未唯への手紙
未唯への手紙
地域分裂世界
『「Gゼロ後の世界』より
最初はアラブ世界だ。二〇一一年に北アフリカと中東を揺るがした政治的大変動により、エジプト、チュニジア、リビア、イエメンで政府が倒れた。この歴史的転換の場面で、アメリカとNATOが重要な役割を果たしたのはリビアだけだ--それも、他のアラブ諸国の政府の要請を受けたあとのことだ。革命の伝播に脅威を感じたことと、他の外部勢力に拡大を抑える力も意思もないことを受けて、この地域の強国であるサウジアラビアは、アラブの君主国家を補強するため、湾岸協力会議(GCC)でのリーダーシップを用いた。二〇一一年五月、サウジアラビアは、ヨルダンとモロッコのGCCへの加盟を正式に求めて、その影響力の拡大を図る様子を見せた。これらの国々には、協力関係を新たな段階に高めることを求める強い動機がある。彼らは地域大国としての力を強めるイランの脅威と、国民の動揺がさらに続く不安に怯えるとともに、アメリカの中東での役割が縮小していることを懸念している。サウジアラビアが、政策調整と平和維持に主導的な役割を発揮したら、GCCは、共通通貨の実現、通商と投資の関係のいっそうの深化、外交政策と安全保障政策でのさらに緊密な協力へ向けて、いっそう動きを速めることができるだろう。これは、湾岸地域の安定維持に役立つはずだ。しかし、Gゼロ時代の状況のために、イラクやシリアのような場所での宗派主義が、中東のあらゆる地域で新たな問題を発生させる可能性がある。湾岸地域外にあるモロッコ、アルジェリア、ヨルダンのような国々でも、今後何年かのうちに、新たな難題に直面することになるだろう。最近、サウジアラビアは、GCC加盟国間の政治統合にまで言及している。このことが近い将来実現する見込みは薄いが、サウジアラビアの外交だけでも--他の国々も、理念としてはそれを受け入れることに前向きであるという事実からしても--イデオロギー的な統合強化を示唆している。
ヨーロッパでは、いくつかの欧州諸国の信用への危機意識が高まったため、資金力の豊かなドイツが地域内での指導的役割を強化することとなった--ドイツの当局と納税者たちが、それを喜ぶかどうかはともかくとして。ユーロ圏、国境に関するシェングン協定、さらにはEU自体を改革する計画にとって、ドイツ政府は決定的に重要な存在になるだろう。しかし、もしヨーロッパが単一通貨ユーロに対する新たなコミットメントと、国家支出と課税政策に関するよりいっそう緊密な調整を結びつけるような協定を加盟国の間でつくり上げることができたら、欧州大陸は世界で最も有力で、最も効率よく運営される地域として浮上することができるだろう。それでも、ヨーロッパの外交政策や国防政策を一つにまとめられる見込みはないに等しい--今後何年かの間、ヨーロッパの時間と関心のほぼすべては、財政政策の一致と通貨同盟を結びつけることに注ぎ込まれるだろうから。しかし、ドイツが今より明確にリーダーシップを発揮すれば、ヨーロッパは他の地域のモデル・ケースになれる。実際、サウジアラビアとドイツは、アメリカがより金のかからない外交政策をとることと、国際機関が緊急課題に対して信頼できる解決策を提示できないことから生まれる、地域的な真空状態を埋めうる可能性が一番高い局地的勢力の典型例なのである。
ドイツに率いられるヨーロッパにおいて、イギリスはどのような役割を演じるのか? ユーロ採用を選択しなかったEU加盟国の一つとして、長らくイギリスは、片足を欧州大陸に、片足をその外に置いてきた。金融政策の管理を欧州中央銀行(ECB)に明け渡すことを拒んだイギリスが、課税や支出のレペル設定を自国で管理する力への実効支配を放棄することなど、同じくありそうもない。そのため、ヨーロッパ大陸の国々が今よりも強く結びつくことによって、おそらくイギリスは、同じ英語圏で縁の深い国々がいる地域へ、すなわち、相変わらずアメリカ合衆国の支配が続く北米へと押し出されてしまうだろう。
