カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

行進文化とはなんだろうか   パレードへようこそ

2016-04-29 | 映画

パレードへようこそ/マシュー・ウォーチャス監督

 英国サッチャー政権下、ウェールズにある炭鉱が廃坑の危機にあった。労働組合は長期化するストで疲弊している。そういう中にあって、同性愛のグループがその活動の閉鎖性を打破するというか、ちょっとした思い付きをする仲間のアイディアで、この労働組合の支援を打ち出して募金活動を展開する。そうして実際に少なからぬ募金を集め組合と交流を深めようとするのだが、何しろ閉鎖的な男たちと保守的な家族構成の炭鉱の町なので、ある意味特殊な連中の訪問に、支援とはいえ戸惑いと軋轢が次々に生まれていくことになるのだった。
 労働組合の問題もそうだが、同性愛の社会的な認知というのは、いわゆる偏見との闘いである。本人たちの多くは、まず最初に家族との軋轢で心に傷を負っている。さらに仲間が少数だからたむろするわけで、かえって目立ってまちなかで好奇の目と非難とがないまぜになっている立場だ。むしろ敵意をむき出しにして襲いかかってくる連中もいる。そこにいるだけで生命の危険さえ脅かされるような場合があるわけだ。
 そういう中ではあるが、英国というのは(まあ英国には限らないことではあるが、特にこのような社会環境の見本のような国だし)デモ行進を日常的にやって自己主張をするような、そうして直接市民に支持を取り付けるような風潮があるらしく、頻繁に街に繰り出してデモを行い、そうして警察と衝突したりしているようだ。ウェールズの田舎の炭鉱の人々は人数は多くてもそのような日常には長けておらず、むしろロンドンに住む同性愛者の方が、環境的にはデモ慣れしているような背景があるようである。
 立場も違うし軋轢も多いが、徐々に互いに理解者が増え、交流や信頼は深まっていくが、どうしても相容れられない組合側の人間もいる。彼らの心は容易には開けないし、むしろ反発は強まり攻撃的になっていく。同性愛側にもそれぞれに問題は抱えており、中心人物などは離脱してしまうなどトラブルが絶えない。結局何もかもがはじけて崩壊してしまうように見えるのである。
 実話をもとにしていて、エピソードがそのままそうなのかは分からないが、かなり素材は使われているのではないかという想像は働く。また、すでにその時代という感じもあって、現在では日本はとりあえず別にすると、はるか遠い昔の偏見受難な時代という感じは少しする。
 基本的には社会的な映画とはいえるけれど、コメディの部分も上手いし、サスペンスとしての展開も楽しめる。娯楽として楽しんで観て、そうして啓蒙としても理解を深めることに成功しているのではないか。苦いところもちゃんと残しているし、これからの話も考えさせられる。
 結局日本のことを考えてしまうが、日本だと、後50年くらいはかかるかもしれないな、などと残念な感慨をもったことだった。いや、それでも楽観過ぎるだろうか…。
コメント
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