転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
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HN「転勤族の妻よしこ」、筆名「山田亜葵」。家族は、転夫まーくん(またの名を「ツアコンころもん」)、転娘みーちゃん(1995年生まれ。首都圏在住。会社員)。
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語りかけるカツァリス@ニューヨーク
クラシック音楽
/
2012年07月19日 15時18分00秒
演奏家の言動がオカしいことについては、私は長年鍛えられているので(爆)、
いちいち驚かない自信があったのだが、しかし、かっつぁんまでこうなのか、
と、この記事にはちょっと困惑させられてしまった。
Getting the Audience’s Attention, and Keeping It
(
The New York Times
)
上記は、7月17日付のNYタイムズの記事で、シプリアン・カツァリスは、
16日、マネス音楽院の音楽祭の一環で行われた彼のリサイタルにおいて、
一度ならず聴衆に向かって舞台から語りかけたことが書かれている。
まずカツァリスは、演奏を始める前に、挨拶をしてから、
『演奏を客席で録音しないで貰いたい。それは窃盗や強姦の如き行為だ』
という意味のことを言った。
演奏家として正当な抗議であるし、カツァリスにはその権利があるのだから、
主張内容は取り立てて奇妙なものではないが、
記事中でも指摘されている通り、
聴衆に向かって苦言を呈してから演奏会を始めるのは
決して幸福なことではなく、最善のやり方とは私にも思われない。
彼がわざわざこのように発言をせねばならないような出来事が、
最近何かあったということなのだろうか、と少々気になった。
それから、カツァリスはリサイタルを開始し、
シューベルトの後期作品から、ハ短調アレグレットと、
D 946の『三つのピアノ曲』のうちの初めの二曲を演奏した。
そして、その次がベートーヴェンのソナタ『悲愴』だったのだが、
カツァリスは、なんと第一楽章が終わったところで再び聴衆のほうを向いて、
『記憶は、トシを取ることの親友とは言えない。皆さんも注意して下さい』
(↑直訳)とふざけた調子で言ったそうだ(O_O)。
それから第二楽章の演奏に入った、というのだが、
…もしもし!?本番のソナタの途中で演奏家が喋るって、アリですか!??
カツァリスの発言が文字通りだとするなら、
年齢が上がって来ると暗譜がキツい、
という意味だろうと思うのだが、完全に本気で言っているのであれば、
譜面を見て弾けば良いだけのことでは?と聴き手としての私は思う。
少なくとも、『悲愴』の楽章間に、口頭でなんだかオマケがつくよりは、
暗譜は放棄しても、ひとまとまりで演奏したほうが良さそうに思うのだが、
話はしてもOKで、暗譜だけは最低ラインとして崩せないものなのだろうか。
暗譜で、かつ自在に存分に演奏できる、というのが
スタイル的にも、また慣習の面からも理想であることに全く異論は無いが、
「暗譜」と「納得できる演奏」との二択なら、私は聴き手として後者を望む。
音楽が犠牲になるような暗譜には、残念だが価値は無いと思うし、
また、暗譜の能力に問題がある・無いに関わらず、
譜面を見て弾いたほうが、より多くのものを引き出せると感じたときには、
演奏家には、むしろ積極的にそうして貰いたい。
……のだが、どこかのピアニストが40代から譜面見て弾いていたので、
私は変なふうに慣らされ過ぎですかね(爆)。
尤も、カツァリスの演奏は、このあとは素晴らしかったようだ。
二楽章は詩情あふれる鮮烈な演奏であったということだし、
終楽章のロンドも、『繊細』『明快』『活発』を兼ね備えた、
目覚ましいものであったと賞賛されている。
余裕綽々で完全にリラックスしていたから、客席に話しかけたりもした、
というのなら、かえって良いのかなと思わないでもないのだが、
…どうなのだろう、私はまだまだカツァリスをわかっているとは言い難い(^_^;。
そして、休憩を挟んでのプログラム第二部においても、
またカツァリスは舞台上から聴衆に向かって声を発した。
と言っても、今回は演出上も意義のある、詩の朗読だった。
リストが『孤独の中の神の祝福』を書くきっかけとなったと言われる、
アルフォンス・ド・ラマルティーヌの詩を、
カツァリスは最初にフランス語で、次に英語で、読み上げたのだった。
後半のプログラムとしてはカツァリスは、この曲に加えて、
リストのピアノ協奏曲第2番の、自作のピアノ独奏用編曲版を披露し、
その見事な演奏と大胆な編曲に対して、相応の喝采を浴びた。
リサイタルそのものとしては、最終的には成功だったと言えそうだ。
カツァリスはそもそも、今年4月に来日予定があったのだが、
手の腱鞘炎のために一旦延期になり、来年の1月・3月へと振り替えられた。
私も今年4月21日の兵庫公演を買っていたので、チケットはそのまま手放さず、
1月の演奏会を(娘のセンター試験直前にも関わらず)楽しみにしているのだが、
プログラムは、やはり当初発表されていたベートーヴェン『皇帝』の
ピアノ・ソロ版を含んだもののままなのだろうか。
上記のニューヨーク公演でも、リストの2番をソロアレンジで弾いたとあり、
昨今のカツァリスは、そうした編曲ものに熱意を燃やしているようだが、
私は、カツァリスならば、普通にリサイタル用の作品を弾いてくれれば、
十分に満足だし、曲目によっては、そういうものこそ聴きたいかもしれない。
演奏活動に復帰しているところを見ると、腱鞘炎の経過は良さそうだが、
記事の印象からは、カツァリスは精神面で満たされているとは言い難く、
日頃、何か不快に思っていることがあるのではないかと、少々心配だ。
私はいつも書いている通り、カツァリスには全幅の信頼を置いて来たのだが、
彼ほどの人でも、なかなか手放しで安心して聴くわけにはいかないものだな、
と、この記事を読んで今更だが思った。
どうか1月の来日公演が、良いものになりますように。
待ちわびた日本のファンにとってもそうだが、何より、ご本人にとっても……。
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