結構若い夫婦などが、小さい子供を連れて焼肉屋さんなどに入っている。それ自体は別に悪いことでは無かろうが、なんとなく以前は無かったな、という風景に思えるのかもしれない。子供が小さいころに焼肉屋に連れて行けなかったこともあるんだろうけれど、そもそもあんまり連れて行くような環境に感じていなかったというのもあるかもしれない。焼肉屋というのが今のようにあんまりきれいでなかったり(今でもきれいでないところはあるが)、何というかちょっと閉鎖的な場所だったという感じだろうか。また最初から焼肉屋に行かないこともないが、飲んだ〆で焼肉に行くというのもある。そういうことの合う店というものと、若い家族というのが、あまり見かけない風景なのだろう。
若いころにはよく焼肉屋に行ったように思うが、しかしそんなに金を持っていたわけではない。誰かが焼肉に行こうといわない限り、自分からはとても言い出せない、という気分はあった。焼肉屋に一度行くと、その月は少し苦しい。そういうことを覚悟の上で気合いを入れていく。あんまり気合を入れ過ぎてもどうかと思うが、散財するのは分かっているので、もうやけくそである。お金を持っているときもあるし、誰かをあてにしていることもある。おごってもらうのは普通は嬉しいかもしれないが、僕はひねているので、おごってもらうのは楽しいわけではない。気を使うので(ようには見えてなかっただろうけど)、落ち着いて食えない。まあ、妙な先輩がいて落ち着きすぎるのもどうかという意見もあろうから、それはそれでいいけれど、特にくだけた焼肉の席でありながら、しかしそれなりに高価であるというのは、そんなに面白いわけではない。体育会系の飲み会というのはこういう場所が多くて、まあ、やり過ごす場所なので、早く終わんないかな、とも思っていたようだ。
さて、肝心の味の方なんだが、上ロースとかカルビなんかは確かに最初は旨くて、精神的に盛り上がるのだが、やはり一定以上食ってしまうと、どっかりとこたえてくる。食いしん坊のくせにこれがちょっとつらい。ビールや焼酎の水割りで流し込むが、かなりムカムカしてくる。焦げた野菜に気が付くように箸を伸ばし、何とかやり過ごすが、ふだんはあんまり食わないセンマイなどをしみじみ食ったりする。最近のホルモンは非常に油が多くなったが、ちょっとしけたホルモン程度なら、このムカムカを治す程度には食べ続けることが出来たようだ。
ところで一人で出張なんかに行って、ごくたまにだが、一人で焼肉屋に入ることがある。カウンターには僕のような一人焼肉男というのが結構いるんである。近年はこじゃれてこぎれいな焼肉屋というのはあるんだが、カウンターに小上りがあって、ほとんど地元民というところも無いではないが、しかし、労働者風やサラリーマン風の野郎が並んで、一人でホルモンなどをつついている。焼肉屋は一人でも割高なんだけれど、これをボチボチつつくというのが、それなりに満足度が高かったりする。団体さんが大声で話をして盛り上がっているのをしり目に、一人で黙々ボチボチと肉を焼き、焼酎などを飲む。そんなに長居をするわけではないが、肉を食うペースというのが自由であると、ちょっと食い過ぎてももたれないような気がする。まあ、残ったらもったいないと無理して食うようなこともないではないが、特に誰かを気にすることは無いので、気持ちを切り替えることも可能である。問題は、そういう焼肉屋というのは、アウェイでは案外見つけにくかったりするということかもしれない。