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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

腐骨と骨髄炎

2010-10-12 | 学問

Pa110573_2 アメリカ獣医師会雑誌にはWhat's is your diagnosis ? という臨床クイズが載っている。

JAVMA,237,6,629,2010

「おっ、馬の腐骨の症例じゃん」

と思った私は、不正解!!

ひっかかってしまった。

                          -

Pa110574_2 左は左上と同じx線画像。

解説が加えられている。

12cmの長さにわたる腐骨が第三中足骨の中に形成されている(白い線で囲まれた部分)。

(4方向どちらから撮っても骨の中に写っているところがミソ。

つまり骨皮質の腐骨ではなく、骨の内部、骨髄が腐っている。)

病巣を取り囲む垣のような骨膜反応 palisading periosteal reaction が認められる(白矢印)。

気体による透過像 gas opacity が皮膚の傷の部分に認められる(中抜け矢印)。

骨膜反応は中心・第三足根骨の背外側にまで認められる(矢頭)。

                          -

以下、抜粋。

この繁殖雌馬は、皮質骨を含み、なおかつ骨髄にも腐骨があり、その大きさと部位から、外科的なデブリドメントは無理だと判断された。

骨髄にスクリューを入れて、ゲンタマイシンで1日置きに10日間灌流した。

外傷部はデブリドメントした。

フルニキシンとcefquinome 1mg/kg q12h を投与した。

細菌培養ではMRSAが分離された。

MRSAはテトラサイクリンとトリメトプリムサルファに感受性があったので、トリメトプリム-サルファメトキサゾールに変更した。

ゲンタマイシンへの感受性はインターミディエートだったが、骨内注入は続けた。

発熱は入院後1週間続いた。

入院10日後、馬は肢に負重することができ、骨髄への中空スクリューは抜いて、退院した。

残念なことに、馬の状態は悪化し、発熱はコントロールできなくなり、畜主は牧場で馬を安楽死させ、さらなる検査は行えなかった。

                          -

骨髄が感染していて、皮質骨も傷んでいた。だから、完全にデブリドメントしようとすると、骨がおれてしまいかねない。ということなのだろうけど。

結果的にみれば、外科的デブリドメントが必要だったのだろう。

骨が壊死し、血行を失い、感染すると、腐骨 sequestrum となり、外科的に摘出しないと治癒しないようだ。

腐骨の周りには新しい骨が形成され、骨柩 involucrum インヴォクラムが作られるが、腐骨を吸収することはできない。

                       ////////

 今日、朝、種雄馬の鼠径ヘルニア。陰嚢ヘルニアではなかった。Pa120574_2

皮下に腸管があっても、陰嚢ヘルニアで総鞘膜が破れているとは限らない。

この辺が、微妙なところだ。

                        -

 午後、Dr.Richardson先生のアドバイスどおりに腐骨摘出手術。

副管骨は摘出した方が良い。骨間靭帯も繋靭帯も問題にならない。ペンローズドレインを入れた方が良い。

何もかもアドバイスどおりなのに驚く。

Pa120577_2


4 コメント

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はじめてメールします。 (muraken)
2010-10-13 22:31:45
はじめてメールします。
教えてください!
骨柩のX-ray透過性が高い部分は、骨組織なのですか?
結合織が入り込んでいるものなのかと思っていました。
返信する
>murakenさん (hig)
2010-10-14 00:52:40
>murakenさん
 話がややこしくなるのですが、まず普通の皮質骨の骨柩では、腐骨は割れて血行を無くした皮質骨です。周囲には壊死組織があり、それらが新生骨に囲まれようとしている。つまり骨柩になっています。
 今回のJAVMAの症例では、壊死した骨髄と皮質骨の一部なんでしょうね。剖検していないので、正確なところはわからなかったのでしょう。普通の皮質骨の骨柩よりさらに珍しい症例だと思います。
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天邪鬼なので別のストーリーを考えたくなります(... (zebra)
2010-10-15 00:27:09
天邪鬼なので別のストーリーを考えたくなります(苦笑)
外傷に由来する?骨膜炎が原発で、骨髄炎は2次的に壊死感染したものではないでしょうか。
病巣は本来健全であった中心部をとり残すように同心円状に骨折してしまっているようにも思えます。
骨膜反応はその物理刺激にも由来しているのではないでしょうか。
治療方針は書いてある通りになると思うのですが、キャストをしなければ骨膜反応は消失せず最終的に完全骨折に至ると思います。

骨膜に至る外傷に姑息的手段を選択したが故に突然骨折した症例を知っているので考え付いた次第です。
レントゲン撮影をしていれば同じような像が得られたかも知れません。
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>zebraさん (hig)
2010-10-15 03:45:51
>zebraさん
 皮膚に傷はあったのですが、もともとの傷ではなかったようで、「初発症状の2週間後に夜目の下に傷ができた」とあります。皮質骨の骨折から腐骨ができて、それを取り囲む骨柩ができた症例を手術しても、腐骨の下の皮質骨を貫いていない症例もあります。外から感染が皮質骨を貫いていくことは、皮質骨全層に至る亀裂骨折でもないと可能性として少ないかもしれません。
 血行性に骨髄に感染が起こった。それもMRSAの。というのが問題提出者の考えている病理発生なんでしょう。
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