俺はまだ本気だしてないだけ/福田雄一監督
原作は漫画があるらしい。主演は堤真一。これも原作通りなのか不明だが、かなり個性的な人物。何しろ40くらいで会社を辞め、家には自分の父親と娘がいる中、平然とゲームをしながら失業暮らしを悶々と続けている。そうして突然漫画家になる決意をして出版社に通うようになるというお話。一応バイトもしているようだし、まったく本当に無能だとは言えないのかもしれないが、ヤンキーっぽくいい加減に世の中を立ち回って何とかしているという感じ。恐らくそれにはそれなりの今までの自分に対しての漠然とした不満のようなものがあって、遅れてきた反抗期を満喫しているということなのかもしれない。しかしながら風俗店に行ったら自分の娘が働いていたりして、それなりに衝撃を受けつつ反省しているようにも見える。実はかなり心の葛藤があってもがいているのだけれど、うまくそれが表に出せないということで、強がったいいわけが「まだ本気を出していない」という表現になるものらしい。
実はそれなりにそういう気分というのは理解はできるのである。もっと掘り下げて考えてみると、バツイチになりながら嫌な会社勤めをしていて、本当にそういうものが嫌になりすぎたのではないか。しかし辞めたからといって何も打開できない。そんなことは十も承知していたはずだが、実際に自分がそういうことになって、いまさらどうにもどうやって後悔していいのかさえうまく言えない。自分でかえって自分をさんざん追い詰め追い詰められて、どうにもならなくなってから何とか溢れるものがあるのではないかという自分に対する期待のようなものがある。しかしもともとダメ人間にそういうパワーが湧き出るはずもない。グダグダしてしまうが、自分の所為なのに自分の所為にできない。しかし、実は頑張っているのである。こういう頑張りで本当にいいのか自信がないが、本当は意地になっているのだ。態度に出ないが苦しくもがいている。そういう姿が自分でも滑稽でいて、しかし本当に自分には、もうこれしか道がなくなってしまっているのだ。
逃げているが、それでも実は必死で立ち向かってもいる。そういうことは、たぶん、これくらいの年ごろの人には誰にだってあることなのではないか。むしろこのように思い切ってバカができない人が大半で、さらにこれでもそれなりに運と才能を持っているらしいことも素晴らしいわけだ。基本的にはコメディだが、ところどころなんとなく笑えない苦しさもある。身につまされる思いがするというか…。変な映画だが、緩い感じもするが、この設定のお話がいい感じだということかもしれない。負けているが負け続けない気分の人には、それなりに有意義な物語なのではないだろうか。