南米では、ブラジル、チリ、ペルー、コロンビアのように、多くの分野への外国からの投資を歓迎してインフレ抑制に努める国々と、べネズエラ、エクアドル、ボリビアのように、より恣意的でポピュリズム的手法で発展を図ろうとする国々との間には、経済政策に関する哲学の大きな相違が相変わらず残っている。国を破綻させずに、何千万人もの国民を中流階層に引き上げるというブラジルの企ては、未来をめざすラテンアメリカの時代の流れだ。ブラジルがこの地域でさらなる優位性を確立するにつれて、より多くの国がブラジルの例に続こうとするだろう。南米の相対的平和は、この地域の繁栄を増進するだろう。そして、中米諸国の中には、アメリカよりもブラジルの引力圏に入ることを望むと判断する国も出てくるだろう。
地域分裂世界でも、国際協力がまったく存在しないわけではない。このシナリオが現実のものとなった場合、先進国と新興国の中のいくつかの国が小集団をつくり、共通の利害に関する問題について協力する状況が生まれるだろう。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、一部の地域での貿易と投資の関係構築をめざすとともに、IMFや世界銀行のような貸出機関内での影響力拡大を図りっづけるだろう。ロシアと中国は、上海協力機構のような組織を使って、地域的影響力を拡大しつつ、アメリカが他の加盟国との関係を深めないように牽制するだろう。ラテンアメリカやアフリカの発展途上国は、ブラジルや南アフリカの主導の下、政治と通商に関して「南南」関係をさらに発展させようとするだろう。アメリカ、ヨーロッパ、中国は、これまで確立してきた二国間通商関係に依存しつづけるだろう。しかし、このように分裂が進んだ国際秩序には、グローバル・リーダーシップを発揮したり、世界的な公共財を率先して提供してくれる国が欠けているのである。
次の相対的敗者は、日陰の国家である。これは、ピボット国家の自由を持つことを願っているのに、別の大国の影の下から抜け出せない国のことである。メキシコがこのカテゴリーに入る。というのも、この国の経済と生活水準は、よかれ悪しかれ、国境の向こう側の巨人、アメリカの健全性と緊密にリンクされているからだ。メキシコの主な外貨獲得源は、石油販売、旅行、それに外国で働くメキシコ人からの送金である。この三者のどれをとっても、その金の出所は圧倒的にアメリカであり、近い将来、この動きに変化が起こることを示す証拠はまったくない。日陰の国家は、政府が完全に外部勢力の支配下にあった冷戦時代の衛星国家とは違う。メキシコは、重要かつ独立した新興市場国家である。国内政策にせよ外交政策にせよ、すべてはメキシコの政治的プロセスによって決定されるものであり、外部からの要求で決まるわけではない。しかし、他の日陰の国家と同じく、メキシコの発展と通商上の好機は、メキシコとは別の国、つまり、隣国の経済面の可能性すら決定できるほどの地政学上の体力と巨大な消費者市場を持つ、アメリカの国内事情によって定められてしまうのである。
ウクライナも、また別の日陰の国家の典型的な例である。この国では世論の大勢は、ヨーロッパとの政治的、経済的、文化的関係をより強固にすることを望んでいるが、かつてソビエト連邦構成国だったこの国の政府は、ロシアとの伝統的な絆を守る現実的な必要性について、よく承知している。四六〇〇万人のウクライナの人口の約一七%は自らをロシア民族と認識しているため、政治家が国会で議席を得ようとするなら、ロシア人社会の支持がないと厳しいのであひ。さらに重要なのは、ロシアはウクライナのエネルギーの大半を供給する国であり、実際、天然ガスの供給を外交政策の武器として使う意思があることを見せたことがある。二〇〇九年の真冬、ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムはウクライナヘのガスの供給を停止して、価格交渉への影響力を強めるとともに、おそらくは、ウクライナ人に対して、彼らが相変わらず東方の兄貴分に頼らざるを得ないことを思い知らせたのだ。ロシア政府はウクライナを、現在、ロシア、カザフスタン、ペラルーシで構成する関税同盟に加盟させることを望んでいて--ウラジーミル・プーチンの個人的な優先課題だ--この取引を魅力的なものにするため、天然ガスを大幅に安い価格で供給することを約束し心。エネルギー安全保障の重要性を考慮に入れると、ウクライナは、この申し出を真剣に受け取らざるを得ない。ガスが低価格で手に入れば、政治家は新しいエネルギー税で有権者に打撃を与えて、有権者から強い反発を受けることが回避できるからである。
