真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性犯罪ファイル 闇で泣く女たち」(2001/製作:小林プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:小林悟/撮影:小山田勝治/照明:ICE&T/編集:田中治/助監督:竹洞哲也/監督助手:小松慎典/出演:小室優奈・藤崎レオナ・白井ゆかり・茂木智・岡田謙一郎)。
 心にもなく、刑法第百七十七条の条文を押さへて開巻。
 若夫婦がわざとらしく開いた窓の隙間で熱い接吻を交す。名残を惜しみながら、新妻(白井)は新幹線に遅れてしまふ、と夫(誰?)を送り出す。一呼吸置いて、呼び鈴が鳴る。新妻が夫が戻つて来たのかとドアを開けると、今作の主人公、強姦魔・昭島(茂木)登場。恋人に手酷く振られたばかりの昭島は女に対し激しい憎悪を燃やし、「お前みたいな女を見ると、無性に犯したくなるんだ」、「お前達だけが幸せなんて許せねえ、不公平だ」。と、出鱈目な言ひ分で延々朝まで新妻を犯す。警察に通報なんてすると旦那に離婚されるぜ、と非道な捨て台詞を残し昭島は去る。
 ところ変つて、史絵(藤崎)は上司の水城(岡田)と不倫関係にある。女房がなかなか離婚に応じて呉れない水城は、仕方なく一旦家に帰る。一呼吸置いて、呼び鈴が鳴る。史絵が水城が戻つて来て呉れたのかとドアを開けると、再び昭島参上。幼少期に父親が若い女を作つて家を出たとかいふ昭島は、自身の強姦は棚に上げ不倫の罪悪を説きながら延々朝まで史絵を犯す。無体な捨て台詞を残し立ち去るところに加へ、白井ゆかりと藤崎レオナがそれぞれ首から下は美しい体をしながらも、首から上が曲がつてしまつてゐるところまで含めて、全く同じプロットを踏襲する。大藪春彦の奇書、『餓狼の弾痕』にも似た複雑なトリップ感を味はへる。
 続けて昭島は、メル友の玲子(小室)とドライブ、いい雰囲気になる。「車の中もホテルもイヤ、何処か夢の国に連れてつて」といふ玲子を、昭島は何でだか電車セットが組んであつたりもする、ロケ・スタジオなのだか物置なのだか判然としないよく判らない部屋に連れて行く。ムードの欠片もない雑然とした部屋なのだが、玲子は唐突に置いてある街灯に目を留めると、「うわあ、街灯がある。夢の国みたい♪」。・・・・判つてゐる、ツッコんだら負けだといふことは。どれだけトラウマの種に事欠かないのか、父親が家を出て行つた後、母親には虐待されたといふ昭島は玲子をどうしやうもない不手際で不格好に縛り上げると、バイブで陵辱する。拘束したままの玲子を放置し、立ち去る昭島の背中に玲子が叫ぶ。「ケダモノ!変態!気違ひ!鬼、悪魔!」。さりげなくテレビ放映ではジャミングが入る件につき、誰がこんなもの地上波で放映するのだ、といふ話ではあるが。
 「こんなケダモノが、けふも都会の片隅に棲息してゐる。被害者は一人として、警察に届けた形跡がない」。だなどと、岡田謙一郎の取つてつけるが如く無味乾燥なナレーションが入り、まるで断裁でもするかのやうに、映画は色んなものを置いてきぼりにしたまま幕を閉ぢる。あらゆるエモーションに予め積極的に背を向けたかのやうな、徹頭徹尾ドライな一作。僅かな感情移入や慰撫の欠片すら、小林悟は観客に許さない。その徹底した姿勢は、矢張り小林悟は小川欽也や新田栄とは、明らかに異なつた地平で仕事をしてゐたのではないかと妙な誤解さへ生じさせかねない、偉大ではない怪作である。

 撮影は小山田勝治とあるが、冒頭の新妻パートにて、一箇所ガチョ~ンと思ひ切り派手にピンボケする。柳田“大先生”友貴の手によるものだといふならば、いつそのこと素直に肯けるのだが。監督の因果にカメラマンまで引き摺られてしまつたならば、これ程業の深い話もあるまい。意図的にぞんざいに撮つて呉れ、といふ注文に応じたものではなからうなとさへいふのは、いふまでもなく考へ過ぎに違ひまい。


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