<3715> 野鳥百態 (43) 旅 鳥
出迎える鳥
見送る鳥
ほんのわずかな
出会いの鳥
旅鳥 たびどり
渡りの鳥
旅鳥を手持ちの『広辞苑』で引いてみると、「たびどり」で見え、「一つの地方について、より北方に繁殖地、南方に越冬地を持ち、春と秋の渡りの途中でその地方を通過する渡り鳥。日本ではシギ、チドリなど」とある。所謂、渡りの途中、何らかの理由によって立ち寄る鳥をいう。普通は棲息も渡来もせず、暴風など偶然の出来事に起因し迷い込む鳥として認識される迷鳥とはこの点において区別される。
つまり、旅鳥は目的地がまだ先にある旅の途上にある鳥ということになる。私は大和地方(奈良県域)において確実に旅鳥といえる渡り鳥に二度、その旅鳥は一般には馴染みの薄いシマアジとヤツガシラで、ともに三月に出会った。三月ということは越冬地の南方から繁殖地の北方への旅の途中ということになる。
ともに広大な園地を誇り、点在する墳丘の広い草地、雑木の自然林、灌漑用の溜池などが複合的に取り入れられている奈良県営馬見丘陵公園で出会ったもので、シマアジは雌雄一対。羽を休めに立ち寄ったのであろう。仲よく泳ぐ姿が園地傍の下池で見られた。ヤツガシラは一羽で、雌雄どちらなのか、墳丘の草地の一角で、細長い嘴を草地に差し入れて食事に余念がなかった。
ともに二日ほど滞在して姿を消し、見えなくなった。偶然に立ち寄ったものか、長旅の旅程に組み入れていたものか。思うに、長旅のシミュレーションの一端に組み入れられていたような気もする。どちらにしても、遠路長距離の旅は一気にとは行かず、どこかで休憩を取ることになる。ということで、旅鳥という言葉も生まれたということであろう。
なお、シマアジはカモ目カモ科マガモ属のカモの仲間で、全長40センチ弱、オスの頭の部分によく目につく白い模様が入る特徴がある。典型的な渡り鳥で、日本の本州はほぼ通過点と見られ、旅鳥の認識で捉えられている。
ヤツガシラはサイチョウ目ヤツガシラ科ヤツガシラ属で、全長28センチ前後。細長く緩やかに曲がった黒い嘴と扇状に開く橙黄褐色で先が黒い冠毛が目につく。日本ではほぼ旅鳥として見られている。 写真は雌雄で仲よく泳ぐシマアジ(左・手前がオス)と冠毛を開くヤツガシラ(右)。