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OCRした本の目次みたいなもの

昨日借りた、28冊を処理していた。それで一日が終わってしまった。

OCRした本

302.45『ケニアを知るための55章』

 ケニアにおける観光:近年の治安の悪化は、ケニア観光の相対的な地位の低下をもたらしている。いまだ旅客数では一位であるが、独走状態ではなくなっているのである。サファリーツアーは、現地社会とは切り離された安全かつ快適な空間のなかで成立している。

 就職事情:失業率は36%から40%に達するのでないかと指摘されている。人類学を専攻した学士が、定職がなく、毎日ぶらぶらしていたりする。今日、ケニアの大学生にもっとも人気のある就職先は、国内外のNGOである。

319『「Gゼロ後の世界』

 サイバー空間の脅威:Gゼロ世界、特にアメリカが世界唯一の軍事超大国として君臨しつづける世界において、紛争が発生する場所として最も過小評価される場所がサイバー空間だ。スマート・グリッドの全世界的な市場価値は、二〇〇九年は七〇〇億ドルだったが、二〇一四年までには一七〇〇億ドルに拡大すると予想されている。

 インターネット:リーダー不在の世界で、すでに表面化しはじめているインターネット戦争は、特に厄介な問題だ。

 水:人口数世界一位と二位の中国とインドが、すでに深刻な水の安全保障問題に直面している。ナイル川流域には現在、三億七〇〇〇万人が暮らし、その数は増えつづけている。気候変動のため、すべてはヒートアップしている。

 中国はどうなるか?:Gゼロ世界において、中国の発展が予測可能な経緯をたどる見込みは、主要国の中で一番低い。

312.27『シリア』

 吹き荒れた春の嵐:シリアでの動きは鈍かった。民衆蜂起の気運はなかなか表面化しない。だか、その静けさは激しい嵐の前兆だった。政権側はムスリム同胞団と米国政府の結びつきを強く疑った。

 、シリアの現政権がこれからどうなるのだろう、民衆蜂起の過程でデモが最も燃え盛った一一年七月、反体制派グループでは全国で一〇〇万人以上の民衆が街路に出たと主張したか、政府側ではせいぜい一三万五〇〇〇人程度だったとしている。革命が成功するにはクリティカル・マスといわれるほどの民衆か街路に出る熱気と勢いが必要だが、シリアではまだそのレペルには達していなかった。

 バシャール・アサド大統領個人に対する批判となると事情は変わってくる。大統領夫妻の生活はアラブ世界にあって例外的ともいえるほどつつましい。国民はそれを知っている。

914.6『人生の教科書』

 恋愛・結婚:愛するとは、見返りなしでも優しくすること;恋とは自分の意思で落ちるもの:自分を卑下する気持ちが無償の愛;恋愛は幻想であるべきだ;恋愛はルール無視の暴走である;恋の上手な終わらせ方;恋愛とは後悔の連続である;結婚とは「死」に似たもの;結婚生活は「I十I=2」ではない;夫婦のシステムはもっと変わるべき

537.48『フェイスブックをつくったザッカーバーグの仕事術』

 人間とは、本能的につながりたい生き物なのだ。世界は潜在的な友人で満ちている

 一人ひとりに自分の声を与えるんだ。知ることは得をすること

 フェイスブックが目的とするのは、知る力を高めることだ。仕事を世界に対する義務ととらえる

 技術的には可能だ。でも、誰もほしがっていない。一番気になることを満たすのがサービス

002.7『勉強上手』

 SNSで精度の高い情報を集める方法:SNSを使わないビジネスマンは、間違いなく時代に取り残される。九〇年代にはまだそれほど一般的ではなかったメールが、この十年間でビジネスツールとして急速に定着している。それと同じで、SNSも十年後にはビジネスツールになっているだろう。

304『2033年地図で読む未来世界』

 中国 経済成長、そして高齢化へ:一人っ子政策を行なっていなければ、2030年の中国の人口は現在の推計より10億は多くなっていたと推測されている。2025年には子のいない家族の割合は75%に上るとされている。

 日本とドイツ 人口減少で冬の時代へ:ドイツの人口は2010年時点で8200万人。最近の調査では2033年に7700万人になると推測されているが、これは20年間で6.1 %の低下に相当する。一方、日本の人口は現在1億2700万人だが、2033年までに1500万人減少、つまり11.8%低下すると見込まれている。

