馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

R.equi耐性株は生産牧場の環境に保存される

2024-07-09 | 学問

先に紹介したR.equi耐性株がケンタッキー中心部で増えているという1995から2017年の調査成績。

同じグループが2018年には前向き調査研究(実験を計画しておいてから採材・調査を進める)を行っている。

            ー

Identification of macrolide- and rifampicin-resistant Rhodococcus equi in environmental samples from equine breeding farms in central Kentucky during 2018

Vet Microbio (2019) 232; 74-78

Rhodococcus equi causes severe pneumonia in foals and is most often recognized in people as an opportunistic pathogen. Longitudinal studies examining antimicrobial-resistant R. equi from environmental samples are lacking. We hypothesized that antimicrobial-resistant R. equi would be detectable in the ground (pasture soil or stall bedding) and air at breeding farms with previous documentation of foals infected with resistant isolates, and that concentrations of resistant isolates would increase over time during the foaling season. In this prospective cohort study, ground and air samples were collected from stalls and paddocks in January, March, May and July of 2018 at 10 horse-breeding farms with history of foal pneumonia attributed to macrolide- or Rifampicin-resistant R. equi. Environmental samples were cultured in the presence and absence of macrolides and Rifampicin to select for resistant organisms. Data were analyzed with linear mixed-effects and Hurdle models. Concentrations of total R. equi in bedding or air of stalls were significantly (P < 0.05) higher in January than other months. The proportion of resistant R. equi in soil samples from paddocks was significantly (P < 0.05) higher than stall bedding during all months. For each month, air samples from paddocks had a significantly (P < 0.05) higher proportion of resistant isolates than those from stalls. Fifty-five percent of resistant soil isolates and 34% of resistant air isolates were considered virulent by identification of the vapA gene. Concentrations of resistant R. equi isolates did not increase over time during the foaling season. Antimicrobial-resistant R. equi can persist in the environment at farms with a history of pneumonia caused by resistant R. equi infections, and exposure to resistant isolates in paddocks and stalls appears stable during the foaling season. Resistant isolates in the environment not only pose a risk for disease but also can serve as a repository for dissemination of resistance genes.

Rhodococcus equiは子馬に重度の肺炎を引き起こし、ヒトでも日和見病原体として最も頻繁に検出される。環境サンプルから抗菌薬耐性R.equiを縦断検出した縦断的研究は不足している。われわれは、耐性菌に感染した子馬についての以前の文献から、抗菌薬耐性R.equiは、生産牧場の地面(牧草地の土壌または馬房の敷料)と空気中で検出可能であり、耐性分離株の濃度は子馬の季節に時間の経過とともに増加するという仮説を立てた。この前向きコホート研究では、2018年1月、3月、5月、7月に、マクロライドまたはリファンピシン耐性R.equiに起因する子馬肺炎の病歴のある10の馬生産牧場で、馬房とパドックから地上および空気のサンプルが収集された。環境サンプルをマクロライドおよびリファンピシンの存在下および非存在下で培養し、耐性菌を選別した。データは線形混合効果モデルとハードルモデルで分析した。敷料あるいは馬房の空気中の総R.equiの濃度は、1月に他の月よりも有意に高かった(P < 0.05)。パドックの土壌サンプル中の耐性R.equiの割合は、すべての月で馬房の敷料よりも有意に高かった(P < 0.05)。各月について、パドックからの空気サンプルは、馬房からのものよりも耐性分離株の割合が有意に高かった(P < 0.05)。耐性土壌分離株の55%および耐性空気分離株の34%は、vapA遺伝子の同定により病原性があると考えられた。耐性R.equi分離株の濃度は、子馬の出産期に経時的に増加しなかった。抗菌薬耐性R.equiは、耐性R.equi感染による肺炎の病歴のある牧場の環境中に残留する可能性があり、パドックや馬房での耐性分離株への曝露は、子馬のシーズン中に安定していると思われた。環境中の耐性分離株は、病気のリスクをもたらすだけでなく、耐性遺伝子の播種の保存場所としても機能している。