ウクライナは、ロシアの引力圏から脱出してピボット国家になり、ロシアとの関係を守りつつ、ヨーロッパと新しい絆を築くことを願っている。実際、ウクライナ政府は、EUとの自由貿易協定へ調印を望んでいる。この協定は、ウクライナに大きな通商上の好機をもたらすものであり、最終的にはウクライナがEU入りをすることに役立つ取引だ。しかし、ウクライナがヨーロッパとの協定に調印したならば、ロシアは新たな貿易障壁を直ちにつくると威嚇した。他方、ウクライナがロシアの通貨同盟に加われば、EUはウクライナとの通商交渉を打ち切るだろう。もつれ合ったこの状況に加え、政治とつながっているウクライナの実業家たちのネットワークが、ヨーロッパよりもロシアとの関係を深めるべきと圧力をかける。経済面での競争となれば、西側諸国を相手にするより東のロシアとのほうが有利に事を運べると信じているからだ。要するに、ウクライナは日陰の国家にとどまり、ピボット国家になる見通しは立たない。なぜなら、ウクライナにはどちらの側との交渉であっても、自らの立場を改善できるような力や独立性がないからだ。今後とりうる選択肢を保持するために、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、おそらくロシア、ヨーロッパのどちらとの関係についても、今以上に緊密化させることは避けるだろう。当面ウクライナは、長く伸びるロシアの影の下で生きるのである。
最初はアラブ世界だ。二〇一一年に北アフリカと中東を揺るがした政治的大変動により、エジプト、チュニジア、リビア、イエメンで政府が倒れた。この歴史的転換の場面で、アメリカとNATOが重要な役割を果たしたのはリビアだけだ--それも、他のアラブ諸国の政府の要請を受けたあとのことだ。革命の伝播に脅威を感じたことと、他の外部勢力に拡大を抑える力も意思もないことを受けて、この地域の強国であるサウジアラビアは、アラブの君主国家を補強するため、湾岸協力会議(GCC)でのリーダーシップを用いた。二〇一一年五月、サウジアラビアは、ヨルダンとモロッコのGCCへの加盟を正式に求めて、その影響力の拡大を図る様子を見せた。これらの国々には、協力関係を新たな段階に高めることを求める強い動機がある。彼らは地域大国としての力を強めるイランの脅威と、国民の動揺がさらに続く不安に怯えるとともに、アメリカの中東での役割が縮小していることを懸念している。サウジアラビアが、政策調整と平和維持に主導的な役割を発揮したら、GCCは、共通通貨の実現、通商と投資の関係のいっそうの深化、外交政策と安全保障政策でのさらに緊密な協力へ向けて、いっそう動きを速めることができるだろう。これは、湾岸地域の安定維持に役立つはずだ。しかし、Gゼロ時代の状況のために、イラクやシリアのような場所での宗派主義が、中東のあらゆる地域で新たな問題を発生させる可能性がある。湾岸地域外にあるモロッコ、アルジェリア、ヨルダンのような国々でも、今後何年かのうちに、新たな難題に直面することになるだろう。最近、サウジアラビアは、GCC加盟国間の政治統合にまで言及している。このことが近い将来実現する見込みは薄いが、サウジアラビアの外交だけでも--他の国々も、理念としてはそれを受け入れることに前向きであるという事実からしても--イデオロギー的な統合強化を示唆している。
