真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「密着指導 教へてあげる」(2021/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:小南敏也/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:今井哲郎/録音:大塚学/助監督:浅木大・貝原クリス亮/スチール:本田あきら/編集:小南敏也/撮影助手:高橋基史/制作応援:別府啓太・阪田翔太郎・渡邊創時/出演:古川いおり・金子雄也・栗林里莉・川瀬陽太・倖田李梨・ケイチャン・剣斗・麻木貴仁)。東ラボのクレジットがないのは、本篇ママ。
 成人映画館の実情を弁へぬ暗さ、ハモニカを吹かれ、女の影が妖しくうねる。一方、ワーワー大わらはで爆走する中年男のカットバック。進学校の数学教師・鈴原のぞみ(古川)が生徒の奏多(剣斗)と情を交す教室に、駆けつけた同僚(麻木)が轟然と怒鳴り込んで来る。口元に黒子のある奏多もろとも、麻木先生(超仮名)から激しく難詰されたのぞみが「何のために今まで頑張つて来たんだつけ?」、人生の目的を―改めて―見失ひ暗転タイトル・イン。それなりの距離を移動してその場に辿り着いた麻木貴仁が、その時そこで事が行はれてゐるのを、察知した経緯については綺麗に等閑視される。あと見える見えないのみならず、聞こえる聞こえないも全篇を通しあちこち弁へてゐない。ピンクの小屋を、普通の映画館と同じ塩梅で考へて貰つちや困る。今際の間際、もとい今更の限りのこの期に及んで、垂れる繰言でもないけどね(๑´ڡ`๑)
 手荷物と花束を携へた主演女優が、真直ぐな田舎道を歩く。抜けるやうな晴天にも恵まれた、美しいロング。盛夏ゆゑ盆なのか、母親の墓参に帰郷したのぞみが背後から迫り来る、軽自動車の道を塞ぐ形で熱中症的に昏倒する。車を運転してゐたのはのぞみにとつて高校時代の恩師で、今は家業の農業を継いでゐる佐々木良彦(川瀬)、同乗者は矢張りのぞみの同級生で、再婚の良彦と結婚した後妻の早苗(栗林)。後述する篤志の実母たる、前妻の去就は生死から一切語られない。墓地まで送つて貰つたのぞみは、佐々木家にも招かれる。淫行事件を機に無論退職、東京の家を引き払ひ、実家も消滅してゐるらしく要は仕事はおろか住所すらない。ある意味珍しい、のぞみが完全根なし草である点に着目した早苗は、良彦の息子で自宅浪人してゐる篤志(金子)の家庭教師を、おまけに住み込みで乞ふ。割と空前絶後の機知奇策が、良彦の大した介入もなく早苗主導でザックザク成立。篤志目線でいふと齢が十も離れてはゐまい、そもそも若き義母と同い歳の魅惑的なホームチューターが、しかも一つ屋根の下に転がり込んで来る。棚から雨霰と菱餅が降り注ぐ盛大なファンタジーを、早苗の強引ではあれ面倒見はいゝ造形の一点突破で固着するには、如何せん二番手が些か役不足。清水大敬とか森羅万象、旧い名前しか出て来ない女優部だと小川真実なり風間今日子辺りの、少々の無理をも力づくで通してのける圧を有した面子を連れて来るのでなければ、映画丸ごと底を抜いて雪崩れ込むくらゐしか流石に厳しいのではなからうか。さういふ、過大な大役を負はされた栗林里莉が、古川いおりが城定秀夫大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)と、加藤義一2019年第二作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ=加藤義一・星野スミレ=鎌田一利)・第三作「濡れ絵筆 家庭教師と息子の嫁」(脚本:深澤浩子)を経てのピンク第四作。といふのは頭にあつたが実は栗林里莉もこれまで、友松直之2014年第一作「強制飼育 OL肉奴隷」(脚本:百地優子/キャスティング協力:久保和明)と、竹洞哲也2015年第四作「色欲絵巻 千年の狂恋」(脚本:当方ボーカル=小松公典/二番手)に、髙原秀和大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/二番手)。なかなかバラエティないし破壊力に富んだ、アシッドなフィルモグラフィの出来上がる四戦目であつた。
