カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

認知症スリラー演技合戦   ファーザー

2022-05-24 | 映画

ファーザー/フロリアン・ゼレール監督

 おそらく認知症になった父親の視点でとらえた物語。娘夫婦は父と一緒に暮らしている様子だが、最初は父の暮らすアパートのブロックに、娘夫婦がやってきた風に見えているが、しかし話は逆転して、父の方が何らかの事情で移ってきたようにも見える。認知症が進行していて、いったいどちらが真実なのかよく分からない。分からないが、その混乱ぶりと父の体験が、観ているものには分かるようになっている。
 名優と言われるアンソニー・ホプキンスの演技が光る、という感じになっていて、その周りの俳優たちも、その名演に引っ張られるような感じもあってか、なかなか皆さん頑張ってるな、という感じだろうか。要するに演出の方が、演技を高めることに注視していて、そういう演劇世界を楽しむ作品だということだろう。
 認知症の世界の不条理というか、それで周りの人間が振り回されることになるということなのだが、今見ている場面が、いったい現実のことなのかどうなのか、ということにかなり不安定な気分になる。何か仕掛けがあるらしいとは示唆されているけれど、それは一方的に父の認知症のためなのだろうか、それとももしかすると、認知症を理由に、周りの人間が落とし込めているのではないか、などと考えてしまう。そういうスリラー的な要素で謎解きの興味を持ってみていると、それはやはり人間ドラマであって、人間が老いるという現実を捉えた悲しい物語ともいえるだろう。娘にとっても事情はあるし、しかし家族ということにも、やはり事情があるということだろうか。
 この物語の原作者が、そのまま脚本を書きメガホンを取っている。この話の思い入れがそれだけ強いということかもしれない。それにしてもアンソニー・ホプキンスは現在84歳(この映画の撮影時は81歳だったのかもしれないが)ということで、これだけ科白回しの多い作品にもかかわらず、やはり見事ということだろうか。どうしたら認知症にならないのか、観ている人の興味は、現実の人間にも向けられることになるのではなかろうか。
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