真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(2009/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:山田案山子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:大空音々・ほたる・酒井あずさ・寺西徹・岡田智宏・丘尚輝・なかみつせいじ)。
 住み込みの家政婦の働き口を求める田中路子(大空)は、三年間で十人の家政婦が入れ替り立ち代り辞めて行つたいはくつきの、何時でも右にピンと跳ねた特徴的な寝癖から“√《ルート》教授”と徒名をつけられた数学教授・五十嵐等(なかみつ)の家に入る。正しく分刻みのスケジュールを強要する、五十嵐の戯画的な堅物さに辟易としながらも、宛がはれた二階右側の自室に通されやれやれと一息ついた路子は、早速といふか何といふか、罰当たりにも位牌を取り出すと秘裂に押し当て自慰をオッ始める。路子は事故死した亡夫・弘明(寺西“『びっちゅう』”徹)と、二年前に死に別れた未亡人であつた。すると、息苦しさを訴へるとともに路子から逃げるやうに弾け飛んだ位牌から、

 弘明の幽霊登場。

 そのまま、彼岸と此岸の別など微塵も感じさせぬ、冥門も気軽に抉じ開けた夫婦生活に突入してしまふ。逼迫した頃合の空気も読まぬ新田栄の無茶なお痛にズッコケる間もなく、大空音々が見えない―こともない―角度から放たれる破壊力絶大のフックでシークエンスに止めを刺す。ウエストといふ概念の存在しない巨象の濡れ場といふ名のスラッシュに、実体を伴なつた幽霊が出て来ちやつたよなどといふ底抜けも、最早それどころではない遥か以前の問題として雲散霧消。死してなほ巨漢の妻から虐げられる無惨な弘明の姿に、とめどなく流れよ、我が涙。仕方なく話を戻すと、翌日から家政婦としての実質的な仕事をスタートさせた路子は、二階左側に、何の部屋か聞かされてゐない謎の一室を見付ける。長く使はれてゐないらしく、黴臭い部屋には箪笥の中の女物の衣服と、裏向きにされた女(ほたる=葉月螢)の写真とがあつた。その夜帰宅した五十嵐は、写真の女は亡妻・和代であることと、和代の部屋には入らぬやう厳命する。三年前の和代の誕生日、予定を早め贈り物に花束を買つた五十嵐が帰宅すると当の和代は、研究に没頭し妻を蔑ろにして、ゐるやうに一見見える五十嵐を見かねた助手の橋本公平(岡田)に言ひ寄られ抱かれてゐる最中であつた。その後和代は事故死したのだといふが、それにしては、五十嵐家に仏壇の見当たらぬことを路子は訝しむ。満足に食事も摂らず論文の執筆に没頭する五十嵐を、路子は要らぬ世話だといふ誹りにも怯まず甲斐甲斐しく世話する。肉の分厚さはさて措き温もりを感じさせる路子に対し、次第に五十嵐も打ち解けて行く。
 まるでロボットのやうに非人間的な数学教授が、人情肌の家政婦と色んな意味で接する内に、人間味を取り戻して行く。といふ本筋自体の骨格は、実は意外としつかりしてゐる。酒井あずさは、一旦路子が五十嵐家を離れる際に、後任として手配する家政婦・大谷万里。三人目の女優を招聘する方便としての、五十嵐の前から路子が一時退場する段取りも完璧。三番手の濡れ場要員が、最も美人であるアンバランスを除けば。因みに万里は、和代のドレスを着て悦に入つてゐたところに訪れた水道修理工の佐川ではなく江沢真一(丘)と、トイレで致してゐたのを帰宅した五十嵐に見付かり、馘になる。気を取り直して更にそこから、路子と五十嵐とが目出度く結ばれるものかと軽くミス・リーディングした上で、2の筈の1+1が3になるといふ目出度いラストは、本来ならば十二分に綺麗な娯楽映画たり得るところであつた。縦横無尽に適宜実体化して登場する弘明幽霊などといふ、派手なギミックが殆ど何処吹く風と等閑視されてしまつてゐることと、主演女優の莫大な物理的質量さへなければ。別に普通に攻めてゐれば幾らでも順当に形成ししめ得てゐたであらう映画を、わざわざ最早反則に近いものすらある変則と暴力的な配役とによつて、むざむざ木端微塵にしてしまつた怒涛の怪作である。それこそ、大空音々と酒井あずさの役が逆であるだけで、評価も百六十度は異なつたものになつてゐたのではなからうか。

 世にいふバカ映画好きは、少なくとも現役では最も危険な新田栄にもつと注目するべきだ。映画の観方が、根本的に変るであらう。

 再見に際しての付記< 五十嵐邸の物件は、御馴染み白亜のミサトスタジオ。因みにオーラス時路子が草鞋を脱ぐ二階堂家も、ミサトの和室ではある。更に、ミサトのテラスをオープンカフェに模し路子が和代と文字通りの茶飲み話をする件、路子の後方に見切れるのは新田栄。そして最後に今作は、現状新田栄にとつてラスト・ピンクに当たる。


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