302.22『モンゴルを知るための65章』

 人民革命と全体主義の恐怖政治:ハイエクによれば、全体主義国家では社会の最悪の者が指導者になる。レーニン、ヒトラー、スターリン、毛沢東、ポルポトらは恣意的正義にもとづき大虐殺を実行した。モンゴルでもボドー、ダンザン、アマル、ゲンデンら首相経験者が、日本のスパイとか反革命分子などの罪状のもと、ソ連などで処刑された。
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ケニアの就職事情

『ケニアを知るための55章』より

ケニアには正確な失業率のデータがない。たとえば日本では2011年1月時点の完全失業率は4.9%であり、ひとりの求人者に対して何件の求人かおるかを示す、有効求人倍率は0.61倍となっている。不況下の就職難が社会問題化している日本でこのレベルである。一方ケニアを見ると、正確な統計数字は公表されていないが、失業率は36%から40%に達するのでないかと指摘されている。労働可能人口の3人に1人以上が仕事を見つけられない状態が恒常的に続いているのである。

にもかかわらず、中等・高等教育の充実は、毎年、膨大な数の失業者予備軍を狭くて小さい労働市場に送り込んでいる。とくに二期目のキバキ政権が目玉政策とした中等教育の無料化(実際は、学費の何割かを政府が肩代わりするもので、無料化ではなぃ)によって、百数十万人という大量の中等学校生徒が誕生した。そのなかから毎年、30万人近い卒業生を社会に送り出している。また1970年代までは、ナイロビ大学が唯一の最高学府だった状況が続いていたが、モイ政権になって、各地の師範学校、技術専門学校、農学校などを国立大学に格上げした。その後のキバキ政権下では雨後のタケノコのように私立大学が誕生してその数は2011年には94一校にも達した。そこで学ぶ学生数は15万人以上である。そこからも毎年数万人が就職戦線に参入するのである。

かつてケニアの大学生は、明治時代の帝国大学生のように、社会のなかの超エリートとして見なされ、就職活動で苦労することはなかった。しかし、今日、大きく状況は変わった。「大学は出たものの」という失業学士が数多く出現している。わたしが調査している西ケニアの山村地域でも、獣医師の資格を持っているナイロビ大学の卒業生が、地元の小学校の臨時雇い教師(臨時雇いの場合、給料は地元の保護者が出すので、杢雇いの10分の一ほどしかなく、それすらも遅延しがちだ)をしたり、同じくナイロビ大学で人類学を専攻した学士が、定職がなく、毎日ぶらぶらしていたりする。

とは言っても、大学卒業生には、まだ中間層になりあがるチャンスが残されている。さまざまなツテやコネを活用して、安定して高収入が約束されている職につく可能性があるからだ。ケニア経済は21世紀にはいって、成長軌道にのっている。このおこぼれにあずかって、自家用車を持ち広大な一戸建て住宅での生活を享受する卒業生も少なくない。

このように大学卒業者は、一応、就職エリートなのだが、彼らがあこがれる分野は、時代を反映して大きく変化している。1960年代、独立まもないケニアでは、大学生は超エリートだったが、彼らがもっとも望んだのは、新生ケニアの国造りへの参加だった。具体的には、官僚や公社公団の幹部職員にこぞって応募した。たしかにこの時代は、こうした「国家セクター」は、給与もそれ以外の医療、住宅などの保障ももっとも整備され安定していた。しかし1970年代になると、学生たちの関心は、国家機関から外資系の大企業へとうつる。国家公務員の給料は、外資系の管理職に比べると著しく低く抑えられ、また昇進にも時間がかかることが嫌がられたのである。

次の1980年代、彼らが惹きつけられたのは、国連やEUなどの国際機関の専門職・管理職員だ。外資系の企業の多くは、1980年代のケニア経済の停滞と破たんを前に雇用を控え、なかには規模を縮小するものも出てきた。こうしたなかで、ケニアにIMFと世界銀行からの「構造調整」が押しつけられ、多くの国際機関が拠点を置き、資格を有する高学歴者を雇用し始めた。そし21世紀を迎えた今日、ケニアの大学生にもっとも人気のある就職先は、国内外のNGOである。とりわけ2002年、独裁的で強権的だったKANU政権が選挙で敗退すると、それまでの規制や弾圧が緩和され、夥しい数のNGOが活動を開始する。そこではコーディネーターや管理担当の人材が求められる。しかも、海外のNGOの場合、現地採用のケニア人職員と極端な給料格差をつけることはしないので、相当高額の収入を得ることができる。あるとき、ナイロビのカフェでわたしと友人のナイロビ大学の先生がお茶を飲んでいると、彼の学科を前年に卒業した学生が、ラップトップパソコンと電子手帳を手に颯爽と通りかかった。友人の教員が近況を聞くと、西欧系の開発援助NGOに就職した彼は、官庁街に隣接するオフィスで秘書を雇って仕事をしているということだった。彼の給料は、すでに友人のナイロビ大学教員より上だった。

