アス/ジョーダン・ピール監督
海岸のリゾート地に遊びに来た、ちょいリッチな黒人家族がいた。もともとホラーなので不穏な雰囲気があったが、今から楽しいひと時が過ごせるはずの設定である。そこに自分たちとよく似た(というか何故か同じ人間のようだ)赤い服を着た別の集団が襲ってくるのだった。これがやはり謎掛けになっていて、後に徐々にわかってはいくのだが、よく似た連中だけれど、やはり何かが決定的に違っていて、強烈な殺意を持っている。やらなければ殺されることになるのは間違いない。そうしてこれらの人は他にもいて、別に知り合った家族は赤い服の集団にすべて殺されてしまう。必死に抵抗しながら逃げていくのだったが……。
特に詳しい説明はないのだが、自分たちによく似た人々は自分たちだけじゃなく同時多発的にどこからか湧き出して来て、いわば人類そのものを襲っている感じだ。オープニングからの謎掛けがあって、主人公たちの特に母親には、何か秘密のカギを握っている雰囲気がある。よく似た人々は、自分たちの何かをよく知っており、訳の分からないことばかり言っているが、命を脅かすだけでなく、精神的にも追い詰めてくるのだ。
一般的なホラーにありがちな、暗闇から恐ろしい場面が続くというようなことではないが、よく分からないながら、ちゃんと理屈がありそうな恐ろしさというのがあって、何故だかウサギが出てきたりして、哲学的な謎掛けのような仕掛けもあり、子供の男の子の分身の子の動きが変だったりして、とても嫌な感じだ。最初父親だけがこの状況をよく分かっていなくて、ギャグっぽいことにもなるが、そういうおかしみも含めて、たいへんに危険である。最後に多くの謎が解けるけれど、それでも実際どうなるのかなんてちょっと分からない。ええッと驚くけれど、後の祭りである。
黒人家族が主人公になっているが、前作もそうだったが、豊かになった黒人の立場であっても、何か社会的に自分たちだけで戦わざるを得ないような空気感があって、僕は黒人ではないが、マイノリティとしての恐ろしさのようなものも、ちゃんと感じられる作りになっている。そういうところがこの監督さんの演出の上手さという感じだ。僕にはこの謎を全部解く能力は無いが、分からない部分も含めて、何かもやもやと恐ろしい。嫌な感じだけど、人に勧めてもいい映画だろうと思う。