僕のワンダフル・ライフ/ラッセ・ハルストレム監督
こどもに拾われて飼われることになったゴールデンレトリーバーのベイリーは、その少年イーサンを心から愛するようになる。そうして多少問題のある家族の変遷とともに犬の一生をまっとうするが、死ぬ前にどうしてもイーサンと一緒にいたい気持ちを捨てきれなかった。それで犬として生まれ変わるのだが、飼い主は違うことになる。三回目の生まれ変わりで、やっとイーサンと再会を果たすことができるのだったが……。
犬の魅力たっぷりのエピソードが続くわけだが、確かに犬を飼ったことがある人なら、いわゆる「あるある」ということで楽しめることだろう。人間の側から見ると困ったことも含むそれらの犬のやらかしだが、犬の立場からも言い分のようなものがありそうだ。そういう犬の声が漏れ伝わってきて、確かに犬ってそんなことを考えてそうだよな、と心打たれることになる。ちょっと出来すぎという感じもするし、さまざまなエピソードに交わる人間たちの行動が、いささか類型的なこともあるけれど、基本的にはハートウォーミングなファンタジーということである。ちょっと突っ込みたくならないわけではないが、基本的には感情を揺さぶられることが多く、それらには目をつぶることにしよう。
犬が演技をするような演出というのは、おそらく大変なんだろうとは思う。名犬ラッシーは、毎週そういうことができたわけで、やはり犬は賢い、ということでもあるが、要するにそれらしく人間が解釈できるほどの動きが、犬にはできるわけである。脚本を理解しているわけではないが、陰で指示を出している人の言うことや、俳優さんたちと共同作業ができる。猫や鳥だってできると言えばできるけれど、ずっとできるのかというと、犬より苦労してできるということになるんではないか。今はCGがあるけれど、実演させることになると、犬というのはそれなりに飛びぬけて演技派なのではあるまいか(もちろん、まったくいうことをきかない犬だっているだろうけれど)。
犬が主人公だけど、物語の大筋は、子供のころから青年時代にかけて、純粋で素晴らしい人間だったイーサンである。しかし青年期に負った心の傷を引きずった大人になってしまう。単に運が悪い訳だが、その運の悪さが、どうにも単純なのである。この一度の大きなひねくれが、ここまで人の一生を変えてしまうものなのだろうか。いや、変え得るとは思いはするが、これだけの成功人生を送れた青年が、これだけひねくれるられること自体が、どうにも僕には引っかかるのである。まあ、それだけ犬の力は大きいということなんだろうけれど。
犬が本当に何を考えているかは、人間にはわかりえないところがたくさんある。それだから、大きな勘違いを含みながら、ともに平和に暮らしていけるパートナーである。犬が本当に素晴らしいのは、そういう謎にこそあると僕は思うのである。