真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 よせばいいのに」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小川求/協力:ミュージック レストラン ナイト・アンド・デイ/編集:金子編集室/助監督:青柳一夫/スチール:大崎正浩/監督助手:毛利安考/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/主題曲:三浦弘『よせばいいのに』/出演:明日香ちなみ・一ノ瀬まみ・高橋ルリ・山本竜二・港雄一・石神一・板垣恵美・工藤正人/特別出演:三浦弘・ハニーシックス)。
 痴漢電車にしては意表を突く陸橋の画で開巻、赤の馬鹿デカいアメ車が登場。三浦弘先生が運転なさるアメ車が、何でか知らんけど山本竜二と工藤正人を何時ものやうに駅まで送る。山竜の「ぢや音楽行きますか」の一言でイントロ続いて“女に生まれて、来たけれど、女の幸せ、まだ遠い”と代表曲の「よせばいいのに」起動、タイトル・インからクレジットにかけて一番を丸々費やす。引き続き二番を聴く一郎(工藤)のウォークマンに、何故だか理屈が理解出来ないし結局最後まで説明は為されないのだが女の喘ぎ声が混線、触発されたのか一郎は陽子(明日香)に痴漢する。所変り「理論科学研究所」―何だそれ―の、“特殊地域内FM放送”と壁に掲示された一室。二人とも白衣のところを見るとこれで研究職なのか、ハルカ(一ノ瀬)に今朝の首尾を問はれた陽子は、電波を流した途端スケベ供が寄つて来て痴漢に大満足であつたと、奇々怪々な会話を交す。そこに二人の遣り取り曰く、“電波が飛ぶと男が寄つて来る”なる正体不明の理論科学を唱へる所長(港)が現れ、納品用のテープに女の喘ぎ声が入つてゐたと訳の判らないお小言を二人に垂れる・・・・話が全然見えて来ない。今回の御大仕事は、序盤から順調に徒な難解さに頭を抱へさせられる。陽子は“通勤電車ラジオ・ステーション開局記念”に飲みを誘ふも、旦那が帰つて来るといふハルカは断る。今度はスナック「摩天楼」(大絶賛仮称)、カウンターに画面奥から一郎・山本竜二・三浦先生と、一番手前に誰かもう一人。一郎が朝の一件に関してクライム自慢を軽く切り出すと、山竜はヘッドフォンで音楽を聴いてゐた女子大生に痴漢した武勇伝を披露、電車痴漢に興味を持つた三浦先生は盗人猛々しい二人からたしなめられる。三番手が思ひのほか美人であるのは結構なのだが、相変らずお話は全く見えて来ない。ハルカがシャワーを浴びる、一ノ瀬まみの大美人ぶりは手放しで素晴らしい。単身赴任先から一時帰宅したといふのに寝てゐるダメ亭主(石神)を起こしての夫婦生活、事後ハルカは陽子に勧められた痴漢かあるいは離婚だと、薮から高層ビルが聳え立つ二者択一の腹を決める。山竜に痴漢されたJD・ヒロミ(高橋)が、友人のカワハラヒトミ(声は板垣恵美か?)と電話で話す。ヒロミのウォークマンにも女の喘ぎ声が流れ始め、直後に山竜が寄つて来てゐた。だから何が何だか没論理ないしは超論理に導かれ、何者かが流した電波がヒロミのウォークマンに混線したといふ最早神秘的な結論に落ち着いた挙句に、俄に自身も海賊放送に開眼したヒロミは、姪だといふヒトミの紹介で港所長に会ふ。支離滅裂な文章しか書けてゐないのは、今項ばかりは半分以上は小生の所為ではない筈だ。
 イコール板垣有美の板垣恵美は後回しにして出演者残り特別枠のハニーシックスは、ラストのひとつ前、「ナイト・アンド・デイ」のステージから離婚テーマの曲をライブ披露、客席のハルカを泣かせるグループセルフ。メインボーカルの二人には、ベソをかくハルカを慰める一幕も設けられる。ハルカの薮蛇な離婚決意は、この件に捻じ込む強引な伏線であつたのか。伏線といふか、木に接ぐ竹の植樹といふか。何はともあれ、ファンの皆さんは必見、ヤケクソなのか俺は。電車内乗客要員の中でとりわけ目立つ妙に精悍なオッサンと、Tシャツ姿の摩天楼マスターは不明。
 タイトルだけで選んでみた、薔薇族込みで小林悟1990年全十八作中第十六―ピンク限定だと13/14―作。まさか三浦弘とハニーシックスが飛び込んで来るとは思はなかつた、これは「ナイト・アンド・デイ」撮影込みで御大人脈なのか。陽子は毎朝何某かの原理に従つて通勤電車内で実験を繰り返してゐるやうなものの、出発点たるそこのイントロダクションを清々しくスッ飛ばされてしまつては、ただでさへ飛躍と無造作のみで占められた以降の最早展開の名に値しない殆ど物理的時間の進行と同義の始終は、いとも容易く不条理の領域に突入といふか墜落する。仕方がないので殆ど存在しない物語を掻い摘む儚い営みは放棄しそのまま筆を進めてしまふと、ヒロミの電波に一郎と山竜をカッ浚はれた格好の陽子は、降車後一郎を捕獲。体調不良を装ひ連れ込みに雪崩れ込むへべれけな導入から、各人実は一度きりの本格的な濡れ場―高橋ルリは訪ねた港所長と―を漸く消化。ハニーシックス・オン・ステージ挿んでオーラスの痴漢電車に乗り込むのは、抜かれる順にハルカ・山竜・一郎・陽子・三浦先生。陽子は三浦先生は撃退し、一郎の痴漢は受け容れる。ところまでで、尺は残り三分、一体ここからどうやつて映画を畳むのよ。袖に振られた三浦先生は、それではと板垣恵美の尻に手を伸ばす。ところが板垣恵美は女痴漢捜査官で、憐れ三浦先生現行犯逮捕。一方ハルカは何者かに痴漢され続け、三浦先生検挙に呆然とする一郎の傍ら陽子が「よせばいいのに」の一言を憎々しげに吐き捨てて終り・・・・

 そ、そんな(;´Д`)

 確かに、三浦先生がお縄を頂戴した瞬間走る、映画的緊迫は尋常ではない。ついでにハルカを痴漢してゐたのは実は石神一で、無理矢理夫婦仲のヨリを戻してみせるのか、だなどと一瞬期待した俺はジョージア・テイスティよりも甘かつたよ。観客の鑑賞を積極的に拒むかが如き混迷を極める混沌の末に、それはそれとして日本映画史上に残り得ようまさかまさかのゲスト・スターの無体な扱ひに度肝を抜かれる、明後日にせよ一昨日にせよ兎にも角にも衝撃作。ただのルーチンワークだと高を括ること勿れ、そこには巨大な虚無が口を開けて、映画の底もろとも全てを呑み込まんと待ち構へてゐる、ブラックホールか。


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