真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 とれたて純白汁」(1995『痴漢電車 開き上手の女』の1999年旧作改題版/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ プロ/録音:シネ・キャビン/フィルム:AGFA/現像:東映化学/協力:上野スターミュージック/出演:井上みか・仁科愛美・樹かず・山本清彦・太田始・港雄一・貴奈子・杉原みさお・吉行由実)。聞き上手ならぬ開き上手の女とは、地味に洒落た旧題をつけたものだ。それに引き換へ、新題の取つてつけた藪蛇感。
 主演女優、といふか要は当時現役の踊り子を乗せ回転するストリップ小屋「上野スターミュージック」の舞台にタイトル・イン。因みに上野スターミュージックは移転兼シアター上野に改称、現存してゐる。
 クレジット時からサクサク痴漢電車、ジェームズ・ディーンTのケンジ(樹)が吉行由実に接触する。軽く攻め込んだ上での決め台詞が、「僕のジュニアはビッグだよ、試してみる?」。吉行由実に自慢のジュニアを捩りあげられ、ケンジは轟沈、何て馬鹿馬鹿しいシークエンスなんだ。「これでいいのだ」そんな伊集院光のシャウトが、何となく胸の奥に響いた。通過駅のホームを車内から抜いた適当な画を挿んで、改めて“ヌード劇場 上野スター 会場11時30分”の看板。真奈美(井上)のステージに、守男(太田)が食ひ入る。ここから暫し、守男が自宅の窓から真奈美の部屋を双眼鏡で覗き、覗かれてゐるのを知る真奈美が見せつけるかのやうにといふか現に見せつけて戯れに踊る様と、進行中の真奈美のステージとがランダムに、あるいはグッチャグチャに、要は出鱈目に連ねられ序盤にして早くも、映画の底は完全に抜ける。グルッと一周したへべれけさがフリーダムに到達する瞬間に、思はず感動してしまひさうになる。一方再び痴漢電車、ケンジが懲りずに杉原みさおと開戦。杉原みさおはケンジの決め台詞に二つ返事、ヒモ志望の痴漢師―この清々しいまでのクズ造形!―のケンジはホテルでオトした杉原みさおが美容師であるのを知ると、「これで俺も髪結ひの亭主だ」とほくそ笑む。小林悟の映画を見てゐて、よもやさういふシネフィル臭のする小ネタが飛び込んで来ようなどとは思はなんだ。
 配役残りこの人も上野スター動員の仁科愛美は、真奈美の踊り子仲間・サツキ。本業はストリッパーだけにお芝居の方はお察しの井上みかに対し、まだしも普通に見てゐられる、肉は随分余つてるけど。山本清彦は真剣交際してゐるつもりのサツキを、院長の娘との結婚を決め遊び捨てる鬼畜医師・ショウタロウ。そして港雄一が、今作最大の謎。遅い退勤、同僚(国沢実)の呑みの誘ひを断り、吉行由実はくたびれて電車帰宅。港雄一は車内にて大股開いて寝こける吉行由実を、眉をピクピクさせロック・オン。降車後尾行した吉行由実を追ひ詰め、さあてここから港雄一が吉行由実を手酷く凌辱する、品性下劣な琴線を激弾きする濡れ場の火蓋が切られるのかと思ひきや、白パンティを売つて呉れと懇願するオチは幾ら小林悟の仕事とはいへあまりにも正体不明。トメに座つておいて結局吉行由実が脱ぎもしない上に、港雄一と内トラの鬼・国沢実まで動員しておきながら、何の意味があるのか全く判らないにもほどがある。気を取り直して貴奈子が、サツキが捕獲したケンジに籠絡させる、ショウタロウ婚約者。
 誰しもが誰かしらに怯えてゐるかのやうなせゝこましいばかりの昨今、世界が小林悟の映画みたいにフランクであればいいのにとさへ偶さか思へる、大御大・小林悟1995年全十二作中第七作、ピンク限定だと十作中第五作。太田始のビリングは甚だ中途半端にせよ、井上みかとの絡みで主人公は真奈美と守男の二人の筈なのに、二人の物語は混線してゐるのか寧ろ断線してゐるのやら判別出来ない木端微塵な繋ぎの中何時しか埋没、するどころかそもそも満足に起動すらしてゐない。対して電車痴漢で夢のヒモ生活を目指すケンジは勝手に独走、わざわざ飛び込んで来た港雄一が木に竹さへ接ぎ損なふある意味壮大なミステリーを経て、明後日だか一昨日なハイライトはケンジV.S.貴奈子の攻防戦。最中互ひのモノローグで清貧な暮らしに憧れる貴奈子と、お嬢様をゲットしてこれでリッチだとほくそ笑むケンジとが華麗に擦れ違ふのは、凡そ大御大映画らしからぬ気の利いた一幕。実は依然ヒロイン?が痴漢はおろか電車自体に乗りもしないまゝ、水が低きに流れるが如く幕を閉ぢる一作であつたとて、だから「これでいいのだ」と達観したのか諦観しかけた終盤正にギリギリのタイミング。超絶の高速スライダーよろしく鋭く捻じ込んだ急展開で、純然たるストーカーにしか見えない守男の恋路がまさかの成就。どつか行かうかと大雑把な導入で残り尺正味一分漸く電車に揺られた二人が、憐れケンジは終に噛ませ犬に、固く手を握り寄り添ふオーラスは思ひのほか綺麗に決まる。外れきつた箍をそれはそれとして吟味しようかとしたところ、予想外に一篇をスマートに締め括つてみせる辺り、小林悟といふ大御仁、何処までも観るなり見る者を裏切るか鼻を明かさないと気が済まないのか。


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