大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年02月28日 | 創作

<1521> カワセミとカイツブリ (2)

         かいつぶり型とかはせみ型の生 人にも言へる個性思へば

 カワセミはよく水に潜るカイツブリに向かって「水の中はどんな具合になっているんだ」と訊いた。カイツブリは「知っての通り、この池の水は綺麗なんで、結構見通しがいい」と答えた。と、カワセミはすかさず、「池の真ん中辺りには何かあるんだ」と訊いた。カイツブリはカワセミが池の中のことに全く疎いのを知って、少々得意になって続けた。

「真ん中は深く広々として自由自在に泳げる。ので、潜る訓練に適した場所なんだ」と。 カワセミは得意げに話すカイツブリに、なお、「どのくらい潜っていられるんだ」と訊いた。カイツブリは「いつも池の真ん中辺りで訓練しているんだけど、二、三分なら自信がある」と答えた。「ほう、二、三分か、長いようで短いんだろうな。その間に小魚を射止める。まさに神業だよな、それは」。カワセミはその場面を想像しながらそう言った。

        

 カイツブリはカイツブリでカワセミが気になって訊ねた。「どうしてそんなに美しい羽を持っているんだ」と。これに対し、カワセミは「この美しい羽と大きなくちばしは神さまから授かったものだと母親から教わった」と答えた。カイツブリは続けて、「何であんなに素早く飛ぶことが出来るんだ」と訊いた。カワセミは即座に応えて「毎日欠かさずやっている訓練のお陰だよ」と言った。そして、「お前さんもやってるじゃーないか、訓練。そう、失敗を重ねて。それを経験して生かす。失敗は向上に繋がる」とつけ加えた。

 「私はね、素早く飛ぶことが出来る君が羨ましくて、沖で訓練するとき、飛ぶことにも挑戦して懸命になっているんだが、水面すれすれにしか飛べない。もっと高く飛べたらどんなにいいかと思うんだが、なかなか君のようには飛べない」とカイツブリは述懐するように言った。これを聞いてカワセミは「ぼくも実は水の中を自在に泳げるお前さんが羨ましくて、ほかの池で潜る稽古をしているんだが、一向に上達しない。そればかりか、魚を捕える瞬時の感覚も鋭さが欠ける破目になっているみたいで、情けないことになっていると最近思うようになった」と答え返した。

 「そうだなー」とカイツブリはわかったという気になって、ひとり言のように呟いた。「羨むということは、所詮、自分に自信がないからなんだが、自信なんてなくて当たり前のようなことにまで私たちは対象を広げ、それに対してああでもない、こうでもないと考える。これがいわゆる羨望に繋がる」と。そして、なお、加えて言った。

 「言わばね、そこのところなんだと思う。気づいたよ。君を羨んだって所詮君のように美しくはなれないし、あんなスピードでなんか飛ぶことは出来ない。その代わりと言っては何だが、私には君に出来ない水に潜るという得意技がある。この得意技を究めることが実は大切なことなんだ」と。

 このカイツブリの話を聞いて、カワセミは思った。そういうことなんだ。「ぼくがカワセミのカワセミたる美しい羽と身に不釣り合いなほど大きなくちばしを持ち得ているのは、神さまの思し召し、お陰に違いない。とするならば、その神さまからの賜物を大切にし、一心に磨くこと、ほかを羨望することはこの一心の妨げにこそなれ、この身のためにならない」と。そして、カワセミはなお思った。これは俺だけのことではなく、生きとし生ける神さまから授かった命あるもの全てに言えると。言わば、カワセミはカイツブリとの対話によって教訓を得たのであった。

                         *                                       *

 然るに、思われるのであるが、カワセミの茶色のお腹と瑠璃色の羽の色合いは、水中の魚の目線からして、枝にとまるカワセミが空を背景にするときその自然の風景に溶け入ってわかり難くなる色合いではなかろうかということ。カワセミは今日何匹目か、小魚を捕え、小枝から飛び去って行った。カイツブリは果してどれほどの小魚を、その得意な潜りによってものにしたのだろうか。ともに失敗を繰り返しながら日々を送っている。言わば、その生の日々はまさに訓練と実践である。訓練は明日への発展を約束し、実践は今を生きる何ものにも代えがたい意味を持っている。

 言わば、神さまからの賜物である生来の個性というのは何ものにも代えがたい大切にすべきもので、このカワセミとカイツブリの話にはこの教訓が秘められている。 写真はイメージで、カワセミ(左)とカイツブリ(右)。なお、カワセミには忍耐力、カイツブリには行動力が思われる。