こうした一部の就職エリートは、ケニア全体の労働市場ではごく一部の特権的階層にすぎない。圧倒的多数の失業(予備軍)には無縁の世界である。失業率が4割近い状況では小学校卒業や中等学校中退組が職を得るチャンスはきわめてむつかしい。もちろんなかには、家族、親族のなかに有力者がいて、特別な「好意」で「裏口」から職をゲットするラッキーボーイもいるが、貧しい庶民の多くはそうしたコネを持だない。では、彼らはどのようにして、就職するのだろうか。それとも、職探しをあきらめて、都市で浮浪するのだろうか。

答えは、「セルフヘルプ」にある。彼らは、会社員や公務員、NGO職員といった「正業」ではなく、国家の雇用統計にのらないような行商や職人などの「雑業」を自ら創りそこで金を稼ぐのである。こうした「雑業」は、「インフォーマル(非公式)セクター」とも呼ばれるが、ケニアのような社会では、インフォーマルな領域こそが、人びとの現実の暮らしを支えている。

1980年代以降今日に至るまで、農村から都市に流れてきた若者にとって、もっとも一般的な仕事は、建築現場の旦雇い労働だった。ナイロビでは各地で高層ビルや中間層向け住宅が建設されており、若者たちは、前日に日雇い仲間の友人から情報を仕入れて、朝一番で建築現場に出かけ、現場監督に懇願する。こうした労働は、一週間単位のことが多く、一日分の日当を現場監督に差し出すことで職を得ることもある。建築現場で経験をつむと、見よう見まねで、大工や石工のまねごとができるようになる。そうすると、自分で工具を調達し、今度は、単純労働者ではなく職人として、自分を売りこむのである。職人になると日当が倍近くになるので、ナイロビの失業青年にとって、職人になることは人生の成功を意味している。

工事現場以外の「雑業」で注目されたのは、「ジュアーカリ」と呼ばれる、路上の職人たちである(第26章参照)。ジュアーカリとは、「きつい日差し」を意味するスワヒリ語だが、道路端や広場など屋根のない作業場で、車を修理したり、家具を製作したりする職人の高い技術と勤勉さは、1990年代にはいって政府や海外の援助機関が注目して、組合の結成や資本の融資などがおこなわれるようになった。

21世紀になると、この「雑業」は農村部でも見られるようになった。都市でどうしても食いつなぐことができなくなった「出稼ぎ青年」たちが、都市生活を断念して故郷に戻り、そこで、建築職人、修理工、行商、日干しレンガづくりなどの仕事を自ら創りだして暮らしている。現代ケニア社会は、いま全体として「雑業」の時代を迎えているのである。
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地域分裂世界

『「Gゼロ後の世界』より

最初はアラブ世界だ。二〇一一年に北アフリカと中東を揺るがした政治的大変動により、エジプト、チュニジア、リビア、イエメンで政府が倒れた。この歴史的転換の場面で、アメリカとNATOが重要な役割を果たしたのはリビアだけだ--それも、他のアラブ諸国の政府の要請を受けたあとのことだ。革命の伝播に脅威を感じたことと、他の外部勢力に拡大を抑える力も意思もないことを受けて、この地域の強国であるサウジアラビアは、アラブの君主国家を補強するため、湾岸協力会議(GCC)でのリーダーシップを用いた。二〇一一年五月、サウジアラビアは、ヨルダンとモロッコのGCCへの加盟を正式に求めて、その影響力の拡大を図る様子を見せた。これらの国々には、協力関係を新たな段階に高めることを求める強い動機がある。彼らは地域大国としての力を強めるイランの脅威と、国民の動揺がさらに続く不安に怯えるとともに、アメリカの中東での役割が縮小していることを懸念している。サウジアラビアが、政策調整と平和維持に主導的な役割を発揮したら、GCCは、共通通貨の実現、通商と投資の関係のいっそうの深化、外交政策と安全保障政策でのさらに緊密な協力へ向けて、いっそう動きを速めることができるだろう。これは、湾岸地域の安定維持に役立つはずだ。しかし、Gゼロ時代の状況のために、イラクやシリアのような場所での宗派主義が、中東のあらゆる地域で新たな問題を発生させる可能性がある。湾岸地域外にあるモロッコ、アルジェリア、ヨルダンのような国々でも、今後何年かのうちに、新たな難題に直面することになるだろう。最近、サウジアラビアは、GCC加盟国間の政治統合にまで言及している。このことが近い将来実現する見込みは薄いが、サウジアラビアの外交だけでも--他の国々も、理念としてはそれを受け入れることに前向きであるという事実からしても--イデオロギー的な統合強化を示唆している。

