真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人いんらんONANIE」(1990/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/演出助手:広瀬寛巳/撮影助手:鍋島淳裕・田中譲二/照明助手:尾田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川奈忍・山本竜二・石川恵美・池島ゆたか・早瀬瞳・宗元大介)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 蝉の音鳴らした墓地のロング、浴衣の女が参る。クレジット起動と津田スタ夜景に続いて、山本竜二の遺影が飛び込んで来るのが開巻二十二秒。早いといふよりも速い、いはゆる未亡人ものの単刀直入な速度が清々しい。未亡人ものを撮る時は、誰しもが新田栄になる。
 朝顔柄の浴衣で悲嘆に暮れる野沢明子(川奈)が、始終そんなに徹底する訳でもないウノローグ―宇能鴻一郎調モノローグを略した造語―で「アタシ未亡人なんです」。三十八歳差と、明子は下手な親子より齢の離れた野沢俊介(山本竜二の一役目)と結婚した、ものの。新婚三日目に騎乗位の最中につき、俊介は腹上死ならぬ股下死、享年六十二。とか絡み初戦込みで明子が基本的な来し方を振り返つたところで、「ただいまー」と山竜ボイス。そんなこんなな目下、明子は俊介の連れ子―前妻の去就は一切等閑視―とはいへ、自身と同い年で大学生の大介(山本竜二の二役目)と二人暮らし。どうでもいゝが、大介は二十四で学部生なのか、医学部にも見えないし。閑話休題、ところで大介が最初は一見秀才ぽく見せて、次第に頬に刷いたチークも赤やかに、気がつくとトッ散らかるか、半ば以上にブッ壊れた何時も通りのばか造形。俊介が田舎の土地を売つた金が、まだ一億は残つてゐる筈だと主張する大介が有無から行方不明な預金通帳の探索を明子に促す一方、俊介の弟・コースケ(池島)が妻の悦子(石川)を伴ひ野沢家を来訪。明子の将来を鑑みて云々の一点張りで、野沢の家から籍を抜くやう勧める。
 大介を養子に迎へる形で遺産を狙ふコースケの思惑は、明子の予想外に固い、義息の面倒を見る決意で一旦頓挫。石川恵美の痴態がエクストリームな夫婦生活を入念に見せた上で、悦子は息子が駄目なら、大介を弟にする奇策を思ひたつ。配役残り、早瀬瞳は悦子が対大介に放つ、妹の倫子。さう来たか!といふ片岡修二らしいグルーヴ感が、今作のハイライト。そしてよもや大介役を、あるいは大介分もわざわざ別にクレジットしたのか?と最後まで読めなかつた、如何にも変名臭い宗元大介―次元を捩つたのかなあ―は、津田スタを急襲するオチ担当の借金取り。サングラスを更に別人の声がジャミングして甚だ判り辛いが、多分アテレコ―主不明―されたひろぽん。
 ビデオ題が邪魔臭くて一覧から未見作を探すのが正直無駄に骨の折れる、深町章1990年第七作。野沢埋蔵金を巡る騒動が最終的には他愛ない帰結を迎へ、明子と大介の疑似近親相姦物語も、相変らずな山竜がガッチャガチャに水を差す締めの濡れ場で、逆の意味で見事にドッチラケる。面白くない詰まらないでいふと煌びやかに見所を欠くかに映りかねない一作ながら、スッカスカな展開の隙間を女の裸で埋め尽くす量産型娯楽映画としての充実さあるいは誠実さと、何、より。大介を籠絡するべく飛び込んで来た倫子が、一戦カマすや御役御免と退場。話の流れを阻害するでも木に竹を接ぐでもなく、本筋に全く即した上での、なほかつ鮮やかな一撃離脱。何気に完成された、三番手の起用法が実は感動的。慎ましやかに研ぎ澄まされた、論理と技術が静かに火を噴く匠の一作。寧ろ以降の終盤丸々を、ロンゲストな蛇足と捉へてしまへ。


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