馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

黒毛和種子牛の脛骨螺旋状骨折 2ヶ月齢 DCP

2017-05-01 | 牛、ウシ、丑

その子牛はトラックの荷台に縛り付けられてやってきた。

手押し車に乗せて手術室へ運び込んだ。

X線撮影する。

左後肢。

尾-頭方向では骨幹部での斜骨折に見えるが・・・

外-内方向で見ると、螺旋骨折であることがわかる。

この子牛、親牛がひっくり返した草架の下敷きになっていたのだそうだ。

螺旋骨折が斜骨折となって骨を2つに分けているが、螺旋状の骨折線はさらに遠位へ骨幹端まで伸びている。

骨折部位の骨は縦に亀裂が入っている。

脛骨全長にわたるプレートを当てることが必要だ

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脛骨稜上を切開し、骨を露出させた。

骨折部で骨膜が骨から剝がれているが、それ以上めくってはいけない。

プレートは骨膜の上に当てるのだ

なんとか整復して、骨鉗子で仮止めして、X線透視装置で確認する(これは反則技のようだけどまあご容赦ください;笑)。

この症例ではプレートは脛骨内側に入れる。

プレートは骨が引張られる側(テンションサイド)へ入れる

外側から、内尾側へ向けてラグスクリューを2本入れて仮固定した。そうすれば、スクリューヘッドがプレートを当てるのを邪魔しない。

そうして、使うプレートを選ぶ。

成長板をまたぐ内固定はしたくない。10穴のナローDCPが使えるか当ててみたが、長すぎる。9穴ナローDCPを使うことにした。

DCPは骨に沿わせる必要がある。

骨から浮いていると、プレートとスクリューがガチャガチャ動いて、ゆるみ易いし、スクリューが破損したり、内固定が崩壊する要因になる。

ベンディングプレスでDCPを反らせる(これは他の器具でもできなくはない)。

骨折部の遠位と近位に4.5mm皮質骨スクリューを入れた。これでかなりしっかりする。

スクリューは対側の皮質骨にもしっかり効かせる(double cortical)。

骨幹端へは6.5mm海綿骨スクリューを使った。

これは本格的にやるのはこの症例が初めて。

子牛の骨幹端はとても柔らかいので、4.5mm皮質骨スクリューではネジ山の効きがたよりないのだ。

成長板を貫かないように注意する。

最後から2本目は、骨折部近くに、最初に入れたラグスクリューに当たらないようにスクリューを入れようとしたが、当たってしまった。

仕方がないので、短いスクリューを入れた。

一番最後は、骨折部に、対側皮質に効くように斜めにスクリューを入れた。

DCPでは、すべてのプレート孔にはスクリューを入れる

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一番近位は6.5mm海綿骨スクリューを使ったのに効いた手ごたえがなかった。それだけ子牛の骨幹端は柔らかい。

近位から2番目の6.5mm海綿骨スクリューは、対側皮質を貫いている。そして、しっかり効いた手ごたえがあった。皮質2ポイント。

近位から3番目の4.5mm皮質骨スクリューも対側皮質にも効いている。骨折部の近位側累計4ポイント。

近位から4番目の4.5mm皮質骨スクリューは骨折線近くから挿入した。手前の皮質に強度はない。しかし、対側皮質をしっかり貫いた。累計5ポイント。

近位から5番目の4.5mm皮質骨スクリューは、ラグスクリューに当たったので、手前の皮質にしか効いていない。遠位側累計1ポイント。

近位から6,7,8番目の4.5mm皮質骨スクリューは対側皮質を貫いている。しかし、6番目のスクリューの先は亀裂に近いかもしれない。累計6ポイント。

一番遠位の6.5mm海面骨スクリューは、対側皮質もしっかり貫いたし、効いた手ごたえだった。遠位側累計8ポイント。

これらのスクリューとこのナローDCP1枚で大丈夫だろうと判断した。

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子牛は、またトラックの荷台へ縛り付けられて帰って行った。

痩せて汚れた子牛だった。

このあとのことが気になる。

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手術の翌日、x線画像を見直して何度も検討する。

頭の中だけではない。パワーポイントに貼り付ければ、x線画像を反転できる。

同じ角度の、内固定前と内固定後を並べることもできる。

CTがなくても、骨にどのように骨折線が走っていて、それをどう固定するべきだったのか、理想に近い内固定ができたのかどうか把握できるようになる。

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・・・・・・・

 

 

 

 

 


黒毛和種子牛の脛骨螺旋状骨折 2ヶ月齢 前夜

2017-05-01 | 牛、ウシ、丑

夕方、前日分娩した繁殖雌馬が沈鬱、食欲不振、さらに軽度の疝痛も示す、との相談。

お産が重かったのだそうだ。

子宮動脈破裂する歳ではないし、消化管破裂を疑うほどひどい症状でもない。

子宮穿孔かもしれないが触診ではわからなかったし、腹水増量はない、とのこと。

輸液をして様子を観たら・・・ということにした。

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夜中起こされた。

夕方、相談された馬がやはり来院し、子宮穿孔を確認した、とのこと。

「子宮穿孔は夜中にやらなくてもいいんだけどな・・・・」

と思いながら開腹手術におもむく。

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早期に対応できた子宮穿孔にしては馬の状態は良くない。

血液検査所見も悪い。

PCV51%、白血球数3000、乳酸値3.1mmol/l。

開腹手術したら、血様の腹水がひどく増量していた。

左子宮角の穿孔部を縫合して閉じる。

血様の腹水を吸引して廃液する。

大量の血餅も出てきた。

細菌感染による腹膜炎症状より、出血による循環性ショックの症状が強かったのだろう。

小結腸や盲腸も気脹していたので、ガス抜きした。

大量の生理食塩液を腹腔に入れて、吸引することを繰り返した。

トロッカーカテーテルを留置して、明日から腹腔洗浄できるようにした。

終わって、帰ったのは1時過ぎ。

緊急扱いして夜中に手術して正解だった。

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翌日、出勤したら疝痛馬が来院すると言う。

繁殖雌馬、分娩後約1ヶ月。

来院したら痛みは落ち着いていたが、超音波画像検査で肥厚した結腸壁が見えて、浮腫をおこした結腸動脈も見えた。

直腸検査でも結腸壁が肥厚している。

開腹手術することにして、私は助手を務めた。

りっぱな結腸捻転だった。

私が考案した方法でcolopexyもやってもらった。

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その手術の最中に、子牛の脛骨骨折の連絡。

骨折プレート固定は、開腹手術より件数が少なく、手術方法も症例ごとに知識と経験を総動員して考えなければならない。

その子牛の脛骨骨折が書きたかったことなのだけれど・・・前夜からの状況が長くなった。

指と頭をフルに使う症例は、余裕のあるときにやってくるとは限らない。(つづく)

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オラも、夜中に出入りするとうちゃんにおこされてねぶそく

きょうは、オラはへいのかげでかぜをよけてねてた

だってこのじゃまっけなものはかぜにあおられるんだ