能町みね子著「お家賃ですけど」

2021-06-27 20:20:38 | Weblog

ブックオフで「ユービック」を買った、と書いたのだけれど、

もう一冊、手に入れていた。

能町みね子著「お家賃ですけど」である。

ちょっと前にこの人の著作「結婚の奴」を読んだのだが、

それが衝撃的に良かったのだ。

あの「結婚の奴」という作品を、多くの人がどうやら「長編エッセイ」みたいに思ってるみたいだが

違う。

あれは文学作品である、と僕は思う。

太宰も真っ青の、赤裸々な、自伝的な小説作品だ。

 

ずいぶん昔に、中島らもが”面白いエッセイの人”から突然、「今夜、すべてのバーで」という小説で

凄みのある”作家”に変貌した時のことを鮮やかに思い出した。

 

それくらい良かったので、この人の書くものはとにかく、全部読んでみよう、と思っていた。

そしてこの「お家賃ですけど」も、深く、しみじみと、良かった。

読み終わってしまうのが惜しい、と思った。

これは、加寿子荘(と著者が勝手に呼んでいるアパート)をめぐる、

そこに住んでいる能町みね子の日常を綴ったもの。

単行本が出たのが2010年7月、とあるから、書籍化からもう11年も経つのだ。

だからここに書かれている日常は、15年くらい前の物か。

実は先述の「結婚の奴」にも、この加寿子荘と、大家の加寿子さんがちらりと

登場していて、いきさつを知らないまでも、ちょっと切ない場面ではあった。

だから僕から見たら、その「前日譚」ということになる。

「スターウォーズ エピソード1」みたいなものだ。

 

この能町みね子という人は、男だったのが性転換して女になったという人で、

そのことはとても希少で、面白いのだが、

この本においてはそのことは重要ではない。

 

重要なのはこの人の、

「過去の建物や文化、そしておばあちゃんたち」を”愛でる”視点だ。

めでる。

愛という言葉、そして漢字は、明治期に言語学者によって作られたもの、

でしかないのだが、

「めでる」という言葉は日本に古くからあったのではないだろうか?

違うかな。愛の漢字は、日本語お得意の「当て字」だと思うのだけれど。

まあそれはともかく、

この人は愛でる。古いものを。

そして新しいタワーマンションなんかを執拗に嫌悪する、攻撃する、言葉で。

「爆破したい」とか物騒なことを言う。

そういうところも、とてもいい。

「愛でる」ばかりの優しい人なんて存在しない。嫌いなものは嫌いだ。それでいいのだ。

 

僕にだって、嫌いなものは多い。テレビ、テレビ番組、テレビドラマ、ジャニーズ、

ディスコ、ディスコミュージック。他にもいろいろあるけど。

 

でもやはり、「愛でる」話のほうが芳醇だし、好きだ。

僕も古い建物や、おじいちゃん、おばあちゃんが昔から大好きなのだ。

(おじいちゃん・・・については、簡単ではなかったけど、今ではちゃんと愛している。)

 

この本はしかし、唐突に終わる。

書かれてないけど、この人は最終的にこの加寿子荘を出るのだ、僕はそのことを知っている。

そして今はゲイの人と一緒に住んでいる。そのことは「結婚の奴」に書いてある。

その、出てゆく最後のエピソードまで、たどり着かない。

いつかこれの続編が出るのだろうか。出て欲しいなあ。

 

最後の最後に衝撃だったのが、なんとこの本、

もともとはあの、SNSのミクシィに投稿されたものを編集したものなのだ。

ミクシィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

実は僕も、このブログのもともとはミクシィだった。

文章修行みたいな気持ちもあって始めた、というところも近い。

 

僕はミクシィはもう見限ってしまったけど、

でもいろんなことが「きっかけ」になり得るんだなぁ、としみじみ思った。

 

 

 

 

もうすぐ梅雨があけて、あの戦慄の「夏」が来ちまうね。

「もうじき暑い夏が来る」っていうのはあの土井健が初めて書いた歌のタイトルだよ。

 

いい歌。

 

 

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