ヨーロッパでは、いくつかの欧州諸国の信用への危機意識が高まったため、資金力の豊かなドイツが地域内での指導的役割を強化することとなった--ドイツの当局と納税者たちが、それを喜ぶかどうかはともかくとして。ユーロ圏、国境に関するシェングン協定、さらにはEU自体を改革する計画にとって、ドイツ政府は決定的に重要な存在になるだろう。しかし、もしヨーロッパが単一通貨ユーロに対する新たなコミットメントと、国家支出と課税政策に関するよりいっそう緊密な調整を結びつけるような協定を加盟国の間でつくり上げることができたら、欧州大陸は世界で最も有力で、最も効率よく運営される地域として浮上することができるだろう。それでも、ヨーロッパの外交政策や国防政策を一つにまとめられる見込みはないに等しい--今後何年かの間、ヨーロッパの時間と関心のほぼすべては、財政政策の一致と通貨同盟を結びつけることに注ぎ込まれるだろうから。しかし、ドイツが今より明確にリーダーシップを発揮すれば、ヨーロッパは他の地域のモデル・ケースになれる。実際、サウジアラビアとドイツは、アメリカがより金のかからない外交政策をとることと、国際機関が緊急課題に対して信頼できる解決策を提示できないことから生まれる、地域的な真空状態を埋めうる可能性が一番高い局地的勢力の典型例なのである。
ドイツに率いられるヨーロッパにおいて、イギリスはどのような役割を演じるのか? ユーロ採用を選択しなかったEU加盟国の一つとして、長らくイギリスは、片足を欧州大陸に、片足をその外に置いてきた。金融政策の管理を欧州中央銀行(ECB)に明け渡すことを拒んだイギリスが、課税や支出のレペル設定を自国で管理する力への実効支配を放棄することなど、同じくありそうもない。そのため、ヨーロッパ大陸の国々が今よりも強く結びつくことによって、おそらくイギリスは、同じ英語圏で縁の深い国々がいる地域へ、すなわち、相変わらずアメリカ合衆国の支配が続く北米へと押し出されてしまうだろう。
南米では、ブラジル、チリ、ペルー、コロンビアのように、多くの分野への外国からの投資を歓迎してインフレ抑制に努める国々と、べネズエラ、エクアドル、ボリビアのように、より恣意的でポピュリズム的手法で発展を図ろうとする国々との間には、経済政策に関する哲学の大きな相違が相変わらず残っている。国を破綻させずに、何千万人もの国民を中流階層に引き上げるというブラジルの企ては、未来をめざすラテンアメリカの時代の流れだ。ブラジルがこの地域でさらなる優位性を確立するにつれて、より多くの国がブラジルの例に続こうとするだろう。南米の相対的平和は、この地域の繁栄を増進するだろう。そして、中米諸国の中には、アメリカよりもブラジルの引力圏に入ることを望むと判断する国も出てくるだろう。
地域分裂世界でも、国際協力がまったく存在しないわけではない。このシナリオが現実のものとなった場合、先進国と新興国の中のいくつかの国が小集団をつくり、共通の利害に関する問題について協力する状況が生まれるだろう。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、一部の地域での貿易と投資の関係構築をめざすとともに、IMFや世界銀行のような貸出機関内での影響力拡大を図りっづけるだろう。ロシアと中国は、上海協力機構のような組織を使って、地域的影響力を拡大しつつ、アメリカが他の加盟国との関係を深めないように牽制するだろう。ラテンアメリカやアフリカの発展途上国は、ブラジルや南アフリカの主導の下、政治と通商に関して「南南」関係をさらに発展させようとするだろう。アメリカ、ヨーロッパ、中国は、これまで確立してきた二国間通商関係に依存しつづけるだろう。しかし、このように分裂が進んだ国際秩序には、グローバル・リーダーシップを発揮したり、世界的な公共財を率先して提供してくれる国が欠けているのである。