 配役残り、倖田李梨とケイチャン(ex.けーすけ)は、何時の間にか死んでゐたのぞみの母・涼子と、壁の向かうで当時高校生ののぞみが耳を塞いでゐるにも関らず、クソ親が平然と連れ込む情夫。最低でも一件から半年は経過したラスト、見事か無事大学に合格した篤志を面接する家庭教師業者で、十八番の罵倒芸は凍結した―が台詞は普通にある―久保和明(a.k.a.久保獅子or久保奮迅or獅子奮迅)がノンクレ出演。その他、麻木先生がダッシュする廊下に一瞬見切れる生徒の人影と、高校時代のぞみを虐めてゐた、早苗を煽る声のみ女生徒なんて判る訳がない。
 要は今時ハイロー系のイケメンアクション版「闇金ウシジマくん」、「クロガラス」シリーズの小南敏也ピンク映画筆下し作、我ながら雑なイントロにもほどがある。小南敏也がR15+戦線向きにも一見思へ、昨今の新作本数自体が壊滅的に激減してゐる暴逆風の中、今後継戦するのか否かは全く以て不明。
 恐らく小遣ひの全額もブッ込み、鬱屈とした性欲を拗らせる浪人生の下に降臨したカテキョの女神が、やがて既視感も覚える高スペックを発揮しつつ、同様に悦楽交差点みも拭へない魔性の本性を現す。ノースリーブの脇から覗く肩紐と、背中を向けると透けるおブラジャー。高いテンションでスパークし続ける、超絶の目元と口元。演出と演技双方、メソッドのダサさ陳腐さ如き些末に一瞥だに呉れず、腹を括つた艶技指導に統べられ家庭教師もの、あるいは古川いおりもの的にはペッキペキに完璧。既に実績のある商業監督ゆゑ至極当然といへば当たり前なのか、量産型裸映画としては初陣にせよ、面白味か可愛気に欠けるほど手堅くまとまつてゐる。早苗が夫婦生活の際、良彦に目隠しを施すプレイを好む。端からある意味顕示的な布石が、のぞみの仕掛ける佐々木家制圧作戦に於いて見事に着弾。尺の僅少ささへさて措くと、崩壊したのぞみの家庭環境に担任の良彦が介入する構図で、三番手を展開に組み込む難事にも成功してゐる。反面、壊れる前と壊れてからしか描けなかつた、実は結構広大に空いた行間。切札を担ふに足る麻木貴仁でなく、最も存在感の薄い、アバンから飛び込んで来る刺客。序盤の超飛躍を充実した中盤で帳消しにしてなほ大いに余りあつた始終が、クライマックスで失速するきらひは否み難い。山場で蹴躓いたまゝ、結局ラストでも挽回出来ず。劇中都合三つ登場するプロミスを整理すると、口約束にしても元々甚だ覚束なく、挙句良彦が再婚した時点で、事実上無効化してゐる第一の約束。逆にのぞみが反故にした、物騒な報ひも受ける二番目の約束。最も新しい約束を、締めの濡れ場で麗しくもしくは堂々と、果たしてみせても罰はあたらなかつたのではなからうか。秤にかけた全体的な物語―の雰囲気―を優先して、裸映画に最後の最後で踏み込みきれなかつた印象を受ける。何れにしても、外の世間に出た途端吃驚するくらゐ画を保てなくなる、芯を感じさせない男優部主役の結構致命的な脆弱性は残されるのだけれど。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


« 姉妹OL 抱き... 女秘書の告白... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2023-04-03 07:31:05
この作品、監督の師匠の城定秀夫の作品の感じがしたんですが、
城定監督が撮った『夜、鳥たちが啼く』は師匠の北沢幸雄作品みたいな感じがしました。

どっちもいいとこを受け継いでる感じがしていいです。
 
 
 
>師匠の城定秀夫の作品の感じ (ドロップアウト@管理人)
2023-04-04 11:44:23
 うーん・・・攻め処を、詰めきれてない感じはします
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。