カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

面白くて人に教えたくなる   英語独習法

2022-05-27 | 読書

英語独習法/今井むつみ著(岩波新書)

 知っていることが認識されない暗黙の知識を「スキーマ」というらしい。そういうまとまった英語的な前提を理解しないことには、その言葉の本当に意味する感覚は分かりえない。それは日本語でもそうで、我々はそういう意味の塊を知らず知らず理解しているので、「てにをは」の使われ方が間違っていることを、論理的に語ることができなくても、正確に使うことができる(たまに怪しい人もいないではないが)。だから英語を勉強するということは、そういう言葉の塊の膨大な知識を理解する必要がある。そうであるがゆえに英語が思ったよりむつかしいと感じている日本人は多いのだろうし、ある程度の勉強をしないことには、そもそも扱えるものではない。
 でもまあ程度というのがあるのであって、自分の思う必要度において勉強すればいいのである。それはそれで険しい道かもしれないが、思い立ったら最初はちょっと頑張ってやったうえで、あとは根気強く少しずつでも続けていくことが、つまるところ英語を理解するというまっとうな勉強法なのだという。さらに近道(聞くだけとか)をして楽に勉強できるという触れ込みの英語学習法を説くものは多いのだが、本当にそれで理解できるなんて言う考え方が不思議なだけであって、やっぱり苦労して引っかかりながら理解する方が、言葉の理解には必要なのであって、そういう苦労して覚えた言葉だからこそ、その後も忘れることも無く、ちゃんと使える身についた言葉になるということなのである。
 そういう実際には合理的な勉強のやり方を、懇切丁寧に論理だてて解説している。英語を流暢に話せるようになりたいという欲求は分かるが、自分の能力に合わせて学習する手立てとしては、文章を理解し、それを書けるようになるよう練習する方が、実は合理的なのだ。言葉を理解する上では、相手の話すペースに合わせて、その一回性で言葉を扱う方がはるかに難しい訳で、ある程度の語彙がたまったのちでなければ、多くの場合上手くいかない。やはりその前のやるべきことをコツコツ積み上げていくよりほかに、合理的な勉強というのはあり得ないのだろう。会話に果敢にチャレンジすることが無駄とは言わないが、実はもっと楽する方法は、急がば回れである。
 いやいや、実際は簡単でないからこそ、自分なりに興味を持った単語や引っかかるものを深く理解するやり方を、工夫してやることが肝心なのだ。またそのためのツールというものが今は実にたくさん備わっている。またそれらはネットでタダで使えるのだ。そうしてこのような本だってある。また好きな英語の映画なども繰り返し見ることができる。結局は熟読吟味して深く理解することこそ大切なのだから、好きなものや興味あるものを題材に選んだ方が、飽きが来ない。なるほど英語話者というのは、そういう考え方で世の中を見ているのか、という驚きのようなものがたくさんあって、僕らのような日本語話者にとって、英語の勉強そのものがたいへんに楽しい題材なのだと理解できるだろう。
 本当にたくさん線を引いて、行きつ戻りつして楽しんで読めた。面白いので人に聞かせたくなる知識が満載である。居酒屋うんちくネタ本としても、大いに有用な本だろう。また再読必至の備蓄本である。
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