妊娠中の繁殖雌馬が元気食欲不振を示すことがある。
四肢や腹の下に浮腫(むくみ)があったり、血液検査で肝臓系の酵素やビリルビンが上昇していたりする。
”妊娠中毒”と呼ぶ獣医さんも居る。
ヒト医療から来た言葉なのだろうが、専門用語として使うなら定義が必要だろう。そして・・・
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かつてヒトで妊娠中毒とよばれたのは、妊娠中期以降に
高血圧、
タンパク尿、
むくみ、
のいずれか1つ、あるいは2つが認められた場合。
しかし、タンパク尿やむくみは単発で現われても母体にも胎児にも大きなリスクがないことが多く、慎重に管理すべきは高血圧であることがわかってきた。
それで、2004年に妊娠高血圧症候群と呼ばれることになった。
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妊娠前や妊娠20週までに高血圧を認める場合は高血圧合併妊娠。
妊娠20週以降に高血圧のみ発症した場合は妊娠高血圧症。
高血圧とタンパク尿を認める場合は妊娠高血圧腎症。
さらに、2018年からはタンパク尿を認めなくても、肝機能障害、腎機能障害、神経障害、血液凝固障害、胎児の発育不良などがあれば妊娠高血圧腎症と分類されるようになった。
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妊娠高血圧症候群が重症化すると、高血圧、タンパク尿だけでなく、けいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、HELLP症候群が引き起こされることがある。
子癇とは、明らかな原因のない妊娠中のけいれん発作で、妊娠20週以降にはじめてけいれん発作を起こし癲癇や何かの二次性けいれんであることが否定される場合に呼ばれる。
高血圧により脳の血管が拡張し、脳浮腫を起こしていると考えられている。
HELLP症候群は、妊娠後期あるいは分娩時に、溶血性貧血(Hemolytic anemia)、肝逸脱酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelet count)を認め、母体に危険を伴う。症状は、頭痛、視力障害、不快感、吐き気と嘔吐、上腹部の痛み、など。
馬医者としては消化器症状も含まれていることに注意したい。
急性妊娠脂肪肝 AFLP; Acute Fatty Liver of Pregnancy と呼ばれる病態もある。妊娠末期に急激に、肝不全、腎不全、播種性血管内凝固を引き起こし、母子ともに危険な状態に陥る。
私は今まで数例、原因不明のひどい脂肪肝を繁殖雌馬で見たことがあり、気になる。
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妊娠高血圧症候群は、正確な原因や詳細な病態はわかっていないが、胎盤でさまざまな物質が異常に造られ、それが全身の血管に影響を与えるために起こると考えられている。
ヒトでは妊娠高血圧症候群は妊婦20人に1人の割合でみられる。
重症化する場合は、早期に妊娠を終わらせる(帝王切開)ことも選択される。
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さて、妊娠末期の繁殖雌馬の食欲不振、浮腫、あるいは黄疸で、”妊娠中毒?”とするのは正しいだろうか。
臨床症状や血液検査では何を指標にすべきだろうか。
治療方法や対処方法はあるだろうか。
結腸や盲腸の便秘と類症鑑別できるだろうか。
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図書館で借りて読んだ。
時代物の恋愛小説でもあり、お家騒動ものでもある。
少しコミカルだったり、ミステリータッチだったりする。
しかし、登場人物は単純単細胞ではない。わかりにくいかもしれないし、勧善懲悪だけとも言えない。
ヒロインも最後まで悪女なのではないかと思わされる。
葉室麟の説教臭さというか、理屈こきというか、面倒くさく現実離れした”べき””はず”もこの小説では控えめかもしれない。
楽しめた。
冷え込んだ夜。読書に没頭したい夜。
反面、ヒトにあるなら馬でもあるだろう、という考えもあるのでしょう。
少しでも調べてみる姿勢が大事かと。
亜寒帯では、読書の冬です。
あまりに寒くて、風も強くて、外での作業もできませんでした。
かたや高血圧は原因も対処も難しい事が多いのではないでしょうか。
牛だと虚脱する個体がたまにいるんですよ。こういうのは胎仔への血流が後負荷減らして低血圧起こしているように思えます。
ヒトの妊娠高血圧症候群も実際には原因も根本的な治療法もわかっていないので、難しいのでしょうね。
馬も、胎膜水腫で人工流産させたときに、ショックを起こして死ぬことがあります。
妊娠は病気じゃないが命がけ。母性に敬意と感謝です。
馬だと消化器病の確定診断も難しいのです。妊娠末期の盲腸便秘も手をこまねいてしばしば手遅れ、盲腸破裂にされています。