真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生 スカートの中」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:フィルム・クラフト/助監督:杜松蓉子/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:冴木直・桜井あつみ・杉原みさお・石神一・白都翔一・坂入正三・朝田淳史)。
 通称“スノー学園”―在学生同士の会話の中では単に“スノー”とも―こと、白雪女子大学の銘板開巻。白女生の亜貴子(冴木)と千浪(桜井)がそこら辺のベンチに腰かけて、暫く大学に出て来ない由香利の話に。由香利は姉夫婦宅に居候してゐるとの設定で、姉要員に板垣有美の顔が浮かんだのは純粋無垢な早とちり。姉宅にかけてみる電話を二人で押しつけ合つて、組み替へる足にタイトル・イン。各個人の携帯電話所有がギッリギリ当たり前でなかつた、時代ならではのアバンではある。
 亜貴子にレポートを書かされるタケシ(白都)が、誘拐されたと助けを求める由香利の留守電に仰天する。一方、その頃シャワーを浴びてゐる亜貴子は早く来た生理に眉を顰めつつ、血は亜貴子の股の間からではなく、天井から落ちて来てゐた。その旨を告げる、亜貴子の尻に血が滴るカットはサスペンス的にも結構な出来であつた、にも関らず。結局上の階のオバサンが、梅漬けの瓶を引つ繰り返しただけとかいふどうでもいいオチには錯乱しさうになる。ねえ、何がしたいの!?その、木に竹も接がない一幕は何のためにあるの!?それなりのサスペンス演出まで繰り出して、何で蛇の足にも満たないエピソードで予め規定された尺を削るの!?意味を解さうとしたら負けなのか、正体不明の敗北感に打ちのめされる。
 兎も角、あるいは気を取り直して配役残り、朝田淳史は、千浪にレポートを書かされるヒロシ。女子大生が、レポートを書かせた男と―課題もそこそこに―セックスする、のが所与の条件として成立してゐる世界観。最早完全無欠、英雄的な天才映画監督と、小林悟を讃へるほかない、自棄起こすなや。再度強ひて気を持ち直し、己を奮ひたゝせ杉原みさおが、一年前の夏、三人で下田に行つた由香利。ツーリング中の石神一の単車に喰ひついた由香利を放置して、亜貴子と千浪は風呂に。その間、軽く二尻を満喫した由香利は、まんまと石神一に犯される。光量はまるでコントロール出来てゐないものの、全裸に剝かれた由香利が木々の中を逃げる画が結構エロい。石神一に中で出されての妊娠疑惑に怯えた由香利は、堕胎費用を稼がうと六本木で夜の街デビュー。酔つたフリしての“抱きつきスリ”―劇中用語ママ―に開眼するも、半ヤクザの柳川(坂入)に捕まり、継続的に手篭めにされるどころか売春を強要されるに至る。斯くもへべれけな転落展開で、映画が暗く地の底まで沈まないのが小林悟は本当に不思議、常に乾いてゐる。
 シネフィルでもあるまいし、国映作づくのもらしかねえなと、息抜きに大御大・小林悟1992年第三作。四の五の野暮な不平を垂れながらも、この人の映画に何だか落ち着く心持ちを感じなくもないのは、絶対にどうかしたか弱つてゐるからにさうゐない。
 今回小林悟が繰り出す、思ひもよらぬ方向から弾が飛んで来るアメイジングな飛び道具が、何と1990年に刊行され何やかや話題を呼んだ呉善花の『スカートの風』。とは、いへ。書名まで挙げ『スカートの風』を切り出しておいて、通俗的未満に他愛ない処女膜談議から、冴木直の「複雑なんだよね」の一言で雑に収束して済ます辺りが、流石の大御大。といふか、よもやまさか公開題がそこから流れて来てゐようだなどと、夢にも思はなかつた。寧ろ小林悟の「女子大生 スカートの中」といふ一作が、呉善花の『スカートの風』をフィーチャーしてゐるかも知れないと考へる方が、エスパーでなければ頭がおかしいかとも思ふが。
 兎に、角。白都翔一と、何故かトメに座る朝田淳史は潔く御役御免で退場した後半。由香利を捜すべく再び下田に入つた亜貴子と千浪が、プリミティブにも由香利の名を大声で呼ぶと、宿の窓から浴衣の由香利がしかも手を振り元気に応へるシークエンスには度肝を抜かれた。大声で呼ぶのかよ!え、呼んだらゐんのかよ!?大wwwww御wwwww大wwwww、この際草でも生やす以外に、もうどうしろつていふんだ、小屋ならリアルに卒倒してゐた気がする。以降は人外のタフネスを大発揮した柳川が、由香利に次いで亜貴子と千浪も連破。それ、なのに。空前絶後の楽天性でヨリを戻すと、改めて『スカートの風』流しの三人仲良く浸かつた湯船にて、TKBで手打ちするラストはグルッと二三周して圧巻、映画をバターにしてしまへ。散発的にしかも果てしなく遠い超俯瞰を繰り出し、柳田“大先生”友貴も大御大のスーパーフリー作劇を補強する。尤もオッパイを三枚並べた布陣は矢張り強力で、裸映画的には水準以上に安定してのける離れ業は、正方向に小林悟なればこそ。同じ純粋裸映画でも、不条理に詰まらないだけの珠瑠美に対し、ベクトルの絶対値―正否は等閑視する―だけは無闇に馬鹿デカい破壊力で楽しませて呉れる小林悟との間には、これでそれでも決して越えられない壁が、幾枚と連なつてゐるのかも知れない。


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