡水魚を飼育する水槽のブラックウオーターに用いられ、市販されている。

 ヤシャブシはミネバリ(峰榛)、ガケバリ(崖榛)、ヤシャハンノキ(夜叉榛の木)などの別名でも知られるが、峰や崖地に生える榛(はり)、即ち、こうしたところに生えるハンノキを意味する。材は極めて堅く、オノオレ(斧折れ)と言われるほどで、ろくろの部材に用いられたり、薪炭材にされたりして来た。このように強く堅い木で、痩せ地にも適応し、成長も速いので、砂防工事の緑化に用いられたりしている。 写真はヤシャブシ。左から葉の展開前に咲き出した雄花序(雌花序も見える)、実になりつつある雌花序、初夏の青空に映える若葉と実、熟すと濃褐色になる若い実(大台ケ原山ほか)。  雪解けや日差しの中に鳥の声

<2241> 大和の花 (441) オオバヤシャブシ (大葉夜叉五倍子)                カバノキ科 ハンノキ属

                         

 丘陵や山地の崩落地などに生える落葉小高木で、高さは大きいもので10メートル、幹の太さは直径10センチほどになる。樹皮は灰褐色、枝は緑褐色で、円形の皮目が目立つ。葉は長さが数センチから12センチほどの長卵形。先は鋭く尖り、基部は円形で、縁には鋭い重鋸歯がある。側脈は多いもので10数対に及ぶが、左右がかなり不揃いの特徴がある。葉柄は2センチほどで、互生する。

 雌雄同株で、花期はヤシャブシと同じく3月から4月ごろ。葉の開出とほぼ同時に開花する。雄花序は無柄で、長さは数センチ。やや太く、弓なりに曲がるものが多く、前年枝の葉腋から垂れ下がる。雌花序は2センチ弱の柄があり、雄花序より上側に直立してつく特徴がある。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ前後の狭長楕円形で、濃褐色に熟す。

 オオバヤシャブシの名はヤシャブシよりも葉が大きいことによる。果穂も大きい。ヤシャブシに似るが、本種では枝先に雌花序がつき、その下側に雄花序が出来る違いがある。つまり、枝の先から葉芽、雌花序、雄花序の順につくので、この点を見れば、判別出来る。用途はヤシャブシとほぼ同じで、砂防用に植えられ、果穂はタンニンを含み、染料にされる。

 本州の福島県南部から紀伊半島までの太平洋側と伊豆諸島に分布する日本固有の植物として知られる。大和(奈良県)ではほぼ全域に見られるが、海岸近くに自生する特徴があることから、大和(奈良県)のものは道路工事などで植えられた植栽起源、もしくはその逸出のものがほとんどではないかと考えられている。  写真はオオバヤシャブシ。葉の展開と同時に雌雄の花をつける枝木。前年の実も見える(左)と枝先から葉芽、雌花序、雄花序の順に並ぶ典型的な枝(右)。   誘ひあり三寒四温の温の日に

<2242> 大和の花 (442) ヒメヤシャブシ (姫夜叉五倍子)                       カバノキ科 ハンノキ属

            

 丘陵や山地の痩せた土地や崩落地に生えることの多い落葉低木で、高さは大きいもので7メートルほどになる。他種に比べ小さいのでこの名がある。樹皮は緑褐色で滑らか。横長か丸い皮目が目立つ。枝は暗赤褐色で、若枝には毛が生える。葉は長さが5センチから10センチの狭卵状披針形で、先は細長く尖り、基部はややくさび形。縁には細かい重鋸歯がある。側脈は多く20数対に及び、裏面に隆起する。

 雌雄同株で、花期は3月から5月ごろ。葉の展開と同時に開花し、雄花序は他種よりやや細く、長さが4センチから6センチほどになり、枝先に1個から3個ほど垂れ下がる。雌花序は有柄で、柄に数個が下向きにつく。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ弱の楕円形で垂れ下がり、10月から11月ごろ暗褐色に熟す。

 北海道、本州、四国に分布する日本固有の植物として知られるが、砂防用などに植栽されることが多く、逸出して野生化しているものも多く見られ、人によって分布を広げている可能性が高い木である。他種と同様、本種も実にタンニンを含み、黒色系の染料にされて来た。 写真はヒメヤシャブシ。いっぱいに花を咲かせる枝々(左)、花序のアップ(中・右)。ともに五條市西吉野町で撮影したものであるが、道路の脇の傾斜地で、植栽起源と思われる。   不束に生きて来てまた巡る春


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