真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「生録盗聴ビデオ」(昭和57/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:伴一彦/プロデューサー:村井良雄《日本トップ・アート》/企画:進藤貴美男/撮影:野田悌男/照明:加藤松作/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:加藤文彦/色彩計測:高瀬比呂志/現像:東洋現像所/製作進行:三浦増博/出演:風間舞子・江崎和代・織田倭歌・中原潤・明石勤・大河内稔・浜口竜哉・八雲大・広田正光・外崎晃・桐山栄寿・木下隆康・木下進・松永隆幸・佐多ちひろ・栗原由美子・松本信子・原田舞依)。出演者中、木下進以降は本篇クレジットのみ。
 ビルの谷間から余光煌めく夕陽を覗いて暗転、7:36のデジタル時計。窓越しに公衆電話の受話器を持つた女にピントを送り、真木子(風間)が食事をする約束で待ち合はせた筈の、商社マンの夫・芹沢修一郎(こゝでは声のみ/明石勤)から急な出張が決まつただのと、ぞんざいな方便でスッぽかされる。特に何処にも誰もゐない、スクランブル交差点の俯瞰にドラムでビート刻んでタイトル・イン。タイトルバックは繁華街をフラつく、真木子の適当な一人歩き。
 夫婦揃つて旧知の、小泉朋子(江崎)が営む会員制スナック「愛の巣」の敷居を跨いだ真木子は、他愛ない若造(多分木下隆康)のナンパには耳を貸さず、トレンチも脱がず一人でグラスを傾ける、竹田義一(中原)と目を合はせる。店を出ると、外は雨。指輪を外し竹田の傘に入つた真木子は、そのまゝ連れ込みに直行。急な生理が訪れるものの、豪気な竹田はハモニカを吹く口を止めもせず続行。真木子が気がつくとリアタイ的にはエポック・メイキングな機軸であつたにさうゐない、二人の情事はカメラで撮影され、ベッド脇のブラウン管に映し出されてゐた。土壇場ぽい大きな契約に、心奪はれた修一郎が徒に晩酌の杯を重ねる戸建の芹沢家居間。竹田との生録ビデオを見たと思しき、男からの怪電話を真木子は被弾する。誰も、“盗聴”に関して何の疑問も懐かなかつたのか。
 配役残り、竹田の個人情報求め「愛の巣」を訪ねた帰りの真木子を、夜の公園で襲ふ男は桐山栄寿。実は玄関からすぐのところにある1DKばりの構造に軽くビビる、台所に真木子が立つ昼下がり。織田倭歌(大体ex.青木三枝子)は黒いフーセンガムの女の子が呼鈴を鳴らしたかと思ふと、ずかずか上がり込んで来る謎の少女、に見えるけど齢は大人の環、実年齢で公開当時二十歳らしい。大河内稔は環の矢継ぎ早に芹沢家を急襲する、生録ビデオを携へたマサ斎藤似の紳士。広田正光と外崎晃は更にカメラと脚立を持つて現れる男AとB、広田正光がカメラを担いでゐる方。二人がかりで撮影しながら真木子を犯す、有無をいはさぬシークエンスの無体な豪快さも兎も角、環が適当なビデオカセットを再生すると、テレビにライブ映像が流れるロマポ驚異のメカニズムが何気に謎。一件を事由に離婚した真木子は、斎藤(超仮名)らが仕切る恐らく高級コールガールに。風間舞子と織田倭歌のほか、脱いで絡む女優部が更に二人(jmdbに項目のある、佐多ちひろと松本信子かなあ)投入される簡単にいふとヤリ部屋。浜口竜哉はカメラが順々に舐める三組目で、環を抱く男。愛の巣とヤリ部屋要員に、アバンの茶店も加へるとそもそも頭数から全然足りず、手も足も出ない木下進以降の本クレ限定隊に関しては潔くさて措き、最後に残つた名前が、今作最大のハイライト。竹田を捜す真木子は環を伴ひ、竹田と入り件のビデオを撮影された連れ込みに赴く。各室を窺へるモニターの並んだ支配人室にて二人の急襲を受ける、軽くググッてみた限り今作入れて同年のロマポ三本と、テレビドラマに出演した形跡の見当たる八雲大が誰あらう、当サイト的には小見山玉樹・庄司三郎とロマポ脇役部三巨頭を成す影山英俊の別名義。「西部警察 PART-II」(昭和57~昭和58)のゲストに八雲大と、影山英俊がノンクレの扱ひで併記されてあるのが微笑ましく、且つ断定の決め手。クレジットされてゐる訳がない、だつて同一人物なんだもん。
 引き続き風間舞子をヒロインに据ゑた、菅野隆第三作。八雲大=影山英俊に次ぐ枝葉にせよ矢張り大きな見所として、終盤ヤリ部屋のあるマンションとは別物件の真木子ヤサで、「探偵物語」(昭和54~昭和55)に於ける工藤探偵事務所ロケ先で知られた、同和病院(千代田区/1998年デモリッション)が登場する。
 偶さか一夜よろめいてみた人妻が、あれよあれよとアグレッシブな売春婦に。真木子が開眼する過程を、大味の展開を通してひとまづ描いてゐる点は大きな相違点ともいへ、「密猟妻 奥のうづき」同様、箍の外れたセックス・マシーンに風間舞子が扮する物語には、よくいへば量産型娯楽映画らしい、既視感を覚えなくもない。尤も、経血通り越して生命の存続すら危ぶまれる大量出血で、竹田との正常位を真上から捉へた画で純白のシーツに、まるでといふかまんま日の丸が拡がる凄まじいイメージを撃ち抜きつつ、ベクトルの絶対値が撥ね上がるのは寧ろそのショットの一点突破なり一発勝負に止(とど)まる。思想の深淵に触れるどころか握り潰しかねない勢ひで鷲掴んでみせた、前作と比べると決定的にパワーダウンしたきらひは正直否めない。三東ルシアといふ一応看板スターを擁してゐるにしては、何某か詰まらない事情でもあるのか第四作「セクシー・ドール 阿部定3世」(昭和58/脚本:佐伯俊道/助演:小見山玉樹)がソフト化にも配信にも何故か頑なに恵まれない中、菅野隆が、あと一本。


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