              ー

1月2月などの早生まれはR.equiに罹りにくいのではないか?と考えられている。

気温の上昇とともに牧場の土壌中でR.equiが増殖することは知られている。

先に生まれた仔馬たちがR.equiに感染していたら、その中に新たに生まれてくる弱い新生仔馬が容易に感染して発症、あるいは重症化することも考えられる。

それで、抗菌剤耐性R.equiについて生産牧場で調査を行ってみたけれど・・・・

              ー

1月が衛生的だとはいう証拠は得られなかった。

              ー

仔馬が感染するのは、馬房の中なのか、パドックなのか、というのもぜひ知りたいポイントだ。

どの月も、パドックからの空気サンプルが、馬房からの空気サンプルより耐性分離株の率が高かった、というのも衝撃。

やはりR.equiは本来土壌菌であり、牧場の土壌を感染仔馬の糞便が汚し、そこから仔馬が感染するのだろうか?

              ー

牧場環境は、耐性遺伝子だけでなく、強毒株の保存場所 repository として働く、と言える。

牧場のR.equi感染仔馬が居なくなったら、パドックの土を入れ替え(深さ20cmが推奨されている)

厩舎を掃除し、洗浄し、消毒しましょう。

来年の仔馬を守るために。

           /////////////////

会議と総会の(あと3次会まで連れて行っていただいた)翌日。

雨だったが、前から行ってみたかった浜離宮を訪ねた。

羽田へ着陸するとき、眼下に大きな庭園が見えるので興味があった。

将軍さまのお庭であり、保養所であり、迎賓の場であった。

東京を歩いて、外人観光客が多いのに驚いた。

円安、なんだね。

馬の獣医さんが海外研修に出にくくなった、というのも会議で出ていた。

こう円安じゃね。

 

 



4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はとぽっけ)
2024-07-09 19:54:58
 母馬が保菌者だった場合、、、、。とかいろいろ考えちゃいます。
 放牧地カーペット方式採用なるか?ならないですよね。

 お手入れの行き届いたところなのでしょうね。大都市の緑は決して少なくはないですね。大事な場所なのでしょう。
 子供のころから植栽の土は川や野山から採取してブレンドしていたので都会ではホームセンターで買うと知ったときは衝撃でした。二十歳過ぎての出来事
返信する
>はとぽっけさん (hig)
2024-07-10 05:37:16
別な研究ですが、母馬は感染源、保菌場所ではないと考えられています。私も母馬は保菌しないと考えています。そもそも成馬は感染しませんから。

外で産ます、そのまま外で管理する。その方が病気にならない。というオーストラリアからの報告もあります。

浜離宮は、将軍さまの世界でした。ガーデンともちがうし、古寺や神社の庭園ともちがう、スケールの大きさでした。でも、うっそうとはしていない。警護のためでしょうか?
返信する
Unknown (zebra)
2024-07-21 06:06:51
にもかかわらず、パドックや早生まれの方が発症割合が少ないとなれば増殖直後と申しますか、排菌直後の強毒株の方がタチが悪いということになるのではないでしょうか。
増殖機会を失うと経時的にスリープモードに移行してしまうとかですね。。
土壌継代と宿主増殖では様式が違うのであれば表土さらうメリットもありそうですとか。

生産馬価格円建てならもっと高くても良いのかも、ですね。
獣医師報酬もドル建てで頂けば円安関係なし、かもです。
返信する
>zebraさん (hig)
2024-07-21 08:57:48
面白い考えです。植物の種も、寒さに当たることが発芽のために必要だったり、水に浸けてから蒔くと発芽率が上がったりしますので、細菌だって病原性を発揮しやすいステージとかあるかもしれません。viable but not culturable ということありますし。

馬券売り上げは円建てですからね。年金や生活保護費の支給日には売り上げが伸びるなんて噂もあります。強い円を握りしめて、海外へ勉強や買い物に行けた日々は終わったのかも知れません。
返信する

コメントを投稿