次の相対的敗者は、日陰の国家である。これは、ピボット国家の自由を持つことを願っているのに、別の大国の影の下から抜け出せない国のことである。メキシコがこのカテゴリーに入る。というのも、この国の経済と生活水準は、よかれ悪しかれ、国境の向こう側の巨人、アメリカの健全性と緊密にリンクされているからだ。メキシコの主な外貨獲得源は、石油販売、旅行、それに外国で働くメキシコ人からの送金である。この三者のどれをとっても、その金の出所は圧倒的にアメリカであり、近い将来、この動きに変化が起こることを示す証拠はまったくない。日陰の国家は、政府が完全に外部勢力の支配下にあった冷戦時代の衛星国家とは違う。メキシコは、重要かつ独立した新興市場国家である。国内政策にせよ外交政策にせよ、すべてはメキシコの政治的プロセスによって決定されるものであり、外部からの要求で決まるわけではない。しかし、他の日陰の国家と同じく、メキシコの発展と通商上の好機は、メキシコとは別の国、つまり、隣国の経済面の可能性すら決定できるほどの地政学上の体力と巨大な消費者市場を持つ、アメリカの国内事情によって定められてしまうのである。
ウクライナも、また別の日陰の国家の典型的な例である。この国では世論の大勢は、ヨーロッパとの政治的、経済的、文化的関係をより強固にすることを望んでいるが、かつてソビエト連邦構成国だったこの国の政府は、ロシアとの伝統的な絆を守る現実的な必要性について、よく承知している。四六〇〇万人のウクライナの人口の約一七%は自らをロシア民族と認識しているため、政治家が国会で議席を得ようとするなら、ロシア人社会の支持がないと厳しいのであひ。さらに重要なのは、ロシアはウクライナのエネルギーの大半を供給する国であり、実際、天然ガスの供給を外交政策の武器として使う意思があることを見せたことがある。二〇〇九年の真冬、ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムはウクライナヘのガスの供給を停止して、価格交渉への影響力を強めるとともに、おそらくは、ウクライナ人に対して、彼らが相変わらず東方の兄貴分に頼らざるを得ないことを思い知らせたのだ。ロシア政府はウクライナを、現在、ロシア、カザフスタン、ペラルーシで構成する関税同盟に加盟させることを望んでいて--ウラジーミル・プーチンの個人的な優先課題だ--この取引を魅力的なものにするため、天然ガスを大幅に安い価格で供給することを約束し心。エネルギー安全保障の重要性を考慮に入れると、ウクライナは、この申し出を真剣に受け取らざるを得ない。ガスが低価格で手に入れば、政治家は新しいエネルギー税で有権者に打撃を与えて、有権者から強い反発を受けることが回避できるからである。
ウクライナは、ロシアの引力圏から脱出してピボット国家になり、ロシアとの関係を守りつつ、ヨーロッパと新しい絆を築くことを願っている。実際、ウクライナ政府は、EUとの自由貿易協定へ調印を望んでいる。この協定は、ウクライナに大きな通商上の好機をもたらすものであり、最終的にはウクライナがEU入りをすることに役立つ取引だ。しかし、ウクライナがヨーロッパとの協定に調印したならば、ロシアは新たな貿易障壁を直ちにつくると威嚇した。他方、ウクライナがロシアの通貨同盟に加われば、EUはウクライナとの通商交渉を打ち切るだろう。もつれ合ったこの状況に加え、政治とつながっているウクライナの実業家たちのネットワークが、ヨーロッパよりもロシアとの関係を深めるべきと圧力をかける。経済面での競争となれば、西側諸国を相手にするより東のロシアとのほうが有利に事を運べると信じているからだ。要するに、ウクライナは日陰の国家にとどまり、ピボット国家になる見通しは立たない。なぜなら、ウクライナにはどちらの側との交渉であっても、自らの立場を改善できるような力や独立性がないからだ。今後とりうる選択肢を保持するために、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、おそらくロシア、ヨーロッパのどちらとの関係についても、今以上に緊密化させることは避けるだろう。当面ウクライナは、長く伸びるロシアの影の下で生きるのである。
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