ヨーロッパでは、いくつかの欧州諸国の信用への危機意識が高まったため、資金力の豊かなドイツが地域内での指導的役割を強化することとなった--ドイツの当局と納税者たちが、それを喜ぶかどうかはともかくとして。ユーロ圏、国境に関するシェングン協定、さらにはEU自体を改革する計画にとって、ドイツ政府は決定的に重要な存在になるだろう。しかし、もしヨーロッパが単一通貨ユーロに対する新たなコミットメントと、国家支出と課税政策に関するよりいっそう緊密な調整を結びつけるような協定を加盟国の間でつくり上げることができたら、欧州大陸は世界で最も有力で、最も効率よく運営される地域として浮上することができるだろう。それでも、ヨーロッパの外交政策や国防政策を一つにまとめられる見込みはないに等しい--今後何年かの間、ヨーロッパの時間と関心のほぼすべては、財政政策の一致と通貨同盟を結びつけることに注ぎ込まれるだろうから。しかし、ドイツが今より明確にリーダーシップを発揮すれば、ヨーロッパは他の地域のモデル・ケースになれる。実際、サウジアラビアとドイツは、アメリカがより金のかからない外交政策をとることと、国際機関が緊急課題に対して信頼できる解決策を提示できないことから生まれる、地域的な真空状態を埋めうる可能性が一番高い局地的勢力の典型例なのである。

ドイツに率いられるヨーロッパにおいて、イギリスはどのような役割を演じるのか? ユーロ採用を選択しなかったEU加盟国の一つとして、長らくイギリスは、片足を欧州大陸に、片足をその外に置いてきた。金融政策の管理を欧州中央銀行(ECB)に明け渡すことを拒んだイギリスが、課税や支出のレペル設定を自国で管理する力への実効支配を放棄することなど、同じくありそうもない。そのため、ヨーロッパ大陸の国々が今よりも強く結びつくことによって、おそらくイギリスは、同じ英語圏で縁の深い国々がいる地域へ、すなわち、相変わらずアメリカ合衆国の支配が続く北米へと押し出されてしまうだろう。

南米では、ブラジル、チリ、ペルー、コロンビアのように、多くの分野への外国からの投資を歓迎してインフレ抑制に努める国々と、べネズエラ、エクアドル、ボリビアのように、より恣意的でポピュリズム的手法で発展を図ろうとする国々との間には、経済政策に関する哲学の大きな相違が相変わらず残っている。国を破綻させずに、何千万人もの国民を中流階層に引き上げるというブラジルの企ては、未来をめざすラテンアメリカの時代の流れだ。ブラジルがこの地域でさらなる優位性を確立するにつれて、より多くの国がブラジルの例に続こうとするだろう。南米の相対的平和は、この地域の繁栄を増進するだろう。そして、中米諸国の中には、アメリカよりもブラジルの引力圏に入ることを望むと判断する国も出てくるだろう。

地域分裂世界でも、国際協力がまったく存在しないわけではない。このシナリオが現実のものとなった場合、先進国と新興国の中のいくつかの国が小集団をつくり、共通の利害に関する問題について協力する状況が生まれるだろう。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、一部の地域での貿易と投資の関係構築をめざすとともに、IMFや世界銀行のような貸出機関内での影響力拡大を図りっづけるだろう。ロシアと中国は、上海協力機構のような組織を使って、地域的影響力を拡大しつつ、アメリカが他の加盟国との関係を深めないように牽制するだろう。ラテンアメリカやアフリカの発展途上国は、ブラジルや南アフリカの主導の下、政治と通商に関して「南南」関係をさらに発展させようとするだろう。アメリカ、ヨーロッパ、中国は、これまで確立してきた二国間通商関係に依存しつづけるだろう。しかし、このように分裂が進んだ国際秩序には、グローバル・リーダーシップを発揮したり、世界的な公共財を率先して提供してくれる国が欠けているのである。

次の相対的敗者は、日陰の国家である。これは、ピボット国家の自由を持つことを願っているのに、別の大国の影の下から抜け出せない国のことである。メキシコがこのカテゴリーに入る。というのも、この国の経済と生活水準は、よかれ悪しかれ、国境の向こう側の巨人、アメリカの健全性と緊密にリンクされているからだ。メキシコの主な外貨獲得源は、石油販売、旅行、それに外国で働くメキシコ人からの送金である。この三者のどれをとっても、その金の出所は圧倒的にアメリカであり、近い将来、この動きに変化が起こることを示す証拠はまったくない。日陰の国家は、政府が完全に外部勢力の支配下にあった冷戦時代の衛星国家とは違う。メキシコは、重要かつ独立した新興市場国家である。国内政策にせよ外交政策にせよ、すべてはメキシコの政治的プロセスによって決定されるものであり、外部からの要求で決まるわけではない。しかし、他の日陰の国家と同じく、メキシコの発展と通商上の好機は、メキシコとは別の国、つまり、隣国の経済面の可能性すら決定できるほどの地政学上の体力と巨大な消費者市場を持つ、アメリカの国内事情によって定められてしまうのである。

ウクライナも、また別の日陰の国家の典型的な例である。この国では世論の大勢は、ヨーロッパとの政治的、経済的、文化的関係をより強固にすることを望んでいるが、かつてソビエト連邦構成国だったこの国の政府は、ロシアとの伝統的な絆を守る現実的な必要性について、よく承知している。四六〇〇万人のウクライナの人口の約一七%は自らをロシア民族と認識しているため、政治家が国会で議席を得ようとするなら、ロシア人社会の支持がないと厳しいのであひ。さらに重要なのは、ロシアはウクライナのエネルギーの大半を供給する国であり、実際、天然ガスの供給を外交政策の武器として使う意思があることを見せたことがある。二〇〇九年の真冬、ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムはウクライナヘのガスの供給を停止して、価格交渉への影響力を強めるとともに、おそらくは、ウクライナ人に対して、彼らが相変わらず東方の兄貴分に頼らざるを得ないことを思い知らせたのだ。ロシア政府はウクライナを、現在、ロシア、カザフスタン、ペラルーシで構成する関税同盟に加盟させることを望んでいて--ウラジーミル・プーチンの個人的な優先課題だ--この取引を魅力的なものにするため、天然ガスを大幅に安い価格で供給することを約束し心。エネルギー安全保障の重要性を考慮に入れると、ウクライナは、この申し出を真剣に受け取らざるを得ない。ガスが低価格で手に入れば、政治家は新しいエネルギー税で有権者に打撃を与えて、有権者から強い反発を受けることが回避できるからである。

ウクライナは、ロシアの引力圏から脱出してピボット国家になり、ロシアとの関係を守りつつ、ヨーロッパと新しい絆を築くことを願っている。実際、ウクライナ政府は、EUとの自由貿易協定へ調印を望んでいる。この協定は、ウクライナに大きな通商上の好機をもたらすものであり、最終的にはウクライナがEU入りをすることに役立つ取引だ。しかし、ウクライナがヨーロッパとの協定に調印したならば、ロシアは新たな貿易障壁を直ちにつくると威嚇した。他方、ウクライナがロシアの通貨同盟に加われば、EUはウクライナとの通商交渉を打ち切るだろう。もつれ合ったこの状況に加え、政治とつながっているウクライナの実業家たちのネットワークが、ヨーロッパよりもロシアとの関係を深めるべきと圧力をかける。経済面での競争となれば、西側諸国を相手にするより東のロシアとのほうが有利に事を運べると信じているからだ。要するに、ウクライナは日陰の国家にとどまり、ピボット国家になる見通しは立たない。なぜなら、ウクライナにはどちらの側との交渉であっても、自らの立場を改善できるような力や独立性がないからだ。今後とりうる選択肢を保持するために、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、おそらくロシア、ヨーロッパのどちらとの関係についても、今以上に緊密化させることは避けるだろう。当面ウクライナは、長く伸びるロシアの影の下で生きるのである。
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