BUNGO~ささやかな欲望~【みつめられる淑女たち編】
「注文の多い料理店」/富永昌敬監督。宮沢賢治の原作のこの作品は、子供の教科書に載っているような定番の話だから、恐らく誰でも知っている話だろう。このドラマでは不倫カップルが、別れをほのめかしながら後の手切れ金のことを考えながら駆け引きをすることを中心に進んでいく。傲慢な人間が、自然界の罰を受けるという感じだろうか。
有名すぎる話を、恐らくは誰でも知っているオチがありながらつなげていくのは、それなりに苦しい感じだった。面白くない訳ではないんだけどな、ということと、荒唐無稽な、しかし考え方としては面白いオチというのは、やはり文章で味わった方がいいのかもしれない。
「乳房」/西海謙一郎監督。戦時中の話。乳房が膨れてきたように思えて一人で悩んでいる少年が、夜間巡査の時に近所の理髪店に寄ると、夫を兵隊にとられている若い女主人が店で髪を洗っていた。その時にはだけた服の間から乳房が垣間見えたのだが、少年はその乳房が気になって仕方がなくなる。ある日この理髪店に散髪に行くと空襲警報が鳴って、二人は店の片隅に身を寄せ合ってやり過ごすうちに…。
少年から少しだけ大人に脱皮する性的な話である。少年には母親が無く、若い女主人には夫が不在で悶々としている状況で、この二人が乳房を通じて、まさに通じ合うようなことになるわけだ。自然といえば自然だが、なかなかそんなことは無いようにも思う。昔の人はスケベだな、と思います。
「人妻」/熊切和嘉監督。若い夫婦の住んでいる二階に間借りする男が、階下から聞こえる若妻の声などに敏感に反応し、妄想を深める。心の声の分身が現れ、自分の若妻への性的な欲求を代弁し行動を起こすように促す。そんな時に若夫婦の夫が所要で家を空けている夜に帰ってくると、若妻は縛られて横たわって助けを求めていた…。
まあ、これも仕方のない物語である。昔の家なので防音が行き届いていない。少しでも暮らしの足しになるように間借り人を置いたのだろうが、これでは大変に危険である。
若妻とは秘密を共有することになるけれど、考えてみると、この若妻が本当に無事だったのかは疑問だ。それは普通であれば大変に不幸な話なのだが、しかしこの若妻はその若さを持て余している感じもする。そういうところが男として怖いというのが、二次的な面白さかもしれない。まあ、欲望は考えすぎにあるわけで、困った話である。