カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

自分を苦しめることで慰められる人   スワロウ

2022-08-02 | 映画

スワロウ/カーロ・ミラベラ=デイビス監督

 家庭が資産家でなおかつビジネスでも活躍しているらしい男性と結婚し、周囲が羨むような生活を送ることになった若妻が、妊娠する。当然大きな期待を受けることになるが、実は夫の両親との考え方には違和感を持っているし、夫も本当には自分の話を聞いてくれるような関心を持ってはくれない。だんだんと精神に不調を感じるようになり、最初はビー玉を飲み込んで排泄することを覚え、さまざまなものを異食するようになる。だんだんとエスカレートしていき、体を傷つけるようなものまで飲み込むようになっていくのだったが……。
 異食行動は、生活や人間関係のストレスや、妊娠そのものから受けるストレスが原因とははっきりしているようだが、しかし裕福すぎる生活を享受していることには間違いが無い。資産家で上流階級の人々というのは、それぞれにこの生活を享受したものとして、ここから容易に逃れられない運命であることを悟っている様子だ。そうして自分自身も、おそらくこの生活に囚われているのだろう。そうであるからこそ、どうしても異食の誘惑から逃れることもできなくなってしまう。家族は表面上は深刻にそんな彼女を心配し、しかしお腹の中の子供を守ろうとすることになる。資産家家族は、この資産を受け継ぐ正当な子孫を待望しているのだ。
 静かながらに緊張感は続き、さらに異食で事実上の自傷行為に浸る女性の痛々しさに、観ていて本当に苦しくなってしまう。
 主演のヘイリー・ベネットは、見た感じは北欧系(実際はフロリダ生まれで、歌手でもある)ながら肉感もあり、幼さの残るような可愛らしさも秘めている。いわゆる壊れていく過程の演技が見事で、精神に異常をきたしながらも、実はまっとうに生きようとしているひたむきさも良く伝わってくる。そういう過程を見るだけでも価値のある映画なのではなかろうか。結末に至る説得力や行動というものは、僕には理解しかねるものがあるにせよ、しかし、物語としては、やはりこういう感じにならざるを得なかったというのも分かる。仕掛けや伏線という意味でも、よく出来た映画であろう。見ている間はそれなりに苦しいけれど、人間のしあわせとは何かということも、それなりに考えさせられるのではないだろうか。
コメント
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