中学校のシャルパンティエ/小谷野敦著(青土社)
音楽を題材にしたエッセイ集である。小谷野敦のエッセイは、好きだというのがあるんだが、面白いのでついつい続けて読んでしまう。いろいろな話がごった煮のように出てきてまとまりは無いのだが、そこが味というか面白さである。そうして、時折鋭いというか、アッというような考察が混じっていたりする。軽いは軽いが、そういうことが起こるので、読み飛ばしながらも、また戻って読んだりする。
表題の話は、学生時代の教育実習の思い出に恋をした話である。相手は芸大の声楽の人だったらしい。誰かは当然知らないが、これを本人が読んだらきっと分かるだろう。そうして恐らく周りにいた人たちだって分かることだろう。そういう意味ではきわめて私小説的なエッセイかもしれない。
そういう恋のような体験的な話も時折出てくる。音楽と、そのような相性の良さのようなこともあるのだろう。僕はクラシック音楽はほとんど聞かない(でもまあ、時々CDを買ってしまうが)のでそんなに共感のある話は少ないのだが、こういうタイプの人が、のめり込むような音楽なのだな、と妙に感心してしまう。生い立ちや境遇や性格がまるっきり違うので当たり前の話だが、僕のようにロックを聞いてギターを弾いて、というような学生時代じゃないのだから、かえって新鮮な驚きばかりだ。若いのにクラシックを聞くような人がいるなんてことを想像したこともなかったから、そうして実際に居たんだという驚きがまずあって、人間の趣味というのはまったく不思議なものだな、と思った。いや、考えてみると友人にもクラシックを聞くような人も居ないではないのだが、いつの間にか忘れてしまうのだろう。
もっとも僕だって、いわゆる歌謡曲のようなものは中学の途中くらいからまったく聞かなくなってしまった。恐らく忙しくなってテレビをおろそかにしか見なくなったせいもあって、のめり込んで聞くロックというのも少数派に属する感じだった。ロックを聞いている人も居はするんだが、ちょっと僕の分野とは微妙に違ったりする。僕はいわゆるユーロ系のダンスミュージックを除くと(今は聞いたりするが)割合広い範囲を聞いていたと思うのだが、変な言い方をすると、日本人の一般的なロックファンとは違うことになってしまったように思う。
まあ、それはいいのだが、大河ドラマが好きだったり、みんなの歌を熱心に聴いたり、やはり著者は少し変わっている。これを読みながら時折you tubeなどを眺めて確認したりした。そうすると、まあ、これのことだったのかと気づかされる曲もあるし、まったく何のことやら知らないものも多かった。年は近い人だけれど(著者が5つほど上のようだ)、やはりずいぶん違うものである。僕も時折音楽題材でブログを書いているので、こういうスタイルもいいかもな、と